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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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『ナイトメア』って、厨二心をくすぐる名前だと思いませんか?

 ……イヤな夢を見た。

 私はベットから身を起こす。

 さっきまで見ていた嫌な夢……意識の覚醒に従って、内容が薄く引き伸ばされていく。

 今では、もうほとんど思い出せない……ただ、イヤな夢を見たという重い気分だけが残る。

 

 こういう時は癒されるのが一番ね。

 私はそう思って、隣を見る……が誰もいない。

 ……寝る前は確かに一緒にいたはずなのに。

 お手洗いにでも行ってるのだろうとは思うが、さっきまでの夢見の悪さが不安を掻き立てる。

 一緒にいたのが夢だったら……本当は私は独りぼっちなのではないか……。

 そんな不安で胸の中が一杯になる。

 嫌だ……一人はもう嫌だ……シンジ……シンジはちゃんといるよね?

 私はベットから降りると隣の部屋へ向かう。


 ◇


 この扉の向こうでは、シンジが寝ているはず。

 いるのを確認するだけ、そこにいるのを確認できたら、私は安心して眠れる。

 私は、そう自分に言い聞かせて扉を開ける事にする。

 しかし、ドアノブに手をかけたところで、中から聞こえる声に気づく。


 「リディア、そんな直ぐは無理だよ。」

 「そんなこと言ってぇ……もぅこんなになってるじゃないですかぁ。」

 「じゃぁ私が……。」

 「アイリスさんズルいですぅ。私が先ですぅ。」


 シンジと……リディアの声?アイリスもいるの?

 でも何をやってるのかしら?リディアの声が時々くぐもって……何かペチャ、ペチャって音もかすかに聞こえてくるし……。

 

 「しかし、アイリスのは可愛いな。」

 「えっ、そ、そんなぁ……普通の大きさですよ?」

 「ぶぅ…どうせ私のはちっちゃいですよぉ、エルさんのみたいに大きくないですぅ。」

 「そんなこと言ってないだろ?……まぁ、確かにエルのは大きいかもしれないけど。」

 「フンだ、エルさんのより小さいけど、形はいいんですぅ……ほら、ほらっ。」

 「ば、バカ、寄せ、近づけるな。」


 な、何の話をしてるのっ!大きいとか、小さいとか……アレの話よね?

 でも形とか……リディア見せてるのっ?


 「シンジさん……どうかな?……そうじゃなくて、ちゃんと触って確認してよ。」

 「……あぁ、いいんじゃないか。柔らかくて弾力があって……。」

 「シンジ様、私のもっ!私のも触ってみてくださいっ!」


  アイリスもリディアも何やってるのよっ!


 「アン……シンジさぁーん、私、も、もう我慢できないですぅ……。」

 「ダメ、もう少し我慢して。」

 「でも、でも、でも……もうダメェ……。」

 

 リディアが切なそうな声でシンジに訴えてる……何やってるのよ!

 「それ以上はダメっ!」

 私は大声で叫んで、扉を開けた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 「何やってんのっ!それ以上はダメっ!」

 エルが突然怒鳴り込んできた。

 「何って……。」

 俺達は顔を見合わせる。


 「パン作りだけど、エルさんもやりますかぁ?」

 リディアが作りかけのパン生地をエルに見せる。

 「へっ?パン?」

 「そうですよぉ。あ、エルさん聞いてくださいよぉ。シンジさんったら、エルさんの分だからって大きく(・・・)作ってるんですよぉ。」

 「お、大きい……って、パン?」

 「そうですよ?」

 

 「いや、これくらい普通だろ?」

 俺はエル用に練ったパン生地を見せる。

 「そう、……パンの話……アハハ……。」

 気が抜けたように笑うエル……どうしたんだろう疲れているのかな?


