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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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SLGの次はローグライクですか……次は何が来るのですかねぇ?

 「ん……。」

 背負っていたクリスが、気づいたようでもぞもぞと動く。

 「気づいたか?」

 ちょうど扉の前に辿り着いたので、クリスを降ろす。

 「ここは……、一体……。」

 「悪い、説明は後だ。この奥にエルがいる。動けない様ならここで休んでいてくれ。」

 一応飲んでおけよ、と回復薬を渡し、俺も飲んでおく。


 扉の向こうからは、多くのモンスターの気配と、その奥にエルの気配がある。

 「まだ持っているが、時間がかかると押し切られそうだ。」

 俺は銃モードの『女神の剣(エフィーリア)』を構えて扉を開ける。

 扉の向こうは埋め尽くさんばかりのモンスターの群でひしめいていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 『流星嵐スターダスト・ストーム!』

 光の粒子が流星の様に流れ、眼前のモンスター達を貫く。

 迫っていたモンスタたちとの間に少しだけ隙間ができる。

 「包囲されない様に、部屋の片隅を陣取ったけど、このままじゃジリ貧ね。」

 

 転移されたのは、モンスターハウスと呼ばれる罠の部屋。

 部屋の中はあっという間にモンスターで一杯になった。

 片隅に移動して、迫りくるのは前方だけに制限する……以前シンジが言ってたっけ。

 多勢に無勢の場合は、地形を利用して数の有利をなくすのがセオリーだって。

 

 「後ろを気にしなくていい分、確かに一度に襲い掛かってくる数は少ないんだけどね……せめて通路とか、入り口が狭いともっとよかったんだけどね。……『爆烈風(エア・ブラスト)!』」

 これで何度目だろう……一体いつまで続くのかな?

 終わりのない戦いは、体力より精神を大きく削っていく。

 

 「きっとシンジが来てくれる……私はそれまで何としても耐えるだけよ。」

 収納から、今日何本目かになる魔力回復薬を取り出して飲み干す。

 本当は、短時間で何本も回復薬を飲むのは良くないんだけどね。

 回復薬はその性質上、短時間に複数摂取すると、効果が薄くなる。

 その上、過剰摂取となると中毒症状を起こして、一切の回復薬を受け付けなくなる。

 

 「このペースだと、後2~3本が限界かな。」

 私は地面に転がる小瓶を見て、そう呟く。

 シンジからもらった回復薬じゃなければ、とうの昔に中毒症状を起こしている。

 シンジからもらったアクセサリーが、モンスターを寄せ付けずにいる。

 シンジからもらったこの杖が魔力消費量を軽減してくれている。

 「私は今でもシンジに守られている。」

 そう思うだけで力が湧いてくる……まだ頑張れる……。

 

 『水の刃(アクア・スラッシュ)!』

 新たに寄ってきたモンスター達を水の刃が斬り裂く。


 ……シンジ……私の運命を変えると、天啓を受けた場所で出会った人。

 確かに、あの時から私の運命は変わったわね。

 常識がなくて、バカな事ばっかりやって、巻き込まれて……。

 でもシンジのお陰で色々な人と出会って、色々な事を知って、色々な事を決断してきた。

 罠にかかって飛ばされた先に、伯母様がいたのはお母様の導きかもしれないって思ったけど……それもシンジがいなければ出会う事は無かったよね。


 レムちゃんとその家族と過ごした時間は、私にとってかけがえのないものだった。

 忘れかけていた家族の温もりを思い出させてくれた。

 それもシンジがいてくれたおかげ……。

 すべてはシンジがいたおかげで出会うことが出来た。


 いつからか分からないけど、私の中でシンジはとても大きくて大事な存在になっていた。

 私が自覚したのはレムちゃんやリオナと暮らし始めた時で、想いが募ってアプローチをししたことも何度かあったけど……、ヘタレなシンジはその都度言い訳をして、私に手を出さなかった……本当にヘタレな男。

