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男は時おり海面に目を向けながら、一心不乱にキャンバスに留められた紙に向かい筆を走らせている。
里奈は、その姿に一層興味をそそられた。
里奈は音を立てぬよう慎重に近づくと、背後から男の描いている絵を覗きこんだ。
そこには、海中を泳ぐサメが上から覗き込んだ構図で描かれていた。
まるで、本物のサメが泳いでいるかのような、迫力を感じさせる絵だった。
「すごい、まるで生きてるみたい」
里奈は小さくつぶやくと、カメラのレンズを絵に向け、シャッターを切った。
男はまったく気づかぬ様子で、スケッチを続けていた。
里奈はカメラを顔の前から外すと、身体を屈めて再び絵を覗きこんだ。
「まるで本物みたいですね」
思わず声をかけていた。
「どうも」
男は里奈に背を向けたまま、そっけなく答えた。