 「それよりエル様、助けてくださいぃぃ。」 

 アイリスがエルに助けを求める。

 「……って、何でアイリスが縛られているのっ?」

 「アイリスがヘンタイさんだからですぅ。」

 「違うんです!違うんです!リディアさんが酷いんです!」

 リディアの言葉に、アイリスがぶんぶんと首を振る。

 

 「リディアさんが、パンの中にいれるクリームばっかり舐めちゃうから止めようとしたんですよ、そうしたら……。」

 「アイリスは縛られて喜ぶヘンタイさんだから、その要望に応えただけですぅ。」

 「そ、そんな事……。」

 リディアの言葉に、アイリスは恥ずかしそうに俯いている。

 ……何故真っ赤になって俯く?


 「……まぁ、それなら仕方がないわね。」

 エルもリディアの言葉に深く頷き、そのまま放置することにしたらしい。

 「そ、そんなぁ……。」

 ……イヤイヤと言っているアイリスがなぜか嬉しそうな表情をしているのは……

イヤ、気のせいだ……ウン、気のせいに違いない。


 「でも、なんでパン作り?」

 エルが訊ねてくる。

 ……まぁ、気になるだろうなぁ。

 「いや、リディアが寝れないって言って、俺の部屋に来て……。」

 「それは口実ですわ。リディアは夜這いをかけに行ったんですよ。」

 アイリスが横から口をはさむ。

 「何でアイリスがその事を知っているの?」 

 エルが何気に聞いてくる。

 「そ、それは……。」

 アイリスが言い淀む。


 「アイリスもシンジさんの事を狙ってたからでーす。」

 エルの疑問に答えたのはリディアだった。

 「私が部屋の前に来た時、アイリスがウロウロしてるの見ましたぁ。私の姿を見て、さっと隠れたのも知ってまぁす。」

 「……要は、二人とも、シンジに夜這いをかけに行ったと?」

 「だ、だって、エルさん、ぐっすりと寝ていたから起こすの忍びなくて……。」

 エルの迫力に、リディアが後ずさる。


 「まぁ、そんな事はどうでもいいじゃないか、それよりエルも作るか?」

 俺はエルに声をかける。

 別に仲間外れにしてたわけじゃない。

 リディアも言ってたようにぐっすりと寝ていたから声をかけなかっただけだ。

 最近、よくうなされているとリディアが言ってたからな、ゆっくりと休んでいるなら、そっとしておくのがいいだろう。


 「ううん、私は見てるわ。」

 そう言ってエルはリディアを抱きかかえる。

 「わかった、そのままリディアを捕まえておいてくれ。さっきも、まだ焼いてないのに食べようとしていたからな。」

 「ウン、任された。」

 食いしんぼさんはどの口かなぁ?とか言ってリディアの口をムニムニしているエル。

 その様子はとても楽しそうだ。


 俺は収納から、オーブンの魔道具を取り出して、パン生地を入れる。

 これもアイリスに教えて貰った魔道具だ。

 この世界の……というより、特にアシュラム王国の魔道具は、向こうの世界の家電とコンセプトが似通っている。

 なので、向こうにあった家電を基に、こういうのは?とアイリスに訊ねると、すでに流通してるものは刻印する魔法陣を教えて貰い、初めて聞く物だった場合は、一緒に魔法陣を考えたり……と、向こうの家電をできるだけ再現してみた。

 

