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ふと気づくと、男は道具を片づけているところだった。
里奈は、男に話しかけようとした。
だが、まったく言葉が浮かばない。
男は立ち上がると、道具類とキャンバスの入った鞄を持ち、立ち去ろうとしていた。
「あ、あの」
里奈は、男の背後から声をかけた。
「何か?」
男は立ち止まると、かすかに振り向き、小声で言った。
「いえ、別に」
里奈は、何も言えなかった。
男は、そのまま立ち去っていった。
里奈は、茫然とその場に立ち尽くした。
「何やってんだ、こんな所で」
徳丸の声で、里奈はようやく我に返った。
すでに陽が暮れようとしていた。
事故を防ぐためのロープが岸から数メートルの位置にずっと張られていた。
人々の姿はもはや無く、数名の警官が人が海に近づかぬよう、警戒態勢をとっていた。
「それにしても凄かったなあ、あの迫力」
徳丸はまだ興奮冷めやらぬ様子だった。
「とにかく、社に戻って現像だ。
今回はちゃんと撮れてるんだろうな?」
「はい・・・・・・、多分・・・・・・」
里奈は歯切れ悪く言った。




