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外から見えない塀の内側では、男がまだプールに浮かんだマットの上に寝そべっていた。
突如、バサッという音がした。
男は顔の上に乗せていた雑誌をどかし、上半身を起こすと、音のした方に顔を向けた。
視線の先、プールサイドには、男がかつて見たことも無い姿をした鳥がいた。
「な、なんだ、これは?」
重量感のあるその鳥は、プールサイドを止まり木のように使い、男をじっと見ていた。
くちばしには、紙がくわえられていた。
「なんだ、こいつは!
まさか、危ねえヤツじゃねえだろうな」
男は顔を引きつらせながら、水中に手を入れると、鳥のいるプールサイドとは反対側に向かって、そーっとマットを漕ぎだした。
鳥は、男をじっと見ていたが、不意に上体を屈めると、くわえていた紙を放した。
紙はプールの上に浮かび、しだいに沈んでいった。
男は鳥に背を向けたまま、こわごわ手で水を漕いでいた。
男の乗ったマットは、ほんの少しづつ反対側のプールサイドに近づいていた。
男は振り返った。
鳥の姿はすでにそこには無かった。
男は安堵したようにため息をつき、プールサイドに手を伸ばした。
あと少しで手が届こうとしていた。
その時、マットがかすかに揺れ、男の背中に水飛沫がかかった。




