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「逃げ切れると思うなよ」
白井は男を斜め後方から追っていた。
男は時折振り返り、追ってくる篠原を見たが、白井には気づいていないらしい。
血の着いたナイフを持つ男の行く手から、声を上げて人が逃げていく。
恐ろしい光景ではあるが、一方で、ナイフを手にしていることが、男の走る速さを鈍らせてもいた。男と白井との距離は、徐々にだが縮まっている。
このままなら、じきに追いつける。
あとは、人質さえとられなければ、捕まえられる!
白井がそう思った時、男は走りながら、手に持つ血の着いたナイフを叩きつけるように投げ捨てた。
なに?
凶器が無ければ、こちらを威嚇することも出来ず、通行人に害を与えることも無い。
間違いなく捕まえられる!
駆ける白井の全身に力がみなぎった。
だが、男の前方に目を移した瞬間、愕然となった。
そこには黒塗りのワンボックスカーが止まっている。
さらには、エンジンもかけられたままで、後部座席のスライド式のドアが開いていた。