 まぁ、私も少し怖くて、そんなシンジに甘えていたという自覚はあるけど……。


 結局私の中の想いは日々大きくなっていったけど、シンジとの関係は変わらないまま……そして、リディアとアイリスと出会ってしまった。

 リディアは可愛くて元気一杯で……、アイリスは真面目で一途で……。

 二人とも可愛くて、私にとっては大事な妹で友達で……同じ人を愛した仲間。


 意を決して、彼の寝室に向かったあの夜。

 想いを告げて彼と結ばれたい……そう決意していたのは私だけじゃなくて……。

 

 「だからと言って、三人一緒って言うのは……ねぇ。ヘタレシンジのくせに。」

 私は、あの時の事を思い出して、つい愚痴をこぼしてしまう。

 ……っと、『氷槍(アイシクル・ランス)』!

 モンスターの処理が忙しくて、思い出に浸ることも出来ないわね。


 あのまま二人っきりで、冒険者として生活してたらどうなってたのかな?と思う時もあるけど……。

 そう考えて首を振る。

 そんな仮定は意味がないわね……あのシンジの事だから、どこかで女の子を引っかけて、どこかでトラブルに巻き込まれて……今と大差ない生活に違いないわ。


 『氷槍(アイシクル・ランス)

 『氷槍(アイシクル・ランス)

 

 なるべく魔力消費の少ない単発魔法で処理をするけど……数が多すぎるわ。

 魔力が尽きるのが先か、シンジが助けに来てくれるのが先か……魔力が尽きた時が、私の人生の終わり、私の命をチップにした最大の賭け。


 「シェラは『姫様は賭け事に向いてません』って言ってたっけ。」

 でも、この賭けは必ず勝てるって信じてる……だからシンジ、早く助けに来なさいよ。


 『水の刃(アクア・スラッシュ)

 「っ!効かないっ!?」

 いや、効いてるけど、他のモンスターよりタフみたい。

 

 『爆烈風(エア・ブラスト)

 その後から来たモンスターと共に吹き飛ばす。

 

 「いやなモンスター達ね。」

 こちらの力が分かっているのか、魔法のクラスを落とすと、一撃で屠れない個体がやってくる。

 結果として必要以上の魔力を使わされている。

 「これなら範囲魔法でまとめて吹き飛ばす方がマシかなぁ?」

 私は回復薬を取り出して飲み干す。

 半分ぐらいしか回復しない。


 「限界が近いかぁ。早く来なさいよ……バカシンジ。」

 私は耳に手をやる。

 そこにはシンジがくれたイヤリングがある。

 イヤリングを模した通信の魔術具。

 妨害されているのか、何度か試したけど誰にも繋がらない。


 「せめて、声が聞けたら良かったのにね。」

 私は諦めて前方に意識を向ける。

 障壁に阻まれてもがいているモンスター。

 ある程度集まった所で、魔法を放つ。

 同じことの繰り返しだけど……。

 

 「でも、心なしかペースが落ちている感じ……。」

 壁の向こうで何かが起きてるのかな? 

 何度もモンスターの侵入を阻むために魔法を使う。

 「たぶんこれが最後……ね。」

 私は回復薬を飲み干す……僅かばかりの魔力が回復する。

 やっぱり……と思う。

 次に回復薬を飲んでも中毒症状が出るだけで、回復しないだろう。

 つまり、今残っている魔力が尽きたら終わりって事。 

 

 「早く来ないと、間に合わないよ……『爆烈風(エア・ブラスト)』」

 私を守るんでしょ、だったら早く来なさいよ……。

 ……。

 ……。

 ……打ち止めかぁ、あと一回ぐらいは打てそうだけど、結界を維持する方に回した方がいいかな?

