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午後6時を回り、辺りは急に暗くなってきた。
古い住宅街の路地の灯りでは、すれ違う人の顔の識別も難しくなっている。
里奈は、目的地である桐原のアトリエのすぐ近くまで来ていた。
電車とバスを乗り継いでここまで来た里奈だったが、自分の間抜けさ加減に嫌気が差していた。
そもそも、どうやって桐原のアトリエに入るのか?
当然、ドアには鍵がかかっているに違いない。
名刺には電話番号が書いてあるから、中に居る者に連絡して開けてもらおうか?
しかし、桐原が死んでしまった今、中に人など居るだろうか?
外からガラス越しにでも中の絵が見れれば、写真に撮れるかもしれない。
だが、辺りは暗くなっている。
灯りになるものも準備していない。
仕方なく、里奈は途中の店で懐中電灯を購入した。
無駄になるかもしれないが、それはそれでしょうがない。
あらかじめ設定したスマートフォンのマップに従って進んで行くと、住宅街から少し離れた道路沿いに、井沢公園への道筋を示す看板が立っている。
その先には、黄色の目立つテープとロープが延々と張り巡らされていた。
「あっ」
里奈は、テレビや新聞、ついでに里奈の勤める啓示社でも取り上げたクマ出没の事件を思い出した。
「ここだったんだ」
事件後、井沢公園周辺は立ち入り禁止区域となり、今でもそれは解かれていなかった。




