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里奈は諦めて引き返そうとした。
振り向くと、暗がりに今歩いてきた来たばかりの道があった。
里奈は、そのまま歩き出した。
だが、数歩進んだところで足が止まった。
公園と周辺は調べ尽くしたけど、池の調査が終わるまで、立ち入り禁止は解けないって聞いたわ。
でも、それが終わるのはいつになるか、まったく目途が立ってない、とも。
立ち止まってから30秒ほどが過ぎた。
里奈は、再び振り向いた。
行くなら今しかない。
クマ・・・・・・?
クマなら昨日会ったばかりよ。
里奈は、張り巡らされたロープの手前まで進んだ。
そこで、誰かに見られていないか、何度も周囲を見回した。
その後、ゆっくりと身を屈めると、ロープの下をくぐり抜け、向こう側へと足を踏み入れた。
里奈は、音を立てぬよう慎重に進んだ。
普段なら、夜の散歩やジョギングをする人がいるのかもしれないが、人影はまったく見えず、静まり返っている。
警備の者に見つかるのではないかという恐怖と、突然巨大なクマが現れるかもしれないという恐怖で足が震えた。
5分ほど歩いたところで、目的のアトリエらしき建物が見えてきた。
井沢公園までは100mほどの距離だった。
「立ち入り禁止のはずなのに、どうして?」
驚いたことに、小さな建物の内部に、薄暗い照明が灯されているのが見えた。
もちろん、里奈はそんなことなどまったく予期してはいなかった。




