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それまでの不安げな顔から、ほっと安堵したものになり、視線の先に向かって片手を上げ、小さく飛び上がった。
その後、そちらに向かって頭を下げた。
白井はキャップで目を隠したまま、里奈が見ている先に視線を動かした。
大きめのバッグを抱えた男が、こちらに向かって歩いてくる。
奴だ!
全身が強張り、手の平が汗ばんだ。
足が情けない程がくがくと震え、止まらない。
こんな時に堀田が側に居てくれたら、と思わずにはいられなかった。
それでも、自分がやるべきことをやるしかない。
自身とは対照的に、男はずいぶんとリラックスしているように見える。
上下黒の服にサングラス。
里奈から男についての話を聞いた時には、チンピラのようなイメージを抱いていたが、実際に見ると、その格好が意外にも似合っていて、漫画かアニメの登場人物にすら思われた。
男はどんどんこちらに近づいてくる。
動き出すのは、里奈と男が接触してから。
それは、堀田と事前にした打ち合わせで決めたことだ。
その際、篠原と2人で男が逃げられない形にする。
ただし、あの里奈という女性の安全が最優先事項。
そういうことになっていた、はずだった。




