弱肉強食って正しいのかな?
「ストップ……囲まれている。」
気配を感じた俺は、皆を止める。
「何人くらいなの?」
エルが聞いてくる。
「9……いや、10人か。しかし……。」
「何か気になるんですか?」
リディアが傍に来る。
「いや……何て言うか、囲んでいる奴らの力が弱いんだよ。」
気配から、相手の力量がなんとなく伝わってくる。
それから推測するに、囲んでいる奴らの力では、俺達と一緒にいる兵士達2~3人を相手にするのが精一杯だろう。
隠れている所から、兵士たちの姿が見えないという事もないだろう。
「いくら囲んでいたって、相手にならないことはわかるはずだ。それが分からないぐらいのバカなのか、それとも……。」
「何か罠が仕掛けてあるか?ですわね。」
アイリスがそう言う。
アシュラム国の兵士たちは、俺達を中央にして守る様に取り囲むが、俺はその輪から出て、一歩前に進む。
「出て来いよ。まさかそれで隠れているつもりじゃないんだろうな。」
俺は挑発をしてみる。
しばらく待つと、ガサガサっと音がして、茂みの中から人影が現れる。
「こ、子供!?」
兵士たちから声が漏れる。
出てきたのは、手作りっぽい不細工な出来の弓矢を持った子供たちだった。
「動くなよ、上からも狙ってるんだからな!」
一人の男の子が一歩前に出てきて、弓を構えながらそう言った。
たぶん、この子がリーダーなのだろう……が、どうするか?
リーダーっぽい男の子の後ろに三人の男の子、木の上に三人の男の子、後ここからは一見見えないが、奥に3人……たぶん女の子か。
俺はちらっと、エルとリディアに視線を向けた後、その男の子に視線を戻す。
「何が目的だ?」
俺の問いかけに、リーダー格の少年が応える。
「食料だ。ありったけ置いてここから立ち去れっ!そうすれば見逃してやる。」
気丈に振舞っているが、手足が小刻みに震えている。
飛び出そうとする兵士長を、俺は気づかれないように押しとどめる。
「俺達が抵抗するって事を考えていないのか?」
「う、上から狙っているんだ!一歩でも動けば、すぐ射抜いてやるぞ。」
「上にいるのは三人、運良く倒せたとしても三人まで、残った者たちがお前らを組み伏せる……それで終わりだ。」
「うるさいっ!早く食料を置いてけっ!」
声が震えているが引く様子はない。
仕方がないか。
「それにな、一歩も動かなくても無力化できるんだよ。」
『竜巻』
『落とし穴』
俺の言葉とともに、エルとリディアの魔法が放たれる。
風が舞い、木の上にいた三人を巻き込んで地面に落とす。
リーダー格の男の子の後ろの足元が陥没し、後ろの三人の体半分が地面に埋まる。
俺は左腕のブレスレットに手を触れると、ブレスレットは光の粒子となり、俺の手にはコルトパイソンが握られる。
俺は銃口を、リーダーの少年に突きつける。
「武器を捨てて降参しろ。」
「くそっ!」
リーダー格の少年は弓を捨てると、ナイフを握って飛び掛かろうとしていた。
「よせっ!」
俺は彼の足元に向けて、引き金を引く。
バシュッ!
