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王様との謁見なんて普通は縁が無いはずだけどね。

 ちゅんちゅんちゅん……。

 そんな小鳥の声が聞こえた気がする……あー、朝か。

 俺はベットから身を起こそうとする……が、動きが阻害されている。

 辛うじて動く首を右に回すと、アッシュブロンドの美少女と目が合う。

 「あ、シンジ起きた?おはよ。」

 目元を薄っすらと赤らめながら挨拶をしてくる。

 「あぁ、エルおはよう。」

 

 ……なんでエルがここに??

 起き抜けの所為で頭がよく回らない。

 首を左に回してみる。

 明るい金髪の……やはり美少女と目が合う。

 「やっと起きたのですぅ……シンジさんおはようです。」

 「あぁ、リディアおはよう。」

 なんだ?何がどうなってるんだ?


 「あのぉ、起きたのならそろそろ……。」

 胸元で声がする。

 首を下げて自分の胸元を見ると、榛色の瞳と目が合う。

 「……アイリス、何をやってるんだ?」

 「シンジ様がやっておいてそのお言葉ですか……。」

 アイリスが落ち込んだように言う。


 何が何だか分からないが、俺の動きが阻害されている原因は分かった。

 俺の腕を枕に、右側にエルが、左側にリディアが寝ていて、胸……と言うか腹の上にアイリスが乗っかっている。

 これでは動けないはずだ。

 「……みんな起きてるならどいてくれると助かるんだが?」

 「「「動けないの!」」」

 三人の声が揃う。


 「動けないって……なんで?」

 「シンジ、アンタバカなの?」

 エルの言葉が酷い……。

 「シンジさんに拘束されたんですよぉ……私達を動けなくして、あんなことやこんな事 ……責任、取ってくださいね。」

 リディアが頬を染めながらにっこりと笑う。

 「この様なあられもない姿はちょっと恥ずかしいですが、それがシンジ様のお望みなら……。」

 アイリスがリディアの言葉に追い打ちをかけてくる。

 俺はエルの方を見る。

 「……ばか。」

 一言だけ言って顔を背ける……耳まで真っ赤になっている。

 ……ちょっと待て、俺は一体何をした。

 俺は昨夜の記憶を必死に手繰り寄せる。


 昨夜は、皆にアクセサリーを手渡して……。

 自分自身いい出来だと思っていた所に、皆の喜ぶ顔が嬉しくてついハイテンションになったんだよなぁ。

 俺からのプレゼントという事で、やっぱりハイテンションになっていたリディアたちがすり寄ってきて……俺も思わず抱きしめたりして……。


 あぁ、思い出した。

 我に返ってヤバいと思った俺は、それ以上寄ってこられない様にバインドの魔法をかけたんだっけ。

 で、淑女たるもの恥じらいというものを……なんてお説教しているうちに、いつのまにか寝てしまったようだ。

 俺が寝てしまったので、三人はズリズリとすり寄ってきて今の状態となったらしい。


 「俺は何もしていない。だから問題ない。」

 俺はそう言って自分自身を納得させる。

 「あのぉ……どうでもいいですが、そろそろ拘束を解いてもらえませんか?その……お腹に……。」

 アイリスが真っ赤になりながら恥ずかしそうにそう告げる。

 俺の上に乗っているアイリスのお腹のあたりには……ウン、俺は今朝も元気だな。

 いや、生理現象だからね、他意はないんだよ他意は……まぁアイリスは可愛いけど。

 恥じらうアイリスを見ていると、ますます元気になる俺の変化を感じたのか、更に恥ずかしそうに顔を伏せるアイリス。


 これ以上はヤバい、と俺は皆の拘束を解く。

 ちょっと惜しいと思ってしまった事は内緒だ。

 ……仕方がないじゃないか、こんな美少女達が半裸で動けずにいるんだぜ。

 …………でも、エルはともかくとしてリディアやアイリスは俺に好意を持っていてくれることは間違いない。

 あれだけあからさまに好意を寄せられていれば、いくら鈍感な俺でもそれくらいはわかる。

 エルにも嫌われているわけではないと思うし……たまに、そうなのかな?と思わせる態度をとる時もある。

 ……つまり、この子たちが大人の階段を上るのを手伝ったとしても問題ない。

 それどころか、それを望まれている感じもする。

 ………あれ?俺、なんで我慢してるんだろ?


