偉い人に呼び出されるのって緊張するよね?
「シンジ、今日も屋台でいいかな?」
エルが聞いてくる。
「あぁ、俺はちょっとやる事があるから屋台は任せるよ。」
「ウン、分かった。みんなー今日も稼ぐよー。」
エルは待機していた皆に声をかけて出ていく。
エル達の屋台は人気が高く、いつも大量に用意していても午前中には完売している。
一日平均の売り上げは金貨3枚に届こうかとしていた。
正直、下手な依頼を受けるより稼ぎの効率がいい。
王都についてからは、平穏な毎日を過ごしている気がする。
気を抜くと、アシュラム王国と戦争をしているという現実を忘れそうになる。
現場を見てきた俺たちでさえそうなのだから、実際に見ていないこの街の人々には全く現実感がないのだろう。
その証拠に、街は平和で俺達の屋台に来る人達は笑顔で溢れている。
悲壮感を漂わせている人は一人もいない。
「まぁ、自分で経験しなければ、全ては他人事って事だろ?」
レックスはそう言う。
確かに向こうの世界にいた時は、俺も他人事だと思っていた。
よその国では、毎日の様に、飢餓や戦争被害で死んでいく人がいたというのに。
「……考えてみれば怖い話だよな。」
俺は誰にともなく呟く。
「いいんじゃねぇの?誰にも気づかれずに世界を救うなんて、ヒーローの醍醐味だろ?」
俺のつぶやきを聞き咎めたレックスがそう言う。
「そうだな、じゃぁヒーローは隠れた努力をするために頑張ってくるわ。」
俺はそう言って、宿を出ていく。
◇
「……これとこれとこれか……。」
俺は資料を見ながら必要な素材を確認する。
資料に従って素材を混ぜ合わせていく。
『破壊付与!』
最後にエンチャントの魔法をかける。
俺の身体から素材に向かって魔力が流れ込む。
素材が光り輝き、その光が収束すると一つの魔石がその場に残る。
俺はその魔石を手に取り、性能をチェックする。
「うーん、これだけだと弱いな。」
俺は更なる改良を重ねるために資料に目を通す。
俺が今作っているのは、あのアシュラム城を覆っている結界を破る為の魔術具だ。
全部を破壊する必要はなく、部分的にでも中和させることが出来ればそれでいい。
それぐらいなら何とかなるだろうと、グランベルクの学園の資料をあさって、色々と試行錯誤している所なんだが、あと一歩が中々うまく行かない。
本当に後一手間だけなんだけどなぁ……。
俺はそう思いながら資料に目を通す。
しかし、この資料を基に最高級の素材を使って作ったのがさっきの魔石だ。
あれで無理なら、後出来る事は……。
「まてよ?」
俺はある事を思いつき、それを試すべく素材を取り出す。
…………。
「……出来た。」
何度か試行錯誤を繰り返し、とうとう俺の希望する物が出来上がる。
「これで侵入する術は何とかなりそうだな。」
俺は出来たそれを大事に収納する。
「次は対魔王用の道具だな。」
魔王は強大な魔力を持っているため生半可な魔法は効かないと言われている。
物理攻撃も、生半可な攻撃力では、魔法の張る結界に弾かれる。
その魔力に裏付けされた火力も膨大だ。
付け入るスキはあるのだろうか……。
俺は思考の海に沈み込んで行く。
こちらの手札は、それほど多くない。
唯一希望があるとすれば俺の……。
「シンジ、来客。」
来客を告げるミィの言葉で、俺の思考は途切れる。
「あぁ、今行く。」
◇
「それで、明後日に王宮に呼ばれたって事?」
エルが確認するように聞いてくる。
「あぁ、明後日、謁見の間で国王に会える。」
「ようやく、ここ迄来たのですね。」
アイリスの声が震えている。
「まだ気が早いわよ。明後日ちゃんと話して協力を求めないと。」
エルがアイリスを抱き寄せて頭を撫でる。
「しかしよぉ、謁見の間でちゃんと話聞いてくれるかねぇ?」
レックスが疑い深げに言う。
「聞く耳持たない。」
ミィもレックスに同意する。
「聞いてくれなかったらどうしますぅ?」
リディアが聞いてくる。
「その時は、仕方がないから俺達だけでアシュラム王国に乗り込むさ。」
「でも……結界はどうするの?」
「結界は何とかなりそうだよ。後は……まぁ、何とかなるだろ。」
「シンジさんがそう言うのなら……。」
俺の言葉を聞いてもリディアは不安そうだった。
