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「むっ」
部屋の中からは、獣臭と血液が混じったような臭いがドア越しに流れてくる。
「お客さま、ご無事でいらっしゃいますか?
お客さま」
チーフは慎重に中の様子を伺いながら、さらにドアを開けていった。
緊張した面持ちの棒を手にしたもう一人のスタッフは、トラブルが起きた時にすぐ対処できるよう、武器の先端を部屋の中に向け構えていた。
数秒、まったく音のない静かな時が流れた。
2人は、部屋の中に一歩足を踏み入れた。
そこで足が止まった。
直後、
「いやぁぁぁぁぁ」
後ろから部屋の中を見ていた女の絶叫が響いた。
石橋は窓ガラスの下の壁に崩れ落ちていた。
全身が服の上からずたずたに引き裂かれ、がっくりと首が垂れていた。
「お客さま」
チーフは石橋のもとに駆け寄った。
見ると、喉に噛み切られたような傷があり、大量の血が流れ出ていた。
さらには、首も折られていた。
もちろん、絶命している。
壁のそこかしこに血が飛び散って付着し、絨毯の上には血の跡だけでなく、皮膚の一部や肉片、髪が落ちていた。
だが、部屋のすぐ外に居た複数の人物がその声を聞き、石橋本人を殺害したと思われる獣の姿は、どこにも無かった。




