表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/144

女神様登場!!……って今更!?

 人気のない宿屋の一室。

 今、アイリスと二人っきりだ。

 エルとリディアには買い物を頼んである。

 かなりの量になるからしばらくは帰ってこないだろう。


 「じゃぁ、始めるか。」

 俺はアイリスを見つめてそう言うと、アイリスは少し怯える様に身体を小刻みに震わす。

 「ほ、本当にするんですか?」

 「あぁ、アイリスも了承してくれただろ?」

 今になって怖気ついたのか、アイリスの声に緊張が走る。

 「あの時は、その……。私、こういうの初めてで……。」

 「大丈夫だよ、アイリスは俺の言うとおりにしていればいい。」

 俺はアイリスの肩に手を置いて優しく告げる。

 「……わかりました。優しくしてくださいね。」


  ◇


 「アッ、シンジ様、ダメっ!」

 「大丈夫だよ。」 

 「だ、ダメですっ。そんなに強くしたら……アッ。」

 「くっ……きついな。」

 「ダメっ、ダメですぅ……壊れちゃうー。」

 アイリスが、ダメ、ダメと首を振るが、ここまで来てやめられるか。

 俺は力一杯ソレ(・・)を押し込む。

 「ダメェェェェェーーーーーーーー。」

 アイリスの悲鳴が部屋中に響き渡った。


 ◇


 「だから、ダメって言ったのにぃ。」

 責めるように俺を見上げるアイリスの眼には涙が溜まっている。

 「優しくしてって言ったのにぃ……。」

 「悪かったな。……行けると思ったんだよ。」

 「無理矢理なんて……ひどいですよ!」

 アイリスは、俺の手の中のものを指さす。

 俺の手には、ムリにシャフトを押し込んだ結果、割れてしまった魔道具の残骸が残っている。


 「いいですか、シンジ様、こういうのは余裕をもって、優しく扱わなければダメなんです。……女の子と同じですよ。」

 アイリスの言葉の後半は小さくて聞き取れなかったが、俺は素直に頷く。

 「じゃぁ、次に行ってみましょうか。」

 最初の怯えは何だったのか?と思う位にうって変わって乗り気になったアイリスが、次の作業を促してくる。

 元々、アシュラム王国での魔道具の作り方を教えて欲しいと言ったのは俺の方なのだから、彼女が乗り気になってくれるのはありがたい。

 俺は、素材を取り出して、次のアプローチ方法をアイリスに訊ねるのだった。


 ◇


 「ふぅ……シンジ様は規格外ですねぇ。」

 アイリスは部屋中に散らばった魔道具を見て、そう呟く。

 「そうか?コレくらい普通じゃないのか?」

 今まで、アイディアはあったものの、方法がわからず途中で断念していた物も、アイリスのお陰で完成させることが出来た。

 流石は魔道王国アシュラムの王女様なだけはある。

 アイリスの方でも、自分達とは違うアプローチ方法を目の当たりにして、驚きつつもしっかりと記録していたので、お互いに益があったという事でいいだろう。


 「少なくともアシュラムでは普通じゃないですわ。A級細工師が数人がかりで1週間作業したとしても、ここにある半分ぐらいしかできません。」

 アイリスの言葉に、俺はそういうものかと覚えておく。

 今まで、基準となる物がなかっただけに、アイリスの言葉はとても助かっている。


 「でも、シンジ様のやり方は、こちらの方では定番なのですか?私は初めて見ましたけど?」

 アイリスがそう聞いてくる。

 「定番ってわけじゃないな……たぶん俺独自のやり方だろう。」

 俺の作成方法は付与術(エンチャント)を利用している。

 グランベルクの学園でエンチャントについて調べていた時に思いついた方法だ。

 一部、理論を吹っ飛ばして力づくで魔道具に付与できるので、結構重宝していた。

 ただ、やっぱり無理があるため、不安定なのが難点だった。


 それに比べて、アシュラム王国でのやり方は、道具に必要な魔法を、魔法陣として刻印するというもの。

 魔道具に直接刻印するため、安定するうえ大量生産が可能という所が素晴らしい。

 さらに、アイリスは気づいていないみたいだが、刻印する魔法陣の強度や魔力量を調整することによってかなり凶悪な魔道具も作れる。


 「そうなんですねぇ……だからこんな無茶苦茶なものが出来上がるんですね。」

 アイリスが手にしているのは、俺が以前作った「カイロの剣」

 鉄の剣に炎の属性を持たせて『炎の剣』を作ろうとした結果出来上がった失敗作だ。

 魔力を流すと適度な温かさになるので、寒い日の「カイロ」として意外と役に立っていたりする。

 「無茶苦茶なのか?」

 俺はアイリスに聞いてみる。

 「無茶苦茶ですよぉ。普通魔道具の素材は魔力伝導率が高い金属を使います。鉄のような魔力伝導率がゼロに近い様な金属に、よくこれだけの魔力を通すことが出来ますよねぇ。」

 アイリスがしみじみという。


 言われてみれば、アイリスが魔道具作成に指定した素材は、青銅や銀が混じった素材ばかりだった。

 「普通『魔力剣』を作成する場合は、剣の強度を考えてアダマンタイト鋼を使うか、魔力伝導効率の良いミスリル以上の金属で鍛えた剣を素材にするんですよ。」

 ……すると何か?

