239
桐原京介が殺された事件には、杉尾自身が関わっている。
「あの事件はすでに犯人が捕まった。もう終わったことだ」
杉尾は不機嫌そうに言った。
「私は疲れてるんだ。
それに、このところ事件が続いたおかげで忙しくてね。
もう、いいかな」
杉尾はタクシーに乗り込もうとした。
「私、ずっと見張ってたんです。あの店に入る時、あなたは小さな鞄しか持っていませんでした。でも、今あなたは大きな紙袋を持っています。
その中には何が入ってるんですか?」
里奈はじっと杉尾を見据えている。
杉尾は思わず紙袋を強く抱き寄せた。
紙袋の表面にシワが刻まれた。
「あの店に玉川という人が入って行きましたね。
あなたとはどういう関係なんですか?
その紙袋とも関係があるんですか?」
「くだらんことを。
これは店からもらった土産の品だ」
杉尾は怒鳴り声を上げると、構わずタクシーに乗り込んだ。
里奈は後部座席に駆け寄ったが、杉尾が住所を運転手に告げると、すぐに車が走り出した。
里奈から逃れることは出来たが、杉尾のいら立ちは収まらなかった。
杉尾はスマートフォンを取り出し、電話をかけた。
相手はなかなか出ず、杉尾はタクシーの後部座席で体を小刻みに揺すりながら、車窓から夜の街を見続けた。
「はい、玉川ですが」
しばらくして電話に出たのは、玉川だった。




