266
「開けろ!てめえ、ふざけるな。
俺を誰だと思ってるんだ。
こっちは警察だぞ。警察手帳が見たけりゃ見せてやる。
さっさと開けろ!
開けねえなら逮捕するぞ」
外の男は怒鳴り声を上げると何度もドアを叩き、ドアノブも何度も回した。
女性はドアの前に立ったまま、ガチャガチャ動くドアノブをじっと見ている。
執拗な男の声と音はさらに続いたが、しばらくして止んだ。
女性はやはりドアの前に立っていた。
一方、里奈は何も出来ず、じっと椅子に座ったままでいる。
華奢な身体は微かに震えていた。
カツカツという音がした。
革靴がコンクリートの上を移動する音だった。
直後、凄まじい音がして、窓ガラスが割られた。
里奈は悲鳴を上げ、テーブルの下に潜り込んだ。
「さっさと開けろ!そうすれば危害は加えねえ。
開けるまで、こっちも止めねえぞ」
再びガラスが割れる音がした。
別の窓ガラスだった。
暗がりの中、割られたガラスの向こうで、男がバールのような金属の棒を手にしているのが見えた。
車から取ってきたらしかった。
不意に、ドアの外で別の男の声がした。
すぐに、2人の男が揉み合っているのが聞こえてきた。
「何をする、邪魔するな、放せ」
ガラスを割った男の声が響き渡った。




