人の本質って、環境が変わっても変わらないものですよ。
「アンタ、何やってるのっ!」
金髪碧眼の小柄な少女が、俺に向かって叫んでいる。
俺は思わず後ろを振り向く……ひょっとして俺の後ろに居る奴に声をかけたのかとも思ったのだが……。
「アンタよ、アンタ!何知らん振りしてんのよっ!」
やっぱり俺を指しているらしい……。
「ネルフィー様に言われて様子を見に来てみれば、やってること変わんないじゃないのよっ。何チマチマ生産なんかしてんのよっ!」
少女は俺に一瞥をくれると、さらに続けて喋り出す。
「大体Lv10って何よっ!アンタ今まで何してたのよっ!」
……えーと、この子はなんでこんなに怒っているんだ?
「あーっと、まだ言いたいことあるけど時間が無いわっ!いーい?次に来るまでに最低Lv30にはしておきなさいよ。後なんでもいいから武器のスキルを中級まであげておきなさいよっ、いいわねっ!」
その少女は、一方的に言いたいことだけを言って、あっという間に立ち去って行った。
「……何だったんだ、一体……ん?」
彼女が立っていた所に水晶の塊が落ちているのを見つける。
「これは……なんだ?」
俺は手にした水晶の塊を、しげしげと見つめる。
その時、俺の指先から水晶に魔力が流れる。
……水晶が光り輝き表面に文字が表示される。
『クエスト:マティルの洞窟を攻略せよ!』
「ユニーククエストか?」
俺はそう呟くと、その水晶を仕舞う。
マティルの洞窟……次の街の先にある洞窟で推奨Lvは30程度。
ただこのUSOではLvよりスキルの組み合わせと熟練度の方が重要になってくるので、それなりのスキルが揃っていればLvが低くても何とかなるし、逆にスキルが無ければ高Lvでも役に立たない。
「マティルの洞窟かぁ……まぁ、あそこで得られるアイテムを売ればホーム購入の資金にはなるか。」
最近同じことの繰り返しで飽きも来ていたし、気分を変えるにはちょうどいいかもしれない。
「だったら、まずは街の移動だな。」
そう思いつつ、俺は近くにある薬草を採集する。
「武器……ねぇ?」
俺は採集に使っていた鎌を見ながらそう呟く。
今まで、様々な武器を使用してきた。
片手剣はもとより、両手剣、大剣、ナイフに大斧、棍棒やメイスなどの鈍器や、弓やチャクラムなど遠距離系の武器なども使ってみたが、どれも今一つしっくりとこなかった。
しいて言えば遠距離攻撃軽の武器が多少はマシ程度ってところだった。
「どれでも一緒なら、コレでもいいかもな。」
俺は手にした鎌を弄びながら『鎌の心得』のスキル習得をする。
鎌を武器として使うためのスキルだ。
俺が手にしている小型の鎌は、どちらかと言えば投げつけて攻撃するのに向いているらしく、手にして戦うには、大鎌、鎖鎌などが武器には向いているらしい。
「『投擲』も持っているし、意外といけるかもな。」
俺は飛び出してきたホーンラビットを、手にした鎌で斬り捨てる。
鎌の刃はホーンラビットの首に食いこみ、そのまま抵抗らしい抵抗も受けずに、あっさりと斬り落とす。
その後も、鎌の扱いになれる為、モンスターと戦闘をする。
モンスターの突撃を躱し、急所を鎌で斬り裂く……この辺りにポップするモンスターは弱いとはいうものの、スキルを得る前はここまで簡単に倒すことは出来なかった。
『鎌の心得』の熟練度が30%に達したところで街に戻る事にする。
◇
「じゃぁ、向かうとするか。」
俺は次の街へ向かうために、歩き出す。
ここから次の街までは、徒歩で1週間と言う所だ。
普通は馬車とかを使って移動するのだが、道中の採集ついでにLv上げに丁度いいと思い徒歩での移動を選んだのだ。
ズシャッ!
俺の振るった鎌が、ハイオークの延髄を斬り裂く。
ハイオークの巨体が地面に倒れるのを見て、近くにいたゴブリン達が、我先にと逃げ出す。
「ふぅ……何とかなったか。」
俺はポーションを飲み回復するとハイオークのドロップアイテムを集める。
しかし今回は危なかった。
ハイオークに率いられたゴブリンの群……なぜ倒せると思ったのだろうか?
「援護は任せた!」
そう言って飛び出した後に、気づいた。
援護を任せる……誰に?
