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「こりゃ、凄え」
出版社に戻っても、徳丸の興奮は収まらなかった。
現像された写真には、恐ろしいまでの迫力で海面を進むサメの姿が写っていた。
「おまえ、なかなかやるじゃねえか。
撮り始めたばっかにしては上出来だ。
でかくして、家に飾りてえような写真だな」
徳丸は、片手に持った写真を頭上に掲げ、子どものように目を輝かせた。
里奈は、滅多に出ない徳丸の褒め言葉も上の空で聞いていた。
現像された写真の束から、実物のサメを写したものとは別の写真を懸命に探していた。
「あ・・・・・・」
里奈が手を止めたのは、サメの絵を、男の背後から撮った写真だった。
そこには、コンクリートの上に腰を下ろした、男の後姿、さらに、キャンバスとその上に置かれた紙が写っていた。
だが、紙の上には揺れる波が描かれてあるだけで、サメの姿は無かった。
「そんなことって・・・・・・」
里奈は愕然としたまま、手にした写真を見つめた。
「お疲れ。本当は2人だけで打ち上げと行きてえところだが、今回のはそんなに儲かる仕事じゃねえからな。でも、ちっとは見直したぜ」
徳丸は里奈の肩を軽く叩くと、上機嫌で部屋を出て行った。
里奈は写真を手にしたまま、しばらく立ち尽くしていた。




