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「くそっ」
白井は銃を抜いた。
撃った経験はあるが、もちろん、それは警察の射撃場でのことだ。
実戦では抜いたことも無い。
「こんな所で撃っていいのか?
誤って他の誰かを撃ってしまったら、どうする?
誤って犯人を撃ち殺してしまったら、どうする?」
様々な思いが一瞬にして頭の中をよぎった。
しかし、気づいた時にはすでに撃っていた。
自分の意志ではなく、何か見えない力がそうさせたような感じだった。
前方を走っていた男が、つんのめるように倒れ込んだ。
白井の目にはそれが、映画の1シーンのようにゆっくりと映った。
倒れた男は、そのまま動かなくなった。
すると、停車していたワンボックスカーのドアが閉まり、男を置き去りにしたまま発車した。
白井の呼吸は、自身で制御出来ないほどに荒くなった。
このまま息が止まるのではないかとさえ思われた。
それでも、スマートフォンを取り出すと、走り去る黒のワンボックスカーの後部を3秒ほど撮影した。
すぐに、篠原が倒れている男に追いついた。