振り返って誰もいない事を確認し、愕然とする。
しかし、襲い掛かってくるゴブリンの群を薙ぎ払うのに集中しなければならなかったので、それ以上を考える余裕は無かった。
鎖鎌を振り回し、ゴブリンの群を振り払い、大型のサイズでとどめを刺していく。
そうして道を切り開いてハイオークに近づき、スピードで翻弄しつつ、急所への一撃を窺う……。
群れを指揮していたハイオークに攻撃を集中、倒したことにより、ゴブリン達は逃げてくれたが、もし逃げずに襲い掛かられていたら、かなりヤバい状況に追い込まれていたことは間違いない。
「何だったんだろうなぁ……。」
あの時、確かに誰かがいた……いや、違うな、ああいう時、常に誰かといたと言う感覚が今でも残っている。
思い出せない記憶と何か関係あるのだろうか?
「あるんだろうなぁ。」
鎌を振るう前、これじゃないと言う感じがあった。
しかし、ハイオークに止めを指したときはなぜかしっくりと来た。
俺はきっと、戦っていたことがあるのだろう……たぶん一人じゃなく、誰かと一緒に。
その記憶を忘れて、なぜか一人でここに居る。
「あー、やめだ、やめだ!」
思い出せないのだからこれ以上考えても無駄だろう。
そして、何かを知っているとすれば、あの少女。
あの少女は次に会うまでに……と言っていた。
という事は、放っておいてもまた接触してくるに違いない。
だったら、その時に聞けばいい事だ。
「結局やる事は変わらないって事で……。」
俺は近くの採集ポイントから素材を集めていく。
安全な場所を探しキャンプを張り、そこで集めた素材を調合・合成していく。
今調合しているのは、火炎弾と炸裂弾、そして煙幕効果もある麻痺弾だ。
今回みたいに群と出会った時には、こういうアイテムが効果を発揮するはずだ。
そんな事を繰り返しながら、次の街……マインの街に辿り着いたのは、はじまりの街を出て2週間がたってからだった。
「おっそーい!何やってたのよ、もぉ!」
「ふぅ、とりあえずはギルドに顔を出して、今夜の宿を探すか。」
俺はギルドの場所を探す。
「きぃー!無視すんなやぁ!」
俺の前に回り込み、ぷんすかと文句を言ってくる金髪碧眼の美少女。
「はぁ、お前は一体何なんだよ?」
俺はその少女に目を向ける。
「ふん、聞いて驚きなさい!私は女神よ、女神アルシオーネ!崇めていいのよっ!」
そう言って小さい胸を思いっきり張る自称女神。
「女神?」
何か、頭の片隅に引っかかるが、それが何なのか思い出せない。
「で、その自称女神様が何だって言うんだよ?」
「アンタの監視よ!ちゃんと強くなっているかどうかを監視するためにきたの!」
そう言って俺を見る。
「なのに、なんでアンタはそんなに生産系のスキルばかり取ってるのよっ!戦闘系のスキルをバンバンとって、バンバン育てて早く強くなりなさいよっ!」
俺は徐にその少女を抱きかかえる。
「ちょ、ッ、何……むぐっ……」
即座に拘束して袋に詰め込む。
よく分からないが、ここで喚かせてはいけない気がした。
宿を見つけ、部屋を取ると、ベッドの上に、拘束した自称女神を放り投げる。
「むぐっ、むぐぅ……。」
「喚かない、叫ばないと約束するなら、猿轡を外してやる、約束できないならこのまま放置するがどうする?」
少女は俺の眼を見て、本気だという事が分かったのか、コクコクと頷く。
俺は猿轡を外してやる……勿論拘束はそのままだ。
「アンタねぇ、こんなことをしてタダで済……む……と……ゴメンナサイ。」
俺の手にするものを見て少女は黙り込む。
「さて、色々聞かせてもらえるかな?」
「ヒィッ……やめて、来ないで……。」
「素直に喋れば、あんまりひどい事はしないぞ。」
「イヤっ、来ないで……イヤっ……イヤぁぁぁぁぁぁぁー……。」
◇
「クスン……イヤって言ったのにぃ……。」
ベットの上では、いまだに拘束されたまま、ぐすんぐすんと、泣いている少女がいる。
……あー、ちょっとやり過ぎたかな?