 障壁に阻まれたモンスターが、結界を破ろうと、ガリガリと障壁を引っ掻いている。


 「……シンジのウソツキ……。」

 もう少しで魔力が切れる……そうしたら結界が切れて、モンスターに蹂躙される。

 バカ……バカシンジ……。

 せめて、最後に……。

 ……私の願いが届いたのか、意識が途切れる寸前にシンジの姿が見えた気がした……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「くそっ!キリがない。」

 俺は『女神の剣(エフィーリア)』を剣に戻して、周りのモンスターを薙ぎ払う。

 眼前はモンスターだらけで、他に何も見えない。

 「くそっ!せめてエルのいる場所さえ見えれば……。」

 俺は近くのモンスターを斬り伏せながら、そんなぼやきが口から零れる。


 「クッ……シンジ様。私が道を切り開いて見せますわ。」

 俺と背中合わせになって、剣を振るっていたクリスがそう言ってくる。

 「分かった。だけど、無理はするなよ。入り口まで戻ればモンスターは襲って来ないはずだ。」

 「分かってますわ。この技を放った後は、入り口でお二人をお待ちしてますから。」

 「あぁ、じゃぁ頼む。エルの気配はあっちからだ。」

 俺は気配のする方を指し示す……魔物達が向かっている方向で実にわかりやすい。


 「はい、じゃぁ5秒だけ時間を稼いでくださいませ。」

 そう言ってクリスは呪文を唱えながら剣に魔力を込める。

 俺は、クリスの周りにモンスターが近づかない様に、剣を振るう。


 「射線を開けて!」

 クリスの言葉に俺は飛びのく。

 『爆・炎・陣!!』

 地面に突き刺した剣から、膨大な魔力を伴った獄炎が前方に駆け抜ける。

 炎に巻き込まれたモンスターが一瞬で燃え上がり消滅する。


 炎が通った後、に空白の通路が現れる。

 「ありがとな。」

 俺はクリスに回復薬を投げて渡すと、出来上がった通路を一気に駆け抜けていく。

 銃モードに変更した『女神の剣(エフィーリア)』を構え、道を塞ごうとするモンスター達を炎の属性を込めた魔弾で焼き払う。

 

 「見えたっ!」

 俺は視界に映ったエルを確認すると『空間転移(ディジョン)』を使ってエルの元まで飛ぶ。

 「エルッ、無事かっ!」

 「……遅いよ……バカ……シンジ……。」

 力のない声でそれだけをつぶやくと、身体からくたりと力が抜ける。

 俺はエルの身体を抱き起し、異常がないか調べる。

 「魔力枯渇を起こしてるだけか……間に合った……とは言い難いか。」

 俺は床に転がった、大量の回復薬の瓶の残骸を見てため息をつく。


 「もう少しだけ、待っててくれよ。」

 俺はエルをそっと床に寝かせると、迫りくるモンスターに向けて、榴弾や炸薬弾、焼夷弾等を投げつける。

 銃モードの『女神の剣(エフィーリア)』に炎を纏わせて、ナパームで周りのモンスターを焼き払う。

 

 モンスター達は、何かに誘われるかのようにこちらに向ってくるので、勝手に炎の中に突っ込み焼かれていく。

 後ろから斬り払うより殲滅速度は早い……が、後から後から湧いて出てきてキリがない。

 「操っている者が居るのか?」

 俺は、新たに沸いて出たモンスターを焼き払いながら、部屋全体の気配を探る。

 「……あれか。」 

 一際変則的な気配を放つ箇所を見つけた俺は、エルの周りに結界を張り、そこへ向けて道を切り開いていく。


 「見つけた!」

 部屋の中央付近に樹木が蠢いている……トレントか?

 気配感知の精度を上げて鑑定してみる。

 エルダートレント……トレントの上位種だ。

 奴の枝が振られると果実のようなものが降り注ぎ、地面に落ちるとモンスターの姿に変わる。

 新たに現れたモンスターは、むくりと立ち上がると、エルの方へ向かって歩き出す。


 「原因さえわかればっ!」

 俺は炎の魔弾をエルダートレントに向けて撃ち抜く。

 ズキューン! ズキューン!

