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「いや、それにしても凄えな」
たった今食われかけたにも関わらず、徳丸は四つん這いのまま堤防の端まで這っていき、海を覗き込んだ。
里奈のことなど少しも気に留めることなく、興奮した顔で海中のサメに見入っている。
里奈はため息を吐くと、辺りを見回した。
すると、少し離れた場所、ここよりも、さらに海上へと突き出した堤防の上に座る一人の男が目に止まった。
「あの時の・・・・・・」
それは、鳥を、徳丸によれば最強の猛禽類であるオウギワシを、里奈が林の中で見失った際に、出会った男だった。
男は以前と同じく黒づくめの服に身を包み、堤防のコンクリートの上に座って何やら熱心に絵を描いていた。
「先輩、先輩」
里奈は男に視線を向けたまま、徳丸の袖を数度引っ張った。
「何だよ、うるせえな」
徳丸は、相変わらず興奮した様子で悠然と泳ぐサメに見入っている。
「んもう」
里奈は両手でカメラを持つと、男の方へ歩き出した。
「ホオジロザメの泳いでいる姿が日本で見れるなんてなー。
今まで生きてきた甲斐があったってもんだ」
徳丸は里奈が離れて行ったのも気づかず、はしゃいでいる。
一方、里奈は、吸い寄せられるように男に近づいていった。




