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アトリエの中に居た女性がドアを開けた。
堀田、白井、そして手錠をかけられた杉尾が中に入ると、女性はすぐにドアを閉め、鍵をかけた。
里奈と杉尾の目が合った。
里奈は「あっ」と小さな声を上げた。
昨夜、張り込んでいた六本木の店の前で会ったばかりだ。
杉尾は忌々しげな顔をした。
堀田は腕から血を流しながら、白井に肩を抱かれ、アトリエの中央へと進んだ。
堀田の歩いた後に、血の跡が点々と続いている。
女性が椅子を差し出した。
苦しそうな表情を浮かべながら、堀田は腰かけた。
白井はスマートフォンを取り出し、電話をかけようとした。
「やめろ!警官も救急車も呼ぶな。
来ても殺されるだけだ」
堀田が叫んだ。
「しかし」
白井は不安げな顔で堀田を見つめた。
同時に、悔しそうに唇を噛みしめた。
「心配するな、大した傷じゃない。
時間はかかるかもしれんが、特殊部隊に来てもらおう。
それより、割れたガラスの外を見張れ。
奴らが撃ってくるかもしれんぞ」
女性はどこからか純白の布を持ってくると、破いて堀田の片腕を縛った。
布は血でみるみる赤く染まった。
「やつら、どうしてここへ来たんだ」
白井が言った。
割れた窓ガラスの側の壁に貼りつくように立ち、外の様子を伺っている。
その手には、拳銃が握られていた。
「絵だ。桐原が描いた絵を処分しようとしてるんだよ」
杉尾が言った。
アトリエの中の、少し離れた椅子に座っていた。
白井、それに里奈もハッとした表情を見せた。