足元に穴が穿たれ、その勢いに少年の足が竦む。
「もう一度言う。武器を捨てて降参しろ。それとも、後の女の子達まで巻き込みたいのかっ!」
「クッ……、なんで……。」
リーダー格の少年の手からナイフが落ちる。
俺は、取りあえずその少年を拘束する。
他の子達はすでに兵士たちによって拘束されている。
「さて、その奥の女の子達、ここまで来なよ。」
俺はナイフを拾い上げ、それを少年の首にあてる。
「よせっ!来るなぁ!逃げろぉっ!」
リーダー格の少年が必死に声を張り上げる。
「シンジさん、悪人顔ですぅ、さすがは魔王様ですぅ。」
リディアが茶化してくる。
「うるさいよ。」
ってか、そのネタまだ引っ張ってたのかよ。
「やめてください、行きますからっ……。」
森の奥からそんな声が聞こえて来たかと思うと、三人の女の子が姿を現す。
前を歩く女の子はリディアと同じぐらいに見え、その後ろについてくる女の子二人は更に幼く見える。
「ら、乱暴しないでください……。」
声が震え、身体も小刻みに震えているが、俺をしっかりと見上げてくる。
「大人しく言う事を聞けば、乱暴はしないよ。……連れていけ。」
俺の言葉にエルが三人の女の子を奥のテントへ引っ張っていく。
アイリスは兵士たちに指示をして野営の準備を始めている。
「ニナ達をどうする気だ!」
拘束された少年が叫ぶ。
こういう場面で、自分より他人を気にかけることが出来るのは微笑ましいが、自分達がいかに危険な事をやっていたかを思い知らせてやらないとな。
「そんなの、……わかるだろ?」
俺は奥のテントに目をやり、ニヤリと笑う。
「わー、すっごい悪人顔。」
リディアが、笑いながら囁いてくる。
だから、うるさいっての。
「止せっ、俺はどうなってもいい。だからニナ達に手を出さないでくれ。」
リーダー格の少年が叫び、他の少年たちもそれに追従する。
「あのなぁ、お前らは負けて俺達に捕らえられた。しかも、先に襲ってきたのはお前らだ。つまり、何をされても文句は言えないんだよ。」
俺の言葉に、少年たちは言葉を失う。
「男が一杯の所に放り込まれた女の子。しかも襲われたのを返り討ちにしたわけだから義はこちらにある。……どうなるかわかるだろ?」
「ヤメロ、やめてくれ……俺はどうなってもいい……だからお願いだよぉ!」
リーダー格の少年は必死に懇願してくる。
「だったらっ!何故こんな事をしたっ!何故この場にあの子達を連れてきたっ!こういうことになるってわからなかったのかっ!」
「違うっ、違うんだっ……。」
「何が違うんだ、これがお前らがやった事の結末だよ。戦場で捕まった女の子は、すぐ殺されるようなことはしない。捕まって、身動きが取れないようにされて、戦いの猛りを収めるのに使われる……代わるがわる慰み物になるんだよっ!分かっているのかっ!」
少年達は声も出せずに絶句している。
「……安心しろ、兵士達にはあの女の子達へ手出しを指せない。」
俺の最期の言葉に、少年達はほっとした表情を見せる。
「兵士達には……って、シンジさんは手を出すって事ですかぁ?」
一瞬緩んだ空気の中に、リディアが爆弾を放り込む。
「勝者の特権ってやつだよ。ニナって子はいい身体してるみたいだし、他の二人もやや幼いみたいだけど、十分楽しめそうだ。」
俺はニヤリと笑って立ち上がり、リディアに後を任せてテントへと向かう。
「ヤメロぉ……ニナぁぁぁ……。」
少年の叫びが聞こえるが無視する。
◇ ◇ ◇
「ニナって子、可愛いよね。おかげで今夜からしばらくは、私は解放されるかな。」
テントの中に入っていったシンジさんを見送った後、私は少年たちに聞こえる様にそんな事を言ってみる。
「安心して、あぁ見えてシンジさんは優しいので、女の子達は優しく、可愛がってもらえると思うよ?」
「安心できるかよっ!俺の所為で、ニナは、ニナはぁ……。」
私の言葉に、リーダー格の少年が嗚咽を漏らす。
可哀想に、この子達落ち込んじゃってるね。
まぁ、煽った私も人のこと言えないんだけど……嘘は言ってないからね。
今頃、あの子達はエルさんに可愛がられているんだろうな。
シンジさんは行き過ぎないように止めに行った……と思うんだけど、ひょっとしたら悪乗りしているかもしれない。
後でフォローしなきゃいけないかな?
それはそれとして、この後どうすればいいのかな?
