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同じ頃、徳丸と里奈は、まだ林の中をさ迷っていた。
オウギワシとその巣を探していたのだが、いまだ見つけられずにいた。
「もう、止めましょうよお」
里奈は疲れ切った表情を浮かべていた。
猛暑の中、徳丸の勝手な言動に振り回され、華奢な身体で重いカメラや機材を運び続けていたのだから、当然である。
「馬鹿、何言ってんだ。
取材はどれだけ粘れるかが勝負なんだ」
「だって、これ、仕事じゃないじゃないですかぁ」
里奈が言った時、徳丸の携帯電話が鳴った。
徳丸は面倒くさそうに電話に出た。
里奈は立ち止まると、ため息をつき、ふと周囲に目を向けた。
その里奈の視界に、先程会った黒づくめの男が入った。
「あれは、さっきの・・・・・・」
男は、2人から少し離れたところを歩いていた。
里奈の目は、男に釘づけになった。
「一体どこへ行くの?
ううん、戻ってきたんだわ、きっと」
里奈がオウギワシを追っているうちに男に会ったのも、この辺りだった。
男は、そのままどこかに去って行った。




