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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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戦士の休息……ってこういう時に使っていいのかな?

 「えっへへぇー、シンジさんの背中ぁー。」

 リディアが俺の背中に頭をすりすりしている。

 「なぁ、そろそろ降ろしていいか?」

 「だぁーめぇ。敵と出会うか次の休憩所まではおんぶする約束ですよぉ。」

 そう言いながら、回した腕に力を込めるリディア。

 「ハイハイ、分かりましたよ。」

 俺は説得を諦め、背負ったまま通路を歩く。

 「えへへー。」

 ニマニマしているリディアを、周りにいるエル達は諦めたような顔で見ている。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺達は、魔王を止めるため、アシュラム王国の王宮に侵入したが、直後に転移の(トラップ)に引っかかり、バラバラに飛ばされてしまった。

 際どい場面もあったが、何とか乗り越えて、皆が無事に集まったのはいいんだが……。


 「みんなシンジさんにおんぶしてもらってズルいですぅ!」

 エルを背負って待ち合わせの場所に辿り着いたとき、リディアが開口一番に発した言葉がこれだった。

 死にそうな目に会ったというのに元気な事だ、と肩透かしを食った気分だったことは否めない。

 

 エルが目覚めるまで休憩を取りつつ、部屋の中を調べると、隠し通路の他、様々な仕掛けを発見することが出来た。

 行幸だったのは、このダンジョンの作りを示した魔術具が見つかった事だった。

 その魔術具によると、このダンジョンは作りかけらしく、このフロア以外は未完成のようだった。

 隠し扉を抜けて2フロアぐらい上がれば王宮に戻れるようになっている。

 本来ならば、その間のフロアにも色々な仕掛けを作る予定だったのだろうが、間に合っていないらしくただの通路しかない。

 つまり、ここを抜ければ、ようやく本来の目的である魔王との対面となる。


 俺達は話し合った結果、エルが起きた後様子を見てフロアを移動、王宮に戻る手前で休憩を取って決戦に備える事とした。

 時間がない、と焦る気持ちもあるが、みんな枯渇寸前まで魔力を使いつくしている。

 しっかりと休息を取らないと、思わぬミスが起きる場合があるから、休めるときに休んでおかないといけない。

 些細な事で皆を失うわけにはいかないからな。

 

 「それでどうするのですか?」

 クリスが聞いてくる。

 「あぁ、これを見てくれ。」

 俺は魔術具から書き写した、このダンジョンの地図と、アイリスから聞き取って書き出した王宮内の見取り図を取り出して、この先の予定を話す。


 「この地図によると、この場所から進めば、出るのは王宮のこの辺りと推測される。」

 俺は見取り図の中の玉座の間の近くを指さす。

 「ここから出たら、取りあえず玉座の間へ入る。そこにガズェルがいる可能性が高い。見つけたら即処断する。それで終わる……筈だ。」

 「前も言ってたけど、ガズェルがそこに居るって根拠はあるんですかぁ?」

 リディアがそんな事を聞いてくる。

 「根拠はないけどな、ああいう奴は力を得た事を顕示したがるものなんだよ。そして玉座は権力の象徴……だったら分かりやすくそこに座ってると思うんだよ。」

 「そんなものですかぁ?」

 「そんなものだよ。」


 俺の言葉にリディアが納得したように頷く。

 「まぁ、一理ありますわね。それにいなくても居場所は限られますからね。」

 クリスがフォローしてくれる。

 「そう言う事だ。」

 俺は会話を終わらせると、皆の装備のメンテナンスを始める。

 

 指輪の魔力も空っぽだし、長時間の攻撃に耐えていた所為で一部破損しているものもある。

 ここでは応急処置しかできないが、それでもやらないよりはマシだろう。

 このダンジョンでは、これらのお陰で彼女たちは生きながらえることが出来た。

 渡しておいてよかったと、心からそう思う。

 なので、この後の魔王戦で少しでも勝率を上げるためにも、出来る限りの事をしておきたい。

 

 ◇


 「……ン、ここは……?」

 「エル、気が付いたか?」

 「ん……シンジ……?」

 「あぁ、俺だよ。」

 「……遅いよ、バカシンジ……でもありがとう……守ってくれて。」

 エルが小さな声で、そう呟く。


 「これでも急いだんだけどな……遅くなって悪かった。」

 俺はそう言ってエルの頭を撫でる。

 「……ん。」

 エルは俺の方にすり寄ってきて、そのまま体重を預ける。

 俺達はしばらくの間、そうしていた。


 「エルちゃん、気づいたんだってぇ?」

 リディアが飛び込んでくる。

 「リディアちゃん……先日から気になってたんだけど、なぜ「ちゃん」付けなのかなぁ?」

 エルがにこやかに、リディアに問いかける。

 「ひゃ、ひゃってぇ、エルひゃん、ひゃわいひゃったんひゃもん……。」

 エルに頬を抓まれながらそう答える。

 「うるさい、忘れるのよ!」

 エルは顔を真っ赤にしながら、リディアの頬をムニムニとしている。

 ウン、元気そうで何よりだ。


 「リディア、何かあったのか?」

 俺はようやく解放されて、頬をさすっているリディアに声をかける。

 「ウン、ご飯の用意が出来たから、エルちゃ……さんが起きているなら一緒にって呼びに来たんだよ。」

 エルににらまれ、慌てて言い直すリディア。

 

