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はやる気持ちを抑え、建物に近づいた。
もちろん、足音を立てぬよう気をつけながら。
アトリエ兼事務所という名刺の記載から、大きなガラスが張り巡らされたミニ美術館といった外観を、里奈は勝手にイメージしていた。
だが、実際近くまで来てみると、それは木造の、どちらかというと質素な建物だった。
窓ガラスはいくつかあるものの、どれも大きなものではない。
ただ、暗くてわかりづらいが、建物全体は青く塗られていた。
この中で桐原さんが絵を・・・・・・。
心臓が強く鼓動を打つのが感じられた。
それにしても、どうして電気が点いているのだろう。
彼が亡くなってから、ずっとそのままになっている?
それとも、中に誰か居るの?
窓ガラスから中を覗いてみようかと思ったが、何故か怖くて出来なかった。
里奈は、建物に一つだけあるドアの前に進んだ。
建物同様に木で作られ、青く塗られた一角にドアノブが取り付けられている。
少し視線を動かすと、ドアの横に呼び鈴があった。
里奈はほんの一瞬だけ迷った後、それを押した。
かすかにだが、こちらに向かってくる足音が中から聞こえた。
それが止まると、ドアノブが回された。
里奈は極度の緊張状態で、ドアが開くのを待った。