「シンジが大丈夫って言うんだから大丈夫よ、きっと。」
エルがリディアを安心させるように抱きしめる。
……アイリスとリディアを両腕に抱いて嬉しそうに見えるのは……気のせいだな。
「まぁ、とりあえずは国王との話し合い次第だよ。明日はみんな謁見に備えてゆっくりしていてくれ。」
「シンジはどうするの?」
「今夜中に作りかけの魔術具を作るから、明日は寝てるよ。」
俺は、エルにそう答えて、作業をするために部屋を出ていく。
「……っ。」
すれ違いざま囁いた俺の言葉に小さく頷くエル。
「面白くなりそうだな。」
背後で、レックスがそう話すのが聞こえた。
◇
「シンジ……来たよ。」
小さな声をかけて部屋の中に入ってくるエル。
心なしかその声が震えている。
「その……私こういう事は初めてで……。」
入り口に立ち止まったまま、何故か顔を赤らめているエル。
「早くこっちへ来いよ。」
動こうとしないエルに声をかける。
「そうですよぉ、私待ちくたびれましたぁ。」
「エル様も呼んでらしたとは……三人一緒だなんてシンジ様って鬼畜ですね。」
リディアとアイリスの声が重なる。
「へっ?三人?」
エルの声が裏返る。
「だって、そんな……夜中にシンジの部屋に来いって……てっきり……。」
何か勘違いしていたようで軽いパニックを起こすエル。
「リディア、エルに説明してやってくれ。」
俺は面倒になったので、リディアにエルを任せる。
「はーい。エルさん、ごにょごにょごにょ……。」
「そんな……だって私……ウソッ、そんな事も!?」
リディアが何かささやく度にエルの顔がどんどん赤くなっていく。
……人選間違えたか?
しばらくすると、リディアとエルが俺の傍にやってくる。
「シンジ、ごめんね、突然の事だったから混乱しちゃって……でも、覚悟決めたから大丈夫よ。」
エルがそんな事を言う横で、リディアがウンウンと大きく頷いている。
「じゃぁ、準備するね。」
ん?準備?
エルはアイリスに近づくと、あっという間に縛り上げる。
「流石エルさんですぅ、とってもエロい縛り方ですぅ。」
リディアが歓喜の声を上げている。
何がどうなっているのかわからずにエルを見ると、エルは服を脱ぎ、両腕でその豊満な胸を隠しながら俺の方へ近づいてくる。
「そ、その……私初めてだから……優しくしてね。」
エルはそれだけ言うと、俺の胸に飛び込み真っ赤な顔を隠すように俯く。
俺はそんなエルを抱き止めながらリディアの方を見る。
「ダメですー、それだけはぁー。」
リディアはアイリスを脱がしている所だった。
縛られて動けないながらも、下着だけは、と抵抗しているアイリス。
「いいではないか、いいではないか。」
でへへ……とアイリスに迫るリディアはエロ親父そのものだった。
「いいわけないだろっ!」
リディに向けて軽いショック弾を放つ。
「痛いですぅ!」
リディアが頭を抱えて、俺を恨めしそうに見ている。
「何やってんだよ、大体お前はどういう説明したんだっ!」
俺は肌を隠すように蹲っているエルを指さして問う。
「えっと、シンジさんが私達にしてくれるって。だからまずはアイリスを縛り上げて、シンジさんをその気にさせてから、エルさんから順番にって……違った?」
「違うわっ!」
俺はリディアの頭をはたく。
「痛いですぅ……王女の頭をポンポン叩くのはシンジさんだけですよぉ。国際問題ですぅ。」
恨めしそうに見上げてくるリディア。
「うるさいわっ!エルも早く服を着てくれ。」
俺はそう言いながらアイリスの縄を解こうと近づく。
「あの、シンジさん……私からですか?このまま縛られたままですか?私、初めてをこのまま貰われるんですね……せめて優しくしてくださいね。」
「やかましぃ!」
俺はアイリスの頭を叩いて黙らせると、縄を解いていく。
クッ……硬い……どういう縛り方してるんだ。
途中どうしても胸を触る事になり、そのたびに色っぽい声を出すアイリスに辟易させられながらも、俺は四苦八苦の末なんとかアイリスの拘束を解く事に成功する。
アイリスは顔を真っ赤にしながら疲れ果てたように蹲る。
「シンジさん、アイリスの胸どうですぅ?可愛いでしょ?」
リディアがニマニマしながら囁いてくる。
まぁ、確かに小さいながらも、形が良くてかわいかったけど……って、何考えてるんだ。
俺は頭を振り、思考を散らす。
その様子をリディアがニマニマと見つめている。
「アホっ!」
俺はリディの頭を再度叩く。
「痛いですぅ。」
頭を抱えて蹲るリディア。
ったく、どういう教育をされてるんだ。
今度ベルグシュタットに戻ったらマルティアさんを問い詰めないといけないな。
結局、三人が落ち着き、身だしなみを整えて俺の話を聞く準備が出来たのは、それから30分経ってからだった。
「さて、落ち着いたか?」
俺は三人を見回す。
「うん。大丈夫……。」
エルは真っ赤になったまま俯いている……普段の勢いがなくしおらしいエルも、これはこれで可愛いと思ってしまうが、とりあえず今時間がもったいないので置いておく。
「急に呼び出して悪いな、これを渡しておきたくてな。」
俺は三人に指輪と腕輪を各2個づつとネックレスを渡す。
「コレ、この間預けた奴だよね?」
「増えてますぅ。」
「でも素敵なデザインですね。」
指輪と腕輪の1つは、以前俺があげたものを回収して改良したものだ。
「収納機能はそのまま使えるよ。他に、様々な機能を持たせた魔法陣を刻印してある。」 俺はひとつづつ機能を説明していく。
指輪には魔力の増幅機能があるので、其々の属性が刻印してある。
エルは風と水、リディアは風と土、アイリスの得意属性は光だが、訳あって指輪には使用できないので第二属性の水と土にしてある。
腕輪には魔力を溜めておく機能がついていて、指輪とは別の属性が刻印してある。
エルは火と土、リディアは火と水、アイリスは火と風だ。
魔力が足りなくなった時や一時的に多くの魔力が必要な時に役立つだろう。
そしてネックレスは、光と闇の魔石を中心にして周りを小さな魔石で取り囲むデザインになっていて、これだけで防護結界の効果がある様になっている。
「其々に効果があるが、このアクセサリーは全部で一つの魔法陣を形成しているんだ。」
「どういうことですかぁ?」
何のことか分からないとリディアが聞いてくる。
「全部を装着して、全体に魔力を流すことで強力な魔法結界が張られる様になっている。ちょっとした物理攻撃は跳ね返すし、中級程度の魔法ならダメージを受けずに受け止めることが出来るようになっている。流れる魔力は腕輪の魔力を使用するから普段はそれほど意識する必要はないというスグレモノだ。」
俺はドヤ顔で伝える。
かなり苦労したんだから、もっと褒めていいんだぞ。
「つまりぃ、私達はぁ、シンジさんの愛に守られてるって事ですねぇ。」
リディアがニンマリと笑いながらすり寄ってくる。
アクセサリーに苦労した分、喜んでいる三人を見て俺は気分が良くなっていた事に加え、さっきまで三人の裸体を見せられていた為に、少しだけ理性のタガが外れかけていた。
なので、すり寄ってくるリディアを愛おしく思い、そのまま抱き寄せる。
「えっ、ちょっ……まぁいいですかぁ。」
抱き寄せたリディアはそのまま俺にすりすりしてくる。
「むぅー。」
その様子を見ていたエルが、俺に抱き着いてくる。
……エルさん、胸が当たってるよ……今の状況でこれはちょっとヤバいかも……。
「ズルいですよー。」
アイリスも俺にしがみついてくる。
俺は三人を抱き寄せながら代わるがわる撫でてやる。
ふぅ……あのアクセサリー作りの苦労が報われた気がする。
「えへっ、このまま大人の階段上りましょぉ。」
リディアが頬を染めながら見上げてくる。
その言葉に俺は我に返る。
……この状況はちょっとヤバい?
俺の腕の中には、満更でもなさそうな顔をしている三人の美少女。
ここで逃げ出すのは悪手ではあるが、かと言って手を出すのも……。
俺の額に冷や汗が流れる。
「えっと、今日はもう遅いから、ね?」
「そうね、じゃぁそろそろ休みましょうか。」
エルがそう言ってベッドに目をやる。
「そ、そうだね、……みんな部屋に戻らないと……。」
「何のことですか?」
アイリスの笑顔がちょっと怖い。
「じゃぁ休むのですぅ。」
リディアが俺をベットに引っ張っていこうとする。
「いや、ちょっと待って、落ち着いて、ね、ね。」
俺が言い繕うが三人は聞いていない。
俺の長い夜が始まる……。
 




