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第1章
不快な臭いが部屋に漂っていた。
以前、北海道のどこかの市場で嗅いだ生臭さに似ている。
だが、強烈さは、その時の比ではない。
それでも、寝ぼけ頭で寝返りを打つ。ほんの少し前まで、何か夢を見ていた気がする。
しかし、悪夢か否か、それすら思い出すことが出来ない。
「くちゅくちゅ」というかすかな音が聞こえた。
どこからか水が漏れているのか。
ここが寝室で、花瓶も無ければ、自分が寝酒をしないことにも気が回らなかった。
目を開けようとした。
一瞬、ある画像が脳裏に浮かんだ。
以前テレビで見た、巨大なイカを下から映した画像。
無数に吸盤があり、放射状に広がる頭足類の足と、その奥にある鋭いクチバシを持つ口。
これは今、リアルに俺が観ているものか、それとも妄想なのか?