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徳丸はどんどん人だかりをかき分け進んでいき、遂には先頭まで達した。
「お、おぉぉぉぉー」
海面を目の当たりにした徳丸は、子どものように声を上げた。
快晴の下、穏やかに波打つ中を、ヒレだけを海上に突き出した巨大なサメが悠然と泳いでいる。
海水の濁りも無いためか、堤防の上からでも鼠色の背中がはっきりと見えた。
「こりゃあ、イタチザメか?いや、ホオジロザメだな。
それにしても、でけえ。
5メートル、いや、それ以上か」
知ったかぶりをする小学生のように、徳丸は大声を出した。
この時、背後から徳丸に近づく者がいた。
徳丸に同行していた里奈である。
徳丸に置いていかれた里奈は、徳丸とは対照的に、小さな身体で人だかりを縫うようにして進んでいた。
最後は、しゃがみこむと四つん這いのまま、先頭へと飛び出した。
だが、人だかりから抜け出た途端、今度は人だかりに強く押し出され、里奈は前方につんのめる形となった。
里奈の身体は、徳丸の大きな背中に思い切りぶつかった。
「きゃっ」
「うわわっ」
反動で、徳丸は態勢を崩し、思わず前方に足を踏み出した。
倒れ込んだ徳丸の手は、堤防の端にかかった。




