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時間が経ち、絵が完成に近づくと、男の周りに人が集まりだした。
初めは2、3人だった見物人が、今では10人近くにまで増えている。
だが、男はそれすらも気にしない様子で、絵に没頭していた。
やがて一段落ついたのか、男は顔を上げ、大きく息を吐いた。
一方で、男を取り巻く人々は、まだ絵に見入っている。
「あ・・・・・・」
里奈の口から思わず声が漏れた。
視線の先にあるキャンバスでは、描かれたクマが動き出し、水の中から上がったばかりの犬がするように体を震わせ、水飛沫を飛ばした。
里奈は無意識のうちにカメラのレンズを向け、シャッターを押した。
その後、周りを見回すと、人々はみな呆気に取られた顔をしている。
視線を戻すと、ホッキョクグマはまだ、ゆっくりとキャンバスの中を歩いていた。
少し遅れて、男を取り囲んでいた人々がざわめき始めた。