 二発、三発、四発……。

 着弾した個所から炎が燃え上がり、エルダートレントを焼き尽くしていく。

 エルダートレントは、苦しみ藻掻きながらも枝を振るうのをやめない。

 

 ズシャッ!

 炎がエルダートレントを真っ二つに斬り裂く。

 エルダートレントの半分が崩れ落ちる。

 「シンジ様、ここは任せてくださいませ。」

 私との相性はよろしいようですから、と笑いながら言うクリス。

 確かに、炎の魔剣を操るクリスと植物系の魔物との相性は抜群だ。

 クリスの腕なら、そう時間をかけずに止めを刺してくれるだろう。

 

 「分かった、任せる。」

 俺はこの場をクリスに任せると、残りのモンスターの殲滅に向かう。

 ナパームで焼き払い、手持ちの爆弾アイテムを惜しみなく投げつける。

 数が半分ほどになった所で、モンスター達の動きが変わる。

 今まで、一定の個所を目指していたのが、何処に向えばいいのか分からなくなったかのように右往左往し始めた。


 「クリスがやったか。」

 俺は、残ったモンスターに向けてナパーム弾を放つ。

 「残った数、決して多くは無いっ!」

 俺は叫びながらモンスターの群に飛び込み、剣モードに切り替えた『女神の剣(エフィーリア)』を振り回す。

 

 途中からエルダートレントを倒したクリスも加わり、気づくと立っているのは俺とクリスだけになっていた。

 「ちょっと手こずりましたわね。」

 クリスはそう言って大きな息を吐くと剣を鞘に納める。

 「あぁ、俺一人じゃヤバかった。助かったよ。」

 俺はクリスに素直に礼を言う。

 「お手伝いしかしてないですわ……助けられたのは私の方ですからね。」

 クリスはそう言うと、回復薬を手に取り飲み干す。

 「っと、エルは大丈夫か!?」

 俺は慌ててエルの下へ駆け寄る。

 結界はしっかりと作動していたようで、エルの周りにモンスターが近寄った様子はない。

 

 「遅くなって悪かったな。」

 俺はエルを背負って立ち上がる。

 「彼女は……大丈夫なのですか?」

 クリスが心配そうに覗き込んでくる。

 「あぁ、魔力枯渇を起こしているだけだ。しばらく休めば大丈夫だろう。」

 俺はクリスを安心させるように答えると、一度リディアたちと合流しようと、促して歩きだす。


 「……ますか?……き……こえ……。」

 「ん?」

 ピアスを模した通信の魔術具から、ノイズ交じりの声が聞こえる。

 「これは!?」

 クリスのイヤリングからも聞こえたようだ。

 「俺だ!りでぃあか?アイリスか?」

 俺は魔術具に魔力を注ぎ込み通信を試してみる。


 「よか……た……リス……す。聞こえ……。」

 こちらの声は届いているようだが、魔力量の関係か、向こうの声はノイズ交じりで聞き取りにくい。

 「エルもクリスも助け出した。俺が通路の先に広間がある。そこで合流しよう。」

 俺はこちらの声が届いていると信じて、そう指示を繰り返し伝える。

 「わ……した……。広間……ってま……。」


 クリスがサイクロプスと戦っていた部屋は、たぶん隠し部屋なんだと思う。

 アイリスを助けた後の分かれ道、俺は右に向かってリディアを助けることが出来たが、あの時左に向かっていれば、この部屋に出たんだろうと思う。

 リディアのいた部屋からも、この部屋からも、クリスがいた部屋までの通路の扉は周りの壁と同化して一見わかりにくくなっていることからも、あの部屋に何かあると思わせる。


 「とりあえず急ごうか。」

 俺はエルに衝撃がかからないように背負い直し、クリスと共に来た通路を戻る事にした。


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