 そんな風にこの2~3日は魔道具の作成ばかりしていたおかげで、今度の旅はずいぶん快適に過ごすことが出来そうだ。

 こちらの魔道具の優れている点は「魔力を注ぐことで使用できる」ところだろう。

 つまり、コードレスなので屋外でも楽々使用できるというわけだ。

 作成したものの中には、旅に必要ない物も多数あった気もするが、気にしないでおこう。


 ◇


 「ほら、出来たぞ、熱いから気をつけてな。」

 俺は焼き立てのパンを皆に渡し、残ったものは収納へとしまう。 

 もう1~2時間もすると朝食に時間だからな、余り食べ過ぎないほうがいいだろう。


 「おいひぃでふぅ……。」

 リディアがモグモグと食べながら言う。

 「わ、私にも下さいぃぃぃ。」

 あ、アイリスはまだ縛られたままだった。

 俺は一口サイズに千切ったパンをアイリスの口元に持っていく。

 パック……むぐむぐ……

 「美味しいです、もっと下さい。」 

 あーんと口を開けるアイリスへ、俺は千切ったパンを次々と与えていく。

 ……いかん、なんか楽しぃ。


 「なぁ、アイリスってこのままでもいいんじゃないか?」

 俺は振り返ってエルに言う。

 「私もそう思っていたわ。……シンジ代わって。」

 エルはリディアを俺に渡すと、アイリスへの餌付けを始める。

 「うぅ……なんか負けた気分ですぅ。」

 餌付けされているアイリスを見て、リディアが悔しそうに言う。

 「お前も大差ないから心配するなよ。」

 俺はそう言いながら、パンにつけるクリームを掬って、リディアの口の中へ突っ込む。

 「お、おぃひぃでふぅ……。」


 俺はそんな様子を眺めながら、先日の白昼夢の事を思い出す。

 と言っても細かい事は覚えていない。

 覚えているのは、女神が言った「この世界は戦乱の渦に巻き込まれる」という言葉と、この娘達を守らないと、という強い思いだけ。

 その為には俺も力をつけないといけない。

 そう思って魔道具作りを続けて来た。

 明日……というより、もう今日だな。

 鍛冶屋に頼んでおいた例のものが出来上がるから……、明後日にでもこの街を出ることになるだろう。

 旅に出たら、次にこんなにのんびりできるのはいつになるか分からないから、今この時を純粋に楽しみたいと思う。


 ◇


 「もうでるぞ、準備はいいか?」

 「いいわよ。」

 「OKでぇす。」

 「良くないですー。」

 俺の確認に声に、エルとリディアが元気よく答える。

 「じゃぁ行くか。」

 俺は手綱を握り魔力を流すと、ゴーレム馬は勢いよく走り出し、あっという間にミラノの街が小さくなっていく。

 何だかんだと言いながら、長居をしてしまった感があり、離れるのが少し寂しく感じる。 「なんで無視するんですかー。」

 「あ、シンジ、ココから北に向かうのよね?」

 「あぁ、そのつもりだ。出来れば今日中に山の麓まで行きたいな。」

 「このスピードなら大丈夫ですよぉ。」

 リディアが俺の左腕を自分の腕に絡めながら言う。

 「聞いてくださぁぁぁい。」 


 「煩いですよ!それとも縛って欲しいんですか?」

 リディアが、後部の馬車にいるアイリスに声をかける。

 「縛っ…それもいいかも……じゃなくてっ!何で私だけ仲間外れなんですか!淋しいですよ!」


 アイリスの言う通り、馬車に乗っているのはアイリス一人だけ。

 エルは俺の右側、リディアは俺の左側、といつものように御者台に座っている。

 「アイリス、ゴメンね、ここ狭いから。」

 エルが、にこやかに言う……少しは申し訳なさそうにした方が印象が良くなるよ?

 「淋しいのは嫌なのですー。私もそっちに行きたいのー!!」

 アイリスが、御者台の方へにじり寄ってくる。

 この馬車結構スピード出てるから、危ないぞ。


 「ふぅ……、仕方がないですね。私の場所譲ってあげますよ。」

 「リディア!?」

 リディアの言葉にエルが驚く。

 まさかリディアが、そんな分別のあることを言うなんて思いもよらなかったのだろう。

 「本当ですか!リディアちゃんありがとう!」

 感激したアイリスが御者台へやってくる。

 リディアは、自分の座っていた場所をアイリスに明け渡し、俺の膝の上に座る。

 