 俺が今まで魔法剣を失敗してたのは、鉄の剣を使ってたからって事か?

 ……後で武器屋でミスリルの剣を買ってこよう。


 「でも、これはうまく行きませんでしたね。」

 アイリスが胸元のペンダントを手に取りため息をつく。

 彼女が手にしているのは、転移の魔道具だ。

 魔法陣の刻印だけでなく、核になる石の方にも何やら施してあるようで、手持ちの器材ではうまく再現できなかった。

 ただ、構造は理解できた……理解できたがために、今の状況では再現が無理という事が無理だという事も理解できてしまった。


 「アシュラム王国に平和が戻れば、研究も進むさ。」

 俺はそう言ってアイリスを慰める。

 アイリスも、それ程固執していなかったのか「そうね」と言って笑顔を返してくれる。

 「それよりこれどうするの?」

 アイリスが散らばった魔道具たちを見て、俺に聞いてくる。

 大半は実験に使った試作品だから、今度再利用するために収納しておく。

 そして残ったものの中から一つを取り出してアイリスに渡す。

 「ありがとうございます……これは?」

 なぜか赤くなるアイリス。


 アイリスに渡したのは指輪型の魔道具だ。

 基本機能としては収納の魔道具だが、魔力の増幅と簡易結界の能力を付与してある。

 まぁ、お守り代わりみたいなものだ。

 俺は、そう説明したのだが……。


 「シンジ様が指輪を……でも、私は第一王女……でもでも、王位は弟が継ぐからいいのかな……、あっ、エルさんががいますね、そうすると私は第二夫人……じゃぁ、リディアさんは……???」

 ……何やら呟いているアイリス……聞いてないな。


 「あー!指輪ですぅ!私にくれずに何でアイリスさんにあげてるんですかぁ!」

 買い物から戻ってきたリディアが、アイリスが手にしている指輪を目ざとく見つける。

 「なんで・シンジさんはぁ・私に・冷たいんですかぁ!」

 リディアが、詰め寄ってくる。

 「ちょ、ちょっと待て……。」

 「待ちませんっ!大体私にくれるって言ったじゃないですかぁ!」

 「だから待てって……近い、近いっ。」

 リディアの顔が目の前にある……殆ど引っ付きそうなぐらいまで近づいている。


 リディアの腕が俺の首に回される。

 「指輪くれないと、このままキスしますよ!」 

 「それはどういう強迫なんだ。離してくれないと渡せないだろ?」

 「えっ、私の分あるんですかぁ。やったぁー!」

 「むぐっ……。」 

 喜ぶリディアに、そのまま唇を奪われる。

 

 「……ったく。」

 俺はリディアを睨みつける。

 「いいじゃないですかぁ。……初めてじゃないし?」

 「あん?」

 リディアの声は小さくて聞き取れなかった。

 「ほらっ、大事にしてくれよ。」

 リディアに出来たばかりの指輪とブレスレットを渡す。 

 「えー、二つもいいんですかっ!」

 リディアは早速、指輪と腕輪を装着する。


 リディアに渡した指輪は、アイリスと同じ性能のものだが、腕輪の方には少し工夫を凝らしてある。

 腕輪の核になっている魔晶石には蓄積と増幅の魔法陣を刻んであり、身に着けているだけで、余剰魔力を溜め込み、使用魔力量を軽減させる効果がある。

 実はエルにも同じ効果の腕輪を用意してある。 

 ……こんなことを考えたくないが、これから先は確実に戦闘に巻き込まれることになる。

 俺自身の能力がそれ程じゃないため、どうしても二人に頼らざるを得ない場面があるだろうから、せめて少しでも負担を軽くしたいと思う。

 そういう意味ではアイリスに出会えたことは、感謝するべきだよな。


 「エヘッ、嬉しぃですぅ!」

 リディアがすり寄ってくる。

 俺はそんなリディアの頭を撫でてやる。

 「俺はギリギリまで作業をするから、他の買い出しとか頼むぞ。」

 「ウン、任せてっ。」

 嬉しそうなリディアを撫でまわす……ウン、癒される。


 ◇


 ………ん?ここはどこだ?

 俺は確か、みんなと食事をした後、一人で作業をしていて……。


 ― 気づきましたか? ―

 ……ここは?お前は?

 何も見えない真っ白な世界。

 姿は見えないが気配は感じる。

 そして何もない世界に声が響く……いや、俺の意識の中に語り掛けているのか?

