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徳丸と里奈は、現像された写真を受け取るため、社の廊下を歩いていた。
里奈が小動物のようにちょこちょこ歩くのに対し、徳丸はだるそうに進んで行く。
「何か言ってくださいよ」
里奈は、なおも徳丸に食ってかかった。
徳丸は、珍しく黙り込んでいた。
2人は現像室の担当から、里奈が前日に撮影した数十枚の写真を受け取った。
徳丸は、その場で一枚一枚写真をめくった。
一方の里奈は、徳丸の横で、まだイラついていた。
写真を見ているうちに、徳丸の表情がみるみる変わっていった。
「偉そうなことは、人並みに仕事が出来るようになってから言うんだな」
徳丸は、叩きつけるように里奈に写真の束を渡すと、足早にその場から立ち去った。
「偉そうなのは、どっちだっつーの」
残された里奈は顔をしかめて悪態をつくと、渡された写真に目を通していった。
「あれ?」
最初は不思議に思いながら見ていた里奈だったが、しだいにその顔から血の気が失せていった。
「写ってない。これにも、ここにも」
里奈は渡された写真の束を次々にめくっていったが、そのどれにも前日撮影したはずのオウギワシは写っておらず、ただ生い茂る樹木があるばかりだった。
「そんな、間違いなく写したはずなのに・・・・・・」
里奈はしばらくの間、呆然とその場に立ち尽くしていた。