 「……あのぉ……リディアさん?」

 「何でしょう、シンジさん。」

 「何故、そこにいるのかと思いまして……。」

 「シンジさん、おかしなことを言いますね。アイリスに場所を譲ったからに決まってるじゃないですか。」

 リディアは、何言ってんの?という顔で俺を見る。

 「いや、普通は後ろに行ったりするんじゃ?」

 「何で?おにぃちゃん、リディアの事嫌いなの?」

 リディアが、瞳をウルウルさせながら見上げ、か細い声で訴える。


 クッ……あざとい……分かっているのに、抗えない。

 「いや、そぅじゃなくてな……。」

 リディアの可愛いお尻が、俺の太ももに密着している。

 この馬車は改造して振動を極力抑えてあるとはいえ、皆無ではない。

 なので、ガタガタっとするたびに、リディアのお尻が跳ねて、俺を刺激する。

 また、リディアは俺に体重を預けている為、丁度腕の中に納まる……背後から抱きしめているのと変わらない状態だ。

 その様な状況で、直接刺激を受けると……わかるだろ?


 「大丈夫だよ、私のお尻に当たっているモノの事、エルさんにはナイショにしておいてアゲル♪」

 俺の苦悩を知ってか知らずか、リディアが小声で、そう囁いてくる。 

 クッ……このあざと可愛い小娘が!

 反応してしまっているだけに何も言い返せない。


 「だぁぁぁっ!お前ら全員後ろへ行けっ!」

 俺は『空間転移(ディジョン)』の応用で、3人を後ろの馬車へ転移させる。

 ふぅ……危なかったぜ。

 俺はやれやれと一息つこうとしたが、気配を感じて馬車を止める。


 「シンジ、どうしたの?」

 エルが後ろから顔を出して聞いてくる。

 「ん、ちょっと待って。」

 俺は精神を集中して気配探知の範囲を広げる。

 何故か分からないが、先日の白昼夢を見て以来、空間スキルが使いやすくなったような気がする。

 今も、以前なら小刻みに広げていたものが、スゥっと全体を広げる様に軽快に出来る。

 「……これは?」

 俺の気配探知に引っかかったのは魔獣の群れと、人の群れ。


 「この先に魔獣と人の気配がある……魔獣に襲われているのかもしれない。」

 俺は三人にそう告げる。

 「でもぉ、この先、村とかもないですよねぇ?その人たち何でそこにいるんでしょうか?」

 「冒険者(フリーター)?」

 リディアとエルが言う。

 「いや、冒険者はこっちまで行かないようにギルドから指示があったはずだ。」

 ある程度間引きするまで……具体的には俺達が向かってから2週間は、街の北側には一定以上行かないように伝達してある。


 「ひょっとしたら……アシュラム王国の人間かもしれません。」

 アイリスの言葉に、アシュラム王国が魔獣の混乱に乗じて兵を送る計画があると言っていた事を思い出す。

 「それなら放置?」

 リディアがそう言う……まぁ、それも手ではあるか。

 「その人たちが魔獣を操ってるって事はないの?」

 「んー、戦闘の気配があるから、その可能性は低いな。操っていたとしても失敗したとみるべきだろう。」

 エルの疑問に、俺はそう返す。

 気配としては魔獣が大体20頭前後、人間の方が10人前後ってところか。

 すぐどうこうという事はないけど、時間がかかるとヤバくなりそうな感じだ。


 「あのぉ……もう少し近づいてみませんか?見捨てるにしても魔獣は退治しなければなりませんし、ひょっとしたら商人とかが襲われているという可能性もありますし……。」

 アイリスが小さい声で提案してくる。

 もしアシュラム王国の関係者だった場合、アイリスとしては肩身の狭い思いをするため、意見を出すのも消極的にならざるを得ないんだろう。

 俺達はそんな小さい事気にしないから、アイリスももっと堂々としていればいいと思う。

 もっとも、アシュラムの工作員だったとした場合、容赦はしないけどな。


 「そうだな、アイリスの言う通り、どういう相手だとしても近づいて確認しないとな。……ただ、戦闘になるから準備はしっかりとな。」

 俺はそう言ってみんなに戦闘準備を促しつつ、ゆっくりと馬車をすすめる。


 そう言えば……。

 俺はアイリスが戦えるのか?戦えるとした場合、どのような戦闘スタイルなのかを知らないことに、今更ながらに気付くのだった。


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