 

 ― ここは狭間の世界……あなたの感覚では夢の世界みたいなものです。 ―

 ― 私はネルフィー……あなた方から見れば女神になりますね。 ―

 ……その女神様が何の用だ?何かお告げでもくれるのか?


 ― お告げという訳ではありませんが……ようやくコンタクトが取れましたので…… ―

 ……ようやく?


 ― そうですね、まずはシンジさん、あなたに謝罪を。 ―

 ……謝罪?


 ― はい、本来なら、あなたはここに来るべき人ではありませんでした。 ―

 ……どういうことだ?


 ― あなたは、この世界に転移する予定はなかった、という事です。 ―

 ― 本来であれば、この世界に転移するのは『ミカゲ』でした。―

 ……ミカ姉が!なんで!


 ― それがミカゲの望みだからです。 ―

 ……そんな……。


 ― ミカゲの望みと我々の目的、それらが一致した事でミカゲの転移が決定しました。―

 ― しかし、何の因果か、転移したのはミカゲではなくあなたでした。 ―

 ……ミカ姉は無事なのか?


 ― 無事ですよ。今はこことは違う別の世界で新しい人生を生きています。 ―

 ……結局あの世界にはいないって事か。


 ― それがミカゲの望みです。ただ、あなたが巻き込まれることは望んでいなかった。―

 ……ミカ姉がいいなら、俺の事はどうでもいいさ。


 ― 今回の事は我々にも責任があり、またミカゲの強い要望もある為、特別措置を取る事になりました。 ―

 ……特別措置?


 ― はい、あなたが望むのであれば、元の世界へ送還いたします。 ―

 ……帰れるのか?


 ― はい、本来ならば許されぬことですが、今回は特殊なケースですので特別です。 ―

 ……俺が帰ったら……どうなる?


 ― どうもなりません。あなたは目覚める。変わった夢を見ていた気がする……。それだけです。 ―

 ……違う、俺の事じゃない! 俺がいなくなったら、エルは、リディアは……この世界はどうなる?


 ― どうにもなりません。全ては自然のままに……。 ―

 ― エルさんは一人でハッシュベルクに戻ります。そこから先は……彼女の運命が強ければ生き延びることが出来るかもしれません。 ―

 ……どういうことだ?


 ― 亡国の姫君というのは、現為政者にとっては邪魔な存在という事です。闇に葬り去られるか、政治利用で政略結婚させられるか……全ては彼女の運命次第です。 ―

 ……バカな……。


 ― リディアさんは、ここから王都へ戻ることになります。そもそも彼女がここ迄来たのは貴方について行きたいという想いだけですから。 ―

 ……そうだよな……王都に戻るのが当たり前だ。


 ― アイリスさんは、アシュラム王国に戻り……生贄になるでしょう。それによって戦争が本格化し、この世界は戦国の時代へと入ります。 ―

 ……防ぐ手立てはないのか?


 ― 元々、この世界はそういう道を辿っていました。ハッシュベルクの内乱が引き金になり、世界全体を巻き込む戦争……それがこの世界の進むべき道でした。 ―

 ……しかし、現実は違うぞ?


 ― そうです。本来ならば、ミカゲがこの世界に来ても戦争は起こっていたはずでした。戦乱の中の一つの希望……それがミカゲに課せられるはずの役割でした。 ―

 ……俺が転移した事で世界が変わった、と?


 ― わかりません。そうかもしれませんし、別の要因があるのかもしれません。 ―

 ― あなたが戻れば、世界は予定通り(・・・・)戦乱の渦に巻き込まれます。 ―

 ― なので、安心して戻ってもらっていいですよ。 ―

 ……。

 姿は見えないが、ネルフィーと名乗った女神が微笑んでいるような気がした。

 ……ふざけるな!


 ― 何がですか? ―

 ……ふざけるなっ!エルが死ぬと聞かされ、この世界が戦乱の渦に巻き込まれると聞かされて、俺だけのうのうと元の世界に帰れるわけないだろうがっ!


 ― 何故です?ここは、あなたにとっては夢の世界。目覚めればやがて消え去る幻の世界……。―


 ……それでもっ!俺が関わってきた人達は確かに存在するっ!笑って、泣いて、怒って……色々な事……大事な事を教えて貰った……それをなかったことになんかできないっ!


 俺の脳裏には、エル、リディア、アイリスの様々な表情が浮かぶ。

 笑って、泣いて、怒って、ふくれっ面をして、照れて……。

 他にもレムやリオナ、ネリィさん、クロードにカリーナさん……今まで出会ってきた人々の顔が現れては消えていく。


 ……俺は帰らないっ!この世界に残る!


 ― よいのですか? この機会を逃すと二度と戻ることは出来ませんよ? ―

 ……あぁ、構わない。


 ― あなたには特殊な力はありませんよ?あなたがここに居ても出来る事なんてたかが知れてますよ。向こうに悲しむ人はいないのですか? ―

 

 俺の脳裏にカオ