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「きりはらきょうすけ・・・・・・」
里奈はきょとんとした顔で、男を見つめた。
男は鞄の中から名刺を取り出し、里奈に手渡した。
そこには、『桐原京介』とあり、事務所兼アトリエの住所と連絡先が記されていた。
「桐原京介さんですか、私は沢田里奈です。
さっき名刺を差し上げましたけど、どうせ憶えてもらってないですよね」
「いえ、名前と顔はしっかり覚えました」
桐原と名乗った男は、かすかに笑い声を上げた。
「本当ですか、嬉しいです」
里奈も素直に笑みを浮かべた。
「あの、ちょっと待っててください」
そう言うと里奈は、桐原に背を向け、走り出した。
だが、数歩駆け出したところで足を止め、振り返った。
「あ、座って待っててください」
桐原にそう言うと、里奈は軽い足取りで再び走り出した。




