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里奈も椅子に腰かけ、2人はアイスコーヒーを飲み始めた。
しばらくの間、どちらも口を開かなかった。
「あの」
「はい」
「さっきのシロクマの絵、また見せてもらってもいいですか?」
「いいですよ」
桐原は、バッグからスケッチしていたホッキョクグマの絵を取り出した。
「わあ」
あらためて絵を目の当たりにした里奈の瞳が輝いた。
「どうぞ」
桐原は、里奈の前に絵を置いた。
「やっぱり凄いですね」
里奈は中腰になり、桐原が描いたホッキョクグマの絵を夢中で眺めた。
躍動感に溢れ、絵の中のクマが今にも動き出すのではないかと思われた。
さっきのって、何だったの?
ふと、桐原と駆け出す前、数人の見物人が見つめる前で、絵の中のクマが動いたように見えたのを思い出した。
あれは一体・・・・・・?
絵の中のクマが動くのは、里奈だけでなく、その場に居た大勢の人が目撃していた。
何か、手品のようなものだったのだろうか?
里奈がそんなことを考えていた時、ひじに何かが当たった。