「そんなこと言って、あんなに喜んでいたじゃないか。大きな声をあげてたし。」
「よ、喜んでないじゃないっ。それにあんな事されれば、誰だって声ぐらい出るわよっ。」
顔を真っ赤にしながら言い返してくる少女。
「まだ、立場が分かってないようだな?もう少し可愛がってやろうか?」
「ひぃっ……いや、もぅイヤなのぉー、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……。」
俺が手にしたソレをみて、少女は態度を一変させる。
……どうやらトラウマになってしまったようだ、素直になるまで1時間程くすぐってやっただけなのにな。
俺は手にした羽箒を収納にしまい込むと、少女に向き直り質問をする。
「それで、お前は何しに来たんだ?俺は一体どうなっているんだ?」
「うぅ、それは、その……次元抵触法に引っかかるというかなんというか……ヒィッ、喋ります喋りますからぁ。」
ブツブツ言いだした少女……シオンと呼んでくれと言われた……に羽箒を見せると、素直にしゃべり始めた。
「まず私がここに居るのは、アンタに拉致られ……ひぃっ、ゴメンナサイ……。」
くだらない事を言いかけたが、羽箒をちらっと見せるだけですぐに黙る。
「アンタがしっかり強くなっているかどうかの監視できたのよ。」
「何のために?」
「一応アンタの為だけど、大局的に見れば、アンタが弱いと困る人が色々出てきて大変だからよ。」
「強くなっているかどうかなんて、どうやってわかるんだ?」
「一応目安としてのクエストを受けてもらって、それをクリアできればその時点での条件クリアってところね。」
「それがマティルの洞窟か?」
「そうそう、本当なら10日前にはクリアできていなきゃダメなのよ。」
時間制限もあるのか?
「……よく分からんが、そもそも俺はどういう状況になっているんだ?」
俺がそう問いかけると、シオンは口をつぐむ……が、俺の手を見てすぐにしゃべり出す。
「えっと、あなたはシンジさんと言って、外の世界では一応領主をしてハーレムを築いている、リア充爆発しやがれコノヤロウ、です。」
「えらい言われ様だな。」
俺がそう言うと、シオンが、はぁ、と大きなため息をつく。
「冒険者から成りあがって領主になった男、その周りにはべったりと4人の美少女……しかも全員王女様、が引っ付いてるわ。最近婚約を発表したみたいね。そして、側使えには美少女美幼女を集めてメイド服を着せて愛でているとか。その中から側室に選ばれた子もいるらしいわね。」
「何だ、そのハーレム野郎は……そんな奴は爆発してしまえ!」
俺はシオンの言葉を聞いて思わず本音が口をついて出る。
「全部アンタの事よっ!」
「……じゃぁ、俺は何でこんな所にいるんだ?」
「それは話すと長くなるんだけど……。」
シオンはそこまで言って口籠る。
「ん?どうした?」
「えーと、あのね、その……。」
何やらモジモジしている……。
俺が黙っていると、意を決したように言ってくる。
「おトイレ行きたいから、この拘束解いてくれない?」
俺はじっとシオンを見つめる。
「な、何よ?」
「いや、逃げ出す口実かと。」
「逃げないわよ……お願い。」
目を潤ませながら見上げてくるシオン。
……普通なら、クラっと来るところなんだろうけど、俺の中の何かが「俺は違う」と告げていた。
本物は、例えそれが計算づくだと分かっていても抗えない程の破壊力がある……俺はそれを知っている。
「そんな顔しても無駄だ……けど、ま、いっか。」
俺は拘束を解いてやりながら話しかける。
「逃げようとしたら痛い目見るからな。」
「逃げないわよ……だから早く……お・ね・が・い♪」
本人は色っぽく囁いているつもりなんだろうが、そんな紛い物は効かないって……本物はもっと破壊力があるんだってば。
俺が拘束を解いてやると、シオンは慌てて部屋を出ていく。
「……遅いな。」
もう戻ってきてもいい頃だが。
そんな事を考えていると、窓の外から声が聞こえる。
「やーい、バーカ、バーカ。この私が素直に捕まってると思うんじゃないわよ、バーカ。」
予想通りだが、ムカつくのには変わりない。
なので俺は仕込んでおいたスイッチを押す。
「ばーか、ばーーひゃん!」
窓の外で喚いていたシオンが、ショックを受けたかのように蹲る。
「なに……ひゃんっ……これ……ひゃんっ……もぅイヤっ!」
拘束した時にシオンの身体の数か所に、雷の魔法を放つ魔術具を仕込んでおいた。
すごく薄く張り付けるタイプなので、拘束されていた違和感の方が強くて、気づかなかったのだろう。
小さなものなので、それほど大きなダメージにはならないが、それでも連続でダメージを受け、何度かビクビクしていたシオンだが、大きく手を振り下ろすと、いきなりその姿が消える。
「逃げたか……。」
今回は逃げられてしまったようだけど、俺を見張ると言うのが嘘じゃないなら、今後も接触してくるだろう。
「しかしハーレムねぇ……。」
それが本当なら、俺はさっさと戻りたいと思った。
 