私が男の子達を見ると、リーダーっぽい子が「ニナ、ニナ……」とつぶやいている。
あーぁ、シンジさんが脅すから、信じ込んじゃってるよ。
とはいっても、シンジさんの言う事は間違っていない。
覚悟がない者は戦いの場に出る資格はないからね。
こんなことを言うと、シンジさんは起こるかもしれないけど、私だっていざという時の覚悟はしている……もし私が捕まって、そんな目にあうことになったら、私は辱められる前に自ら命を絶つ。
王族の私は、王家のたしなみとして、幼い頃からそう言う事も教え込まれてきている。
戦争になり敵に捕らえられた時の為に、王族は皆、自発魔法の魔法陣をその身に刻んでいる。
本人の意思一つで発動する自爆魔法……自らの身体を触媒にするから防ぐ術はなく、確実に発動できる魔法。
捕らえられ、辱めを受けたり、利用される前に、自ら発動させて命を絶つ。
お父様や兄さまたちはエクスプロージョンを刻んでいると聞いたけど、私の場合は極大メテオ……どうせなら道連れを多く、という事でそれを選んだ。
この子たちは本当に運がいい。
出会ったのが私達じゃなかったら、男の子達は今頃殺されているか、良くて奴隷商人に売られていたはず。
そして、ニナという事一緒にいた女の子は、シンジが言っていた通りの扱いを受け、散々弄ばれた後奴隷商人に売られていたはずだ。
ホント、シンジさんは甘いんだから……。
取りあえず、話を聞こうかな。
そして反省を促してから食事の用意をさせよう。
「ねぇ、アンタたちなんでこんなことしたの?やられるって思わなかったの?」
私は男の子達にそう問いかける。
「仕方がなかったんだ……。」
私が女だからか、シンジさんより話しやすいのか、男の子達は素直に代わるがわる話してくれる。
◇ ◇ ◇
「あ、シンジ、準備できてるよ。」
俺がテントに入ると、寝台の上に半裸で縛られている女の子が三人座っていた。
「乱暴にしないでくださいね……。」
泣きそうになりながら、必死にそれだけをいう。
「オイ……。」
俺は文句を言おうと振り返ると、そこにはロッドを構えたエルがいた。
「……何のつもりだ?」
「えっ?あー、シンジが手を出そうとしたらはり倒そうと。」
「だったら、なんでこんなことしてるんだよ……ったく。」
俺は再度ベットを見る。
真ん中に座っている年長の子……この子が多分ニナだろう……が俺を見上げながら言う。
「私はどうなっても構いません、なんでもいう事を効きますので、この子達には手を出さないでもらえませんか?」
俺はニナに近づくと、彼女はビクッ、と身体を強張らせる。
「あー、取りあえず着替えようか。」
◇
「シンジ、着替え終わったからもういいよ。」
エルの言葉に俺は振り返る。
一応女の子の着替えだからな、見ないように後ろを向いていたんだが……。
「オイ、これはどういうことだ?」
「可愛ぃでしょ!」
「可愛いが、俺が言いたいのはそう言う事じゃないっ。」
ニナと他二人の女の子は、確かに服を着ていた……色違いだが同じデザインで、そのデザインはこの世界で目にした事が無い……いわゆるメイド服だ。
しかも頭には猫耳をつけているという周到さ。
良く似合っていて可愛いのだが……何故、この世界にメイド服が?とかネコ耳はどこから?とか色々と疑問が残る。
「んー、取りあえずね、自分たちが如何に危険だったかって事を分かってもらわないといけないからね、コレくらいは我慢してもらわないとね。それとも……シンジがヤッちゃう?」
エルの言い分には一理ある……まぁ、なんだかんだと言ってるが、エル自身が楽しみたいのは間違いないとおもうが。
「シンジはホントに女の子に甘いのね。男の子達は散々脅していたくせに。」
「ウン、可愛いからいいか。それより訳を話してもらおうか。」
俺は風向きが怪しくなってきたので、慌てて話題を変える。
ニナは、俺とエルの様子を見て緊張がほぐれたのか、ゆっくりとだったが今までの事を話してくれた。
