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陽が沈んで、それほど過ぎてない。
ここ六本木で人が増えるのはこの時間帯からである。
数え切れぬ程の店がひしめく界隈に、欧州の宮殿を模した外観の高級クラブがある。
会員制で、それなりの金を持つ者しか入ることは出来ない。
この夜、一人の客がタクシーで乗りつけた。
店内に入ると、すぐに一人の女が出迎えた。
胸元の開いた派手な赤のロングドレスに身を包み、茶色の髪は高く巻き上げられている。
名前を伝えると、男はすぐに店の奥へと案内された。
店内は赤と黒で統一されている。
女について廊下を進むうち、照明は徐々に薄暗くなっていく。
男は、一度入ったが最後、2度と出られぬ魔界に足を踏み入れたような気がした。
女は、男を一番奥に設けられた個室に案内した。
この高級クラブでもVIPだけが入室出来る、特別な部屋だと言われた。
ノックの後で女がドアを開けると、一人の男が待っていた。
玉川勝正だった。
イタリア製オーダーメイドのスーツに身を包んだ玉川は、満面の笑みで案内された男を出迎えた。
「杉尾さん、本当にありがとうございました」
案内された男は、警視庁副総監の杉尾だった。




