111/341
110
「何、ボケッとしてんだ、おまえは」
徳丸に頭を叩かれて、里奈は我に返った。
「何すんですか、もう」
里奈は徳丸に叩かれた所を片手で押さえながら言った。
「何だぁ、男かぁ」
徳丸の視線の先に、遠ざかる黒づくめの男の姿があった。
「入社早々に男漁りかよ、やだねえ」
「そんなんじゃありませんっ」
里奈は、頬を大きく膨らませた。
「デスクから電話が入った。
帝王ホテルで人が殺されたんだと」
徳丸は、自分の顔の前で携帯電話のストラップをつまみ、左右に振った。
「え?」
「すぐ現場に行ってくれってよ。
俺たちが昨日の現場に行かず、ここに居たのは正しかったってわけだな」
徳丸は得意げに言った。




