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不意に、男が笑いだした。
里奈は、きょとんとした顔で男を見た。
「冗談ですよ。まさか、そんな理由で描く蛇を選んだりはしません。
今、この蛇を描いているのは、以前にも描いたことがあったからです。別の場所でですけどね。それだけです」
「なんだー、そうだったんですね。脅かさないでくださいよー」
「怖がらせてすみません。
調べているうちに詳しくなったものですから、ちょっと驚かせたくなって。
それに、里奈さん、でしたっけ?可愛らしいから」
「もおー、からかわないでください!」
里奈はそう言うと下を向いた。
ほおが赤くなるのがわかった。
少し間を置き、あらためてガラスケースに入った毒蛇たちを見てみた。
恐ろしい毒蛇たちが、少しだけ親しみやすく思えた。