 「準備できたから食事に行きましょ。」

 俺が悩んでいる間に、彼女たちの支度が整ったようだ。

 「あぁ、先に行っててくれ、俺もすぐ準備する。」

 部屋を出ていく彼女たちを見送り、俺も身支度を整える。

 ……まぁ、今はとりあえずアシュラム王国の開放の事だけ考えておこう。

 身支度を終えた俺は、彼女たちと合流すべく、急いで部屋を出た。


 ◇


 「シンジさん、なんか緊張しますね。」

 王宮を目の前にして、リディアがそんな事を言ってくる。

 「おいおい、王宮に住んでいた姫のセリフじゃないだろ?」

 「分かってますよぉ、シンジさんの緊張を解す為の冗談ですよぉ。」


 今日は国王と約束した謁見の日だ。

 朝から念入りに準備して、気合を入れてここまで来たのだが……。

 「……俺って緊張しているように見える?」

 俺が問いかけると三人とも、ウンと頷く。

 後ろではレックスとミィが面白そうに眺めている。


 「たかだか、王様との謁見だろ?魔王と戦うって奴がこんな事ぐらい、どっしりと構えていなくてどうするよ。」

 レックスが笑いながら言ってくるが、魔王との戦いと比べるのは何かが違うと思う……思いたい。


 「そうですよぉ、お父様に喧嘩を売ったあのシンジさんはどこに行ったのですかぁ?」

 「いや、喧嘩なんて売ってないし……まぁ、いい、行くぞ。」

 これ以上ここにとどまっていたら、あまり面白くない方向へ会話が進みそうだと感じた俺は、王宮に乗り込むことで会話を終わらせる。


 ◇


 「冒険者シンジとその一行、王の御前へ。」

 俺達の謁見の番が来たらしく、係の者に呼ばれて謁見の間へと通される。

 「面をあげよ。」

 前方で重々しい声が響く。

 「冒険者、シンジです。国王におかれましてはご機嫌麗しゅう……。」

 「良い、冒険者の慣れておらぬ堅苦しい挨拶など望んでおらぬ。口調も普段通りを許す。それよりアシュラム王国の事で話があると申しておるそうだが?」

 ……折角練習したのに、無駄だって言われたよ。


 「国王の格別の配慮に感謝いたします。お許しが出ましたので普段と同じようにさせていただきます。」

 まぁ、俺も慣れていない言い方だと上手く伝える自信がなかったので丁度いい。

 「アシュラム王国はある野心的な人物に乗っ取られております。そして、その人物は……魔王を召喚しました。」

 俺がそう言うと、周りが騒めく。

 「魔王だと!」

 「まさか、そんな……。」

 「出鱈目だっ!」

 ……まぁ、いきなり言われても困るだろうな。


 「静まれっ!王の御前であるぞ!」

 王様の横にいた騎士団長が一喝すると、辺りはシーンと静まり返る。

 それを確認した後、王は視線で続きを促す。

 「現在起きている戦はアシュラム王国の真意ではなく、その野心家の……筆頭魔術師ガズェルが自身の野望の為に引き起こしたものです。」


 「だから何だというのだ!」

 「攻めてきたのはアシュラムだ!」

 「アシュラムが悪いっ!」

 再び周りが騒めく……こう外野が煩いとまともに話も出来ないな。

 「静まれと言っておるっ!」

 再び騎士団長が一喝し、静寂を取り戻す。


 「して、お前は何を望む?」

 国王の視線が俺を捉える。

 俺はその視線を受け止め、望みをはっきりと伝える。

 「私がアシュラム国を止めますのでその協力と、戦後処理におけるアシュラム国への配慮を。」

 

