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「私、チーフに連絡するわ。
川原君は、猪とサルを追って」
女性を息を切らせながら言い、携帯電話を取り出した。
「わかりました」
「とにかく怪我しないように気をつけて。慎重にね」
女性は携帯電話を耳に当てたまま言った。
そうしている間に、サルは再び猪の背に登った。
男性は両手で台車を音を立てないように押しながら、猪に近づいていった。
サルを背に乗せた猪は、客室係とは反対方向に向かって走り出した。
「待てっ」
男性は小さな声で叫ぶと、台車を静かに押しながら後を追った。
猪の足は速く、差は開いていった。
猪は廊下の突き当りに来ると、スピードを緩め、横に曲がり、姿は見えなくなった。
男性は10秒ほど遅れて、同じ場所に辿り着いた。
万が一、猪が不意打ちをかけてくる危険性を考え、慎重に時間をかけて、猪が曲がった方向を覗き込んだ。
だが、猪もサルも、そこには居なかった。
ただ、高級絨毯が敷きつめられた廊下が、ずっと先まで続いているばかりだった。




