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翌日、出勤した里奈は、前日に撮影したフィルムを年季の入ったカメラから取り出し、現像室に提出した。
事件の現場となったホテルの様子を写したものも幾つかあったが、ほとんどは徳丸の指示で撮ったオウギワシの写真だった。
カメラマンの中には、古いカメラを好んでつかう者も居るが、里奈が勤めている啓示社の場合はそうではない。
新しいカメラを購入する予算が無いために、新規購入が見送られているのである。
一応、建前上は、「古いカメラの方が味がある」という社長の言葉を尊重していることになってはいるのだが。
ただ、里奈が使っているカメラはマニア垂涎のものではある。
もちろん、初心者の里奈がその価値を理解しているはずもない。
徳丸がいつも通りに遅れて出勤すると、2人はデスクに呼び出され、こっぴどく叱られた。
前々日に起きた事件現場の取材をさぼっていたことが、発覚したためである。
「先輩の指示に仕方なく従っただけなのに、どうして私まで怒られなくちゃならなんですかっ」
デスクのもとを離れ、徳丸と2人きりになると、里奈は不満を爆発させた。
「昨日撮った写真なんて、鳥を写しただけなんだから、仕事には何の関係もありませんよね?
散々連れ回されたこっちの身にもなってくださいよ」
里奈の怒りはまったく収まらないでいた。




