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「なんじゃ、こりゃ」
石橋は惹きつけられるように、その絵をじっと見た。
描かれている虎は、こちらに牙を剥いていた。
「おかしな趣味だな」
石橋は、手にしていた紙を折りたたもうとした。
しかし、その手は止まった。
「ん」
突然、絵の中の虎の目が光り出した。
石橋はこの時、手の込んだ細工が絵に施されているのだと思った。
だが、それだけでは収まらず、続いて虎は、石橋に向かって唸り声を上げた。
石橋は驚き、怯え、思わず紙から両手を離した。
紙は、虎が描かれている面を上にしたまま、ゆっくりと絨毯の上に落ちていった。
一方、唸り声はドアの外に居る女と男性スタッフにも届いていた。
「今の何?」
ドアのすぐ前に立っている女は、スタッフの方を振り返った。
男性スタッフは緊迫した表情で、すぐさま前に進み出ると、ドアに耳を密着させた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
次の瞬間、石橋の尋常ではない叫び声が聞こえてきた。