◇
「困ったねぇ。」
リディアがそう言う。
このテントにはエルとリディア、アイリスの他にはニナ達三人の女の子がいる。
俺とエルがニナから、アイリスとリディアが少年達から話を聞いた後、食事を振舞うと、お腹が膨れて緊張が緩んだのか、色々あって疲れてたのかは分からないが、眠そうにしていたので、女の子達をテントに招いて眠らせてやることにした。
少年たちはテントの外で、固まって寝ている。
それほど寒くもないし、兵士たちが交代で見張りをしているので、危険はないだろう。
そして俺達は、得た情報をもとにこれからの事を話しあってるわけだが……。
「でも、あの村がそんな事になってるなんて……。」
アイリスが目を伏せる。
ニナとオルカ……リーダー格の少年の名前だ……が其々話したことをまとめると、彼女たちが住んでいたのは、俺達が当面の目的地としていた村だった。
その村は国境から一番近いとはいえ、それなりの距離があり、国境との間には森が自然の要害となって、攻め込まれる心配の少ない村だった。
しかし、数週間前に王都から兵士たちが「国境警備の為」と称してやってきた。
兵士たちは村の中ではやりたい放題で、無銭飲食、暴行、家探し等、傍若無人に振舞っていたそうだ。
そして、つい先日、急に村から引き揚げた兵士達。
村人たちは、やっと厄介者がいなくなったと、胸をなでおろしたのもつかの間、今度はグランベルク兵達の急襲を受ける事になった。
戦う術を持たない村人たちは、当然のことながら無条件降伏を受け入れるが、降伏を受け入れた村の行く末は無残なものだ。
兵士たちによる略奪は当たり前のように行われ、気に入らないという理由で男を殺し、目についたからと、女を犯し、食料、財産を巻き上げる……盗賊と何処が違うのだろうと、目を覆いたくなるような光景が、毎日のように繰り返される。
しかし村人たちを襲う惨劇はそれで終わりではなかった。
村を略奪し、気の緩み切った所に、アシュラム王国の魔法師団が広範囲爆裂魔法を村へ打ち込む。
村にいたグランベルクの軍隊は壊滅状態となり、辛うじて生き延びた兵達は国境まで引き上げていき、残されたのは家屋が焼け崩れ、井戸は灰と死肉で汚染され、村とは名ばかりの焼け野原だった。
ニナ達は、村にいると兵士たちに襲われるという事で、グランベルクの軍隊が攻めてくる数週間前から近くの山に、オルカ達を含めた子供と若い女性を中心に避難していた為、難を逃れたそうだ。
爆発があった後村に戻ってみると、昔の面影は跡形もなく、愕然としたと言っていた。
今、村には避難していた人たちを生き延びたわずかな人達が細々と復興に向けて頑張っているらしいが、食料も何もない状態で、その日生き延びるのがやっとというような状況らしい。
オルカ達は食料を得るために山に入ったが、獲物は取れずにいた所で、俺達が通りかかるのを見て、行動に移したという。
オルカの言い分は「兵士たちの所為でこうなっているんだから、食料を奪って何が悪い」というものだが、実力がなく返り討ちにあう事までは考えていなかったらしい。
「シンジ様……何とかなりませんか?」
アイリスが俺に聞いてくる。
「村はすぐ近くだ。あの子達を送りがてら村へ行って、それから考えよう。」
食料を分け与えるのは簡単だ。
収納の中にはかなりの食材を溜め込んであるからそれを提供すればいい。
しかし、それをやっても一時凌ぎにしかならない。
アシュラムやグランベルクの兵が来たら、また同じことの繰り返しになるだけだ。
助けるのなら、最後まで面倒を見なければならない。
また、選択肢としてはベルグシュタットに亡命させてやるという手もある。
村の惨状を聞いて、何とか助けなければと思い煩うアイリスと、憤るリディア。
しかし、何かを考えこむように、ずっと黙ったままだったエルの様子が、気がかりだった。




