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「何を確かめたかったの?」
女性は里奈に身体を向けた。
かすかに笑みを浮かべているように見えた。
「何をって、それは・・・・・・。
それより、あなたは誰なんです?
どうして桐原さんのアトリエにいるんですか?
彼は亡くなったのに」
里奈は、じっと女性を見据えた。
女性はコンロの火を止めるとカップにお湯を注ぎ、里奈の前に持ってきた。
部屋の中にコーヒーの香りが立ちこめた。
里奈は、動物園でシロクマの絵にコーヒーをこぼしてしまったことを思い出した。
「大切な時間をこの場所で過ごしたいと思ったの。
この場所以外に考えられない。
彼は、私が死なせてしまったようなものだから」
女性は自身のカップをテーブルに置き、椅子に腰かけた。
目の前の女性が落ち着き払っていることに、里奈はいら立ちをつのらせた。
「あの、何を言ってるのか、私にはわかりません」
「彼が言ってたわ。
あなたが妹にそっくりだって。
だから、どんなことがあっても守りたいって」
『妹』という言葉に、里奈は何故か反発を覚えた。
「あなたは桐原さんとどういう関係なんですか!」
里奈が激しい口調でそう言った時、ドアの呼び鈴が鳴らされた。




