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「里奈さん、気にしないでください」
「でも、せっかく描いた大切な絵をこんなに汚してしまって。
どうしたらいいのか、私みたいな馬鹿は死んだ方が」
最後は言葉にならず、里奈は泣きながらしゃがみこんだ。
「大丈夫ですよ。また描けばいいんです。さすがに今日はもう疲れて無理だけど、また描けばいいだけですから。それに、この絵も汚れてはいるけど、見れないわけじゃない。幸い、コーヒーもたいしてこぼれなかったし」
桐原の声はすぐ後ろから聞こえた。
一緒にしゃがんでいるらしかった。
里奈の目から涙がさらに溢れた。
「でも」
「また、ここへ来ます。ホッキョクグマだけでなく、他の動物も描かなければなりませんので。その時、よかったらもう一度会いませんか?」
思いもよらぬ言葉だった。