 「何をバカな事を!」

 「王、こ奴等は間者に違いありません。」

 「戯言に耳を貸すのではないぞ!」

 また騒がしくなる……いい加減にしてほしいよ。


 「静まれっ!」

 国王が一言いうだけで、辺りは静寂に包まれる。

 「言いたいことは分かった。すぐ答えれぬ案件故、後日連絡させてもらう。今日はご苦労だった。」

 ……話は終わったから去れって事か。

 「ハッ、良き返答お待ちしております。」

 俺はそれだけを言うと謁見の間を後にする。


 「はぁ……なんか疲れた。」

 謁見の間を出た俺は、グッと伸びをする。

 「私達、いらなかったですねぇ。」

 リディアがぼそりという。

 まぁ、俺しか喋ってなかったしな。

 「次からはシンジに任せればいいよね。」

 エルがあっさりと言う。

 面倒事は全て押し付けるつもりらしい。

 「ハイハイ……っと。」

 謁見の間から出口に向かって歩いていると、前方から女性が側近を連れて歩いてきたので、道を譲る。

 しかし、女性は俺の前で立ち止まると「シンジ様で間違いないでしょうか?」と尋ねてくる。


 「間違いないが……あなたは?」

 「失礼しました、クリスと申します。よろしければお茶をご一緒していただけないでしょうか?」 

 クリスと名乗った女性はついて来るようにと言う。

 王宮内を自由に移動している事や、側近の態度から見るに、それなりの身分の娘だろうと見当はつくが、同時に面倒事に巻き込まれそうな気もした。

 まぁ、王様との話に手応えがなかったし、上級の貴族と繋がりを作っておくのも悪くはないだろう。


 「分かった、何処へ行けばいい?」

 「ありがとう存じます。ではこちらへ。」

 「じゃぁ、俺達は先に帰っているな。」

 レックスとミィはそう言って、止める間もなく王宮から出て行った。

 「まいっか。」

 俺はクリスの後について歩いていくと、後からエル達も続く。

 「ん?お前らも来るのか?なんか面倒事は任せるってさっき言ってなかったか?」

 俺がそう言うと、エルがおかしそうに笑う。

 「シンジはバカねぇ。女性と二人っきりにさせれるわけないじゃない。」

 「そうですよぉ、これ以上増やされたら困りますぅ。」

 「お二人の言う通りですよ。私達がしっかりと見張っていないと。」

 リディアもアイリスも、エルに続いて口を出すが……キミ達、何か勘違いしてませんか?


 「あら、皆様も是非ご一緒にお願いしたいですわ。」

 俺達の会話が聞こえたのか、クリスが振り返って、にっこりと笑う。

 「人数が多い方が楽しいですから。そうですよね、リディアさん、アイリスさん。」

 クリスはそう言って、再び先導して歩き出したので俺達は後に続く。


 (なぁ、自己紹介したか?)

 俺は小声でリディアに聞いてみる。

 (さぁ?してないと思いますよぉ。)

 (ひょっとしたら私達の会話を聞いていたのかもしれませんね。でも、クリスさんってどこかで見たような気がするんですよね。)

 アイリスの言う通り、俺達が呼び合っているのを耳にしたのかもしれないし、それほど気にすることはないのかもしれないが、一応警戒はしておいた方がいいだろう。

 

 俺達が案内されたのは、中庭の一角にあるテラスで、そこにはすでにお茶の準備がされていた。

 「どうぞおかけになられて。」

 俺達は勧めに従い、席につく。

 すると目の前のカップにお茶が注がれる……なかなかいい香りだ。


 「どうぞお召し上がりになって。ミト茶のセカンドフラッシュですのよ。お口に合えばいいんですけど。」

 そう言うと、クリスは自ら毒見をするように、お茶に口をつける。

 俺達も勧められるままに口をつける……さわやかな香りと癖のない口当たり。

 あまり詳しくない俺でも、かなりいい茶葉を使っているというのはわかる。

 「こんな素晴らしいお茶をいただけるなんて、流石王宮ですわね。」

 アイリスはかなり気に入ったみたいだ。


 「それで、俺達をここに招待した目的は何だ?」

 俺はクリスに問いかけてみる。

 「しばらくお待ちくださらないかしら。もう直ぐ招待をした方が見えますので。」

 「クリスが招待したのではない、と?」

 「そうですわ……あ、お見えになったようです。」

 そう言ってクリスが立ち上がる。


 「待たせたな。」

 聞き覚えのある声に俺は振り返る。

 そこにいたのは……グランベルク国王フォーマルハウト=フォン=グランベルク、その人だった。 

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