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「おまえ、こんな時にふざけんてんのか」
「ふざけてなんかないったら」
徳丸は下から里奈の顔を見上げた。
もともと色白だった顔は、すっかり青ざめていた。
「うわああー」
サメの攻撃はなおも続き、そのたびに男が悲鳴を上げた。
だが、その声はしだいに弱まり、プールの水はますます赤く染まっていく。
「何やってんだ、早く写真を撮れ」
「え?そんなこと言ったって、こんなの」
「いいから早くしろ」
「は、はい」
里奈は徳丸に肩車されたまま、カメラのシャッターを切った。
男の体はしだいに水中に引きずり込まれていき、断末魔の叫びが上がった後、完全に没した。
激しく気泡が上がった後は、水面に突き出たサメの背びれが、赤く染まったプールを動き回るのだけが見えた。
屋敷の中から男たちが出てきた。
それと同時に、プールからサメが消えた。
入れ替わるように、無残に喰いちぎられた男の死体が浮かんできた。
大の男数人が、プールサイドでパニックになっていた。
徳丸に肩車されたままの里奈は、言葉を発することはおろか、考えるという行為が出来なくなっていた。