 ◇


 「だから、ズルいのですよぉ。」

 食事の席で、リディアがそう主張してくる。

 「ズルいって何が?」

 「シンジさん、エルちゃ……さんを背負って戻ってきたじゃないですかぁ?」

 「それが何か?」

 何を言ってるんだ?とリディアを見る。

 「聞いたところによれば、アイリスも、クリスさんまでおんぶをしたそうじゃないですかぁ?」

 ぷんぷんと身体全体で「おこですよ!」と言っているリディア。


 「なのに、私だけおぶってもらえないどころか、放置なんてひどいと思うのですよっ!」

 賠償を請求します、とリディアにしては難しい言葉で要求を突き付けてくる。

 「賠償って、何をしてほしいんだよ。」

 おんぶはともかくとして、仕方がなかったとはいえ、放置したことについては俺自身負い目を感じているので、ちょっとしたことであれば叶えてやりやいと思う。


 「次の休憩ポイントまでおんぶを要求します!」

 ……子供かっ!

 「だってぇ、私だけおんぶなしってズルいじゃないですかぁ。」

 見上げるリディアの瞳が少し潤んでいる。

 「……はぁ、モンスターが出たらそこで降ろすぞ。」

 「はぁーい。やったぁー。おんぶですよー、なんならお姫様抱っこでもいいですよぉ。」

 「動きが阻害されるから却下!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「モンスター出ませんね。」

 隣を歩くアイリスが、ぼそりと呟く。

 「作りかけっぽかったからな。あのフロア以外は手を付けてないんだろ。」

 さっき通り過ぎたフロアも、一本道で何もなかった。

 そしてこのフロアも一本道で、もう直ぐ目的の転移陣に辿り着きそうだ。


 「さて、そろそろ転移陣だ。この辺りで最後の休憩を取ろうか。」

 俺はリディアを降ろすと軽く伸びをする。

 「えぇー、もう終わりですかぁ。」

 リディアが我儘を言うが、エルにガシッと押さえつけられる。

 「リディアちゃんはこっちにいらっしゃいねー。」

 エルに捕まり、抱きしめられるリディア。

 「私だってしてもらいたかたのに……意識なかったんだから……。」

 「え、何か言いましたかぁ?」

 エルの呟きにリディアが聞き返す。

 「何でもないの。」 

 エルがギュっとリディアを抱きしめる。


 「一応これを渡しておくな。」

 俺は4人に魔晶石を幾つか手渡す。

 「これは?」

 魔晶石を手に、眺めながらクリスが聞いてくる。

 「魔力を充填してある。魔力が少なくなくなったら使ってくれ。」

 モンスターから集めた魔種(シード)を加工しただけのもので、装飾迄施す時間がなかったけど、この先の戦いで助けになれば、と思う。


 「ウン、ありがとう。」

 リディアが受け取った魔晶石を自分の収納へとしまう。

 「回復薬とか不足がないか確認して置けよ。」

 俺はそう言うと、目を瞑って魔力の回復に努める。

 実は、色々準備をしていたせいで、俺の魔力は回復してなかったりする。

 そこらのモンスター相手なら問題ないが、魔王相手なら万全にしておきたい。


 (交代の時間ですよぉ。)

 (まだです!あ、そんなに乱暴しては……。)

 (次は私が……。)

 ……ん?騒がしいな……。

 「……ン……ん?」

 「あ、お目覚めですか?」

 目を開けるとアイリスの顔が飛びこんでくる。

 「あれ?……どうして……。」

 少し混乱している。

 俺は確か……。

 「あー、膝枕、次は私の番だったのにぃ!」 

 リディアがプンプンしている……って膝枕?

 

 俺は慌てて飛び起きる。

 今まで俺がいた所には、少し残念そうな顔をしたアイリスが膝を揃えて座っていた。

 「その……シンジ様が倒れそうになっていたので、差し出がましいとは思ったのですが……。」

 そう言って俯くアイリスの顔は、耳まで真っ赤になっている。

 「いや……ありがとうな。」

 どうやら、瞑想して魔力を回復しようとしたつもりが、そのまま眠ってしまったらしい。 それで体が崩れ落ちそうになるところを、近くにいたアイリスが支えて、そのまま膝枕をしていた……という事らしい。


 「身体の方は大丈夫?」

 エルが心配そうに訊ねてくる。

 「あぁ、思ってた以上に疲れていたようだ。心配かけて悪かった。」

 俺はエルにそう言うと、軽く伸びをして体をほぐす。


 「さてと、待たせて悪かった。行くとするか。」

 俺は装備を再確認して、皆に声をかける。

 「「「「はい、行きましょう。」」」」

 四人の声が揃う。

俺達は転移陣の所まで移動し、ゆっくりと脚を乗せる。

転移陣に入った途端、光に包まれて一瞬のうちに別の場所へと飛ばされる。


 「ここは……王宮内で間違いないです。」

 周りを見回したアイリスが、そう断言する。

 ……見取り図で見た予定ポイントと相違ないみたいだな。


 「みんな、行くぞ!!」

 俺は玉座の間の扉を思いっきり開いて中へと飛び込んだ。


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