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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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壊すより直す方が大変ってわかってるのかなぁ?

 「酷い……。」

 「これは、酷いな……。」

 目の前に広がる光景を見てアイリスが絶句する。

 それ程までに酷い光景だった。

 爆裂魔法の影響か、未だに地面のあっちこっちがくすぶっている。

 建物の殆どが焼け落ち、半壊している。

 地面にはそのまま打ち捨てられた死体が転がっている。

 そのほとんどが焼け焦げている。

 ……死体を処理するだけの余裕もないのか。


 時々ピクリと動いている者もいる……まだ息があるらしいが、それも時間の問題だろう。

 「酷い……なんでこんな……。」

 エルも顔をしかめている。

 「シンジさん、早く助けないと。」

 リディアが焦って言って来るが俺はそれを押しとどめる。

 「このままでは難しいな……ちょっと任せてくれ。」

 俺はニナとオルカを呼び寄せる。

 「お前らが先に立っていき、村の連中に出てくるように呼びかけろ。」


 「みんなー、出て来てくれー。」

 ニナとオルカが村中に呼び掛ける。

 子供たちの後ろには兵士たちが控え、万が一の場合に備えている。

 しばらくすると村の方々から、人々が出てくる。

 みんな一様に痩せこけていて生気がない。

 しかし、皆が木の棒や包丁、クワなどを持ち、目をぎらつかせている。


 「みんな、どうしたんだよ。」

 オルカも、村人たちの異様な光景に落ち着きをなくす。

 「オルカ、そいつらは何じゃ!」

 村の代表らしき老人が一歩前に出てオルカに問いかける。

 「何って、この人たちは……。」

 「俺はただの冒険者だよ。」

 俺は、オルカを遮る様に前に出る。

 「途中、このガキどもに襲われてな、返り討ちにして捕らえたんだよ。今はこのガキどもは俺の奴隷って事になるかな。」

 俺の言葉に、村人たちは殺気立つ。

 

 「ちょ、まっ…ンぐっ。」

 何かを言いかけようとしたオルカの口をニナが塞ぐ。

 昨夜話していてわかったが、彼女はかなり理解力が高い。

 たぶん俺の行動も何かあっての事だろうと理解して、邪魔にならないようにオルカを押さえてくれたんだと思う。

 しかし、この世界は何で女の子の方が頼りになるんだろうね。

 オルカといい、アッシュといい、ちょっとは頑張らないと、愛想つかされるぞ。

 俺の脳裏に、かっての友人の姿が浮かぶが、今はそれどころじゃないと振り払う。


 「それで、ガキどもの落とし前をつけてもらいに来たんだが、代表はアンタでいいのか?」

 俺の言葉にいきり立った村人が襲い掛かろうとするが、その足元に魔力弾を撃ち込むと、大人しくなる。

 「代表は儂じゃ、話を聞こう。……お主らは手を出すんじゃない。」

 老人は村人達に手を出さないように言うと俺の前に進み出てくる。

 「子供たちの非礼は詫びよう。しかし何が望みじゃ?見ての通りこの村には何もない……みんな兵士たちに奪われてしまったからのぅ。」

 老人は俺の背後の兵士たちを睨みつける。

 「フン、まだ残ってるだろ?」

 俺は意地悪くそう言う。

 「あれば差し出している。本当に何もないのじゃ、村中漁ってくれても構わんぞ。」

 老人は半ば諦めたかのように言い捨てる。

 「あるだろう?お前たちの命がな。……たった今から、俺がこの村を支配する。俺の命令には絶対服従だ!逆らうことは許さん!逆らった奴には死ぬより辛い目に合わせてやる。わかったら、武器を捨てて跪け!」


 (わぁー魔王様ですよぉ。)

 (案外、シンジ気に入ってるんじゃない?魔王サマってフレーズが。)

 (魔王様、素敵です!私を嬲って下さいぃ!) 

 (あのぉ、エルさん、リディアさん、大丈夫なのでしょうか?)

 (ニナちゃん、心配いらないわよ。)

 (シンジさんに任せておけば大丈夫なのですよ。)

 (そうなんですね……でもアイリスさんは……?)

 (アレは病気だから放っておいてあげて。)

 (はぁ……。)


 俺の背後でエル達がゴソゴソと小声でしゃべっている。

 全部聞こえているんだよ!

 後で覚えておけよ……と、アイリスは何とかしてくれ。


 「どうした?それとも見せしめが必要か?」

 俺はニナの腕を取り、俺の方へ引き寄せる。

 手にした銃を一度ニナの方へ向け、それから上空に向けて魔力弾を放つ。

 上空で大音響が響き渡る。

 俺の腕の中で、ニナがビクッと震える。

 

 「わかった……言う通りにしよう。」

 老人がその場に跪くと、他の村人たちもそれに倣う。 

 ふぅ……何とかなりそうだ。

 

 「じゃぁ、まず手始めに死体を広場へ、息のある者はこっちへ運べ。また、怪我、病気、体調のすぐれない者は先にこっちへ来い。」

 俺はエル、リディア、アイリスに治療を優先にお願いする。

 男達には、兵士達について瓦礫の撤去や、死体を荼毘に付したり井戸の整備など、力仕事を任せる。

 女達には病人や怪我人の介護と、炊き出しの準備をさせる。


 最初は戸惑っていた村人達だが、俺達が害をなさないとわかると、言われた通りに動いてくれる。


 「シンジ様、ありがとうございます。」

 炊き出しの準備をしているニナが俺にお礼を言ってくる。

 「気にするな、それより固形物を受け付けない人もいるかもしれないから気をつけてな。」

 俺はニナに追加の食材を渡す。

 「わかってます。これでも、ずっとお婆ちゃんの介護をしてたんですよ。」

 そう言って笑うニナの頭を撫でてやる。

 「今は頑張る時だよ、今を乗り越えれば、きっと昔みたいに笑って過ごせる日が来るからな。」

 「はい、がんばりますっ!」

 俺はもう一度ニナの頭を撫でてからその場を離れる。


 ◇


 「こっちの様子はどうだ?」 

 俺は瓦礫を片付けている兵士に声をかける。

 「あ、シンジ殿。取りあえず転がっている死体は全て燃やしました。今、その後処理をしています。」

 「それよりシンジ殿、ちょっとこっちを見て貰えませんか?」

 俺は兵士の指さす方へ向かう。

 そこには井戸があった。

 瓦礫などは取り除かれてはいるが……。

 「ちょっと、ここの水は使えそうにありません。」

 「他に井戸は?」

 「向こうにもありますが、ここと同じです。」


 瓦礫、死体等で塞がれていた井戸の水は完全に穢れて汚染されていた。

 食料があっても水が無いと暮らしていけない。

 「誰か、エルを呼んできてくれ。」

 「俺が行ってくるっ!」

 そう言って飛び出して行ったのはオルカだった。

 「あの子はまだ小さいのによく頑張ってますよ。」

 微笑ましいものを見るように、その兵士はオルカを見送りながらそう言った。

 「そうだな……。」

 俺もその兵士と一緒にオルカが走っていった方を見つめる。


 「シンジ、何かあった?」

 オルカがエルを連れてきてくれる。

 「あぁ、井戸がな……。」

 俺は井戸の方に視線を向ける。

 「そっか……うーん、ちょっと一人じゃ無理そうね。……リディアを呼んできてくれる?」

 エルはオルカにリディアを呼ぶように声をかける。

 「向こうはいいのか?」

 「ウン、重体の人達の治療は終わったし、アイリスの方が回復魔法に長けているから、しばらくは大丈夫だよ。それより聖水と魔晶石ってどれくらいある?」

 俺はエルに収納から出した聖水と魔晶石を渡す。


 エルは魔晶石に魔力を込めると井戸の周りに置いていく。

 「お待たせしましたぁ。」

 エルの準備が終わった所で、リディアがやってくる。

 「じゃぁ、リディアちゃん、こっちへ来て。」

 「ウン、浄化の儀式だね。」

 エルとリディアは井戸を挟むようにして立つ。

 エルが井戸に聖水を流し、リディアの両手を取って呪文を唱える。

 リディアも、それに追従するように呪文を紡ぎ出していく。

 二人の身体から白い光が溢れ出し、井戸を包み込んでいく。

 

 ……あぁ、あの世界と同じ光だ。

 俺は唐突にそう思った。

 二人から溢れ出す光が、女神と会った場所の光だと、何故か理解できた。


 しばらくすると、光が収まり二人から力が抜け、その場で座り込む。

 「ふぅ……ちょっと動けないね。向こうの井戸とは繋がっているから、聖水を流せば浄化されるよ。」

 そう言ってエルは聖水を渡してくれる。

 俺は近くの兵士にその聖水を渡す。

 

 「お疲れ、ありがとうな。」

 俺は二人にねぎらいの言葉をかける。

 「シンジさーん、魔力補充ですぅ!」

 リディアが飛びついてくる。

 「元気一杯じゃねぇか!」

 俺はリディアを抱きとめて悪態をつく。

 「そんなことないですよぉ……今ので力を使い果たしましたぁ。」

 リディアから、くたっと力が抜け俺にもたれかかり、やがてすぅすぅという寝息が聞こえてくる。

 「ったく、くだらんことで力を使い果たすんじゃねぇよ。」

 俺はリディアを抱きかかえたままその場に座り込む。

 「リディアに先を越された。」

 エルが膨れている。

 「シンジ、そこ動かないでよ。」

 そう言って、エルは俺の膝に頭を載せてくる。

 そしてしばらくするとエルからも安らかな寝息が聞こえてくる。

 「ったく、動けないじゃないか。」 

 俺は二人の頭を撫でてやる。


 「サボっている人はっけーん。」

 どれくらい時間が経ったのだろうか、アイリスが声をかけてくるまで、俺もぼーっとしていた。

 「二人とも酷いですよー、私に押し付けてシンジ様とイチャイチャしてるなんて。」

 そう言いながら俺の横に腰かけてくるアイリス。

 「まだ二人とも休んでいるんだから少し静かにしてやってくれ。」

 「うぅー、仕方がないですね。それより、こんなところでどうしたんですか?みんな拝んでますけど?」

 「……何故拝まれるか俺も分らん。」

 「それは、お二人のお陰で井戸が使えるようになったからですよ。」

 ちょうど水を汲みに来たニナがそんな事を言う。

 「二人のお陰って……何やったの?」

 アイリスがニナに訊ねる。

 「よくわかりませんけど、お二人が手を繋いだら、ピカーって光って……そうしたら腐って使えなかった井戸の水がすごくきれいなお水に変わったんです。」

 ニナの説明に、アイリスがそう言う事ですか、と頷く。


 「こんな何もない所で『浄化の儀式』を執り行ったんじゃ倒れてもしょうがないですよね。」

 アイリスが、まだ眠っているエルとリディアの頭を撫でる。

 「本当に凄い人達です。」


 「なぁ『浄化の儀式』ってそんなにヤバいのか?」

 俺はそれ程負担がかかるものだと思っていなかった。

 ただ、穢れたモノなら、神聖術で癒せるだろうと軽い気持ちでエルに頼んだのだったが。

 俺がそう言うとアイリスが少し困った顔で答えてくれる。

 「うーん、基本的にはシンジ様の考えで間違ってはいないんですけどね。浄化の儀式は本来清められた神殿の中もしくは、その為に数か月かけて清めて準備した場所で執り行うものなんですよ。それがこのような場所に簡易結界を用意するだけで執り行ったのではかなり負担があったと思います……というか普通は成功しないですよ。」

 アイリスが呆れたように言う。

 どうやら二人がやった事は俺の想像以上に凄い事だったらしい。


 「はぁ……お二人にここまでされたら、私は一生かかってもこの恩を返すことできませんよ。」

 「だったら、今度エルの目の前であの格好をしてやるんだな。」

 俺は揶揄う様にアイリスに言う。

 「うぅ……あの格好は流石に……。」

 あの格好というのは、エルがニナ達に着せていた服……メイド服(ネコミミ付き)の事だ。

 なんでも、ベルグシュタットの貴族の間で使用人に着せるのが流行っているらしく、その事をリディアから聞いたエルが、リディアとアイリスに着せようと、こっそりと作っていたものだったらしい。


 「こっちにスープを持ってきますから、シンジ様はお二人をゆっくりと休ませてあげてくださいね。」

 逃げるようにしてその場を離れるアイリス。

 「ゆっくりと、って言われてもなぁ……俺もそろそろ疲れて来たんだが。」

 今は俺の膝を枕にして抱き合うようにして寝ているエルとリディア。

 こんなに長く寝るのなら、テントでも出してそこで寝かせてやりたいところだが、俺が少しでも動くと、リディアがギュっとつかんで離してくれないので、動くに動けずにいる。


 時々、兵士やオルカ達が次にやる事の指示などを仰いでくるので、この場で指示を出し、復興作業に問題は起きてはいないが、その都度拝んで帰るのだけはどうにかして辞めさせたいと思う。

 

 ◇


 夜になり、最後の炊き出しを終えると、村人たちは各々の家へと帰っていく。

 まだ崩れていないか奥に分散して暮らしているそうだ。

 仮でもいいから家屋の建築や修繕を優先した方が良さそうだな。


 そして俺達は広場の片隅を借りてテントを張っている……まぁ、野営と変わらないのでそれほど気にすることはないんだが……。


 「だから、アイリスはお姫様なんだから、村のいい家に行きなさいよ。」

 「イヤですよ!大体、お二人は昼間ずっとシンジ様と一緒にいたじゃないですか。今夜位私に譲ってくださいよ!」

 「何言ってるのよっ!何で譲らないといけないわけ?」

 「私はシンジ様の奴隷ですからぁ、一晩中お世話をする義務があるんですぅ!」

 「何が奴隷よっ!アンタはただ縛られたいだけでしょうがっ!」

 ……さっきからエルとアイリスの言い合いが続いている。

 森の中じゃないんだから、広場を通る人に丸聞こえなんだが?

 俺がそう指摘すると、エルは一瞬黙り込み、遮音結界を張った後、アイリスとの言い合いに戻っていった。

 ……まぁいいけどね。


 「ところで、お前は何してんだ?」

 俺の背中にのしかかる様にして引っ付いているリディアに問いかける。

 「えへっ、シンジさん分の補給ですぅ。」

 にっこり笑いながらギュっとしがみ付いてくるリディア。

 あんまり押し付けられると、その……色々困るんだけどな?

 「エルさんとアイリスはおバカなのです。争いは何も生みません、なのですよ。その証拠に、お二人が争っている間に私がシンジさんをたっぷりと堪能できるって事ですぅ。」

 リディアが、更に押し付けてくる。

 ……うーん、エル程じゃないがリディアもなかなか……って、何を考えているんだ!

 俺は妄想を振り払いリディアに離れてくれるようにお願いしてみる。

 するとリディアは背後から俺の耳元に顔を近づけ囁いてくる。

 「感じちゃいますか?シンジさんになら……いいですよ?」


 「ええぃ、離れろっ!」

 「イ・ヤ・で・すぅ!離れたくないですぅ!」

 振り落とされないようにぎゅっとしがみ付くリディア。

 全く、どこでそう言う事を覚えてくるんだか……理性が吹っ飛びそうになるじゃないか。


 ……結局、その晩は3人をテント内に閉じ込め、俺が焚火の番をするという名目で外で夜を明かすことになるのだった。

   

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