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「よくお会いしますね」
男はそう言うと、サングラスを外した。
その目は意外にも優しげで、里奈の緊張は一気に和らいだ。
「そうですね」
里奈は笑顔を作り、軽く頭を下げた。
「爬虫類とか、興味がおありなんですか?」
「ええ、まあ、はい」
里奈は気の抜けた返事をしたが、すぐに、
「あ、全然詳しくはないんですけど、面白いなーと思って」
そう言い直し、バッグをごそごそと探って自身の名刺を取り出した。
「あたし、こういう者です。今、雑誌のカメラマンをしてるんです」
男は名刺を受け取った。
「若いのにそんなお仕事をされてるなんて、優秀なんですね」
「そんな、全然です。それより、前に見たサメもそうですが、本当に絵が上手いんですね。蛇も好きなんですか」
「ええ」
男は里奈の名刺を胸ポケットに入れると、サングラスをかけ、描いていた蛇に向き直った。
「毒蛇でも?」
里奈は、おそるおそる尋ねた。
「ええ。強烈な毒を持ってるヤツが、特にね」
一呼吸おいて男は答えた。




