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「もちろんですよ。
そもそも、殺したのは玉川さんが雇った男でしょう。
ヤツを殺して逃げるところを、張り込んでいた刑事が捕まえたんですから」
「だったら、どうして、こんなことが起きてるんです?
こんなことが出来るのは、あの男しかいない」
「さ、さあ、それは私にも。
しかし、あの桐原という男が死んだことは確かです」
杉尾が言うと、玉川は黙り込んだ。
何かを思案しているようだった。
杉尾はスマートフォンを耳に当てたまま、玉川の言葉を待った。
「今回のことは、分からないことだらけです。
だが、桐原が手にした絵から毒蛇が抜け出して半グレ連中を襲う映像を、私はこの目で見たし、それは記録にも残っています。
それで思うのですが、ひょっとして、桐原本人ではなく、桐原の描いた絵が人を殺しているのではないですかね」
「え?絵が、ですか?」
「たとえ、描いた者が死んでも、絵が残っていれば、人を殺すことが出来るのではないかと」
「まさか」
「死んでも、ヤツの念が絵に残っていて、危険な生物が絵から抜け出してくる。
そうとでも考えなければ、これは説明出来ない」
杉尾は言葉が出なかった。
「早急に、桐原が描いた絵を処分してもらえませんか。
もし、私の考えが正しいなら、私も映美も殺されるかもしれない」
「信じられません、そんなことが」
「その信じられないことが起きて、人が何人も死んでるんだよ!」
玉川は怒鳴り声を上げた。
杉尾は「ひぃっ」と声を上げ、目の前に人が居ないにもかかわらず、頭を下げた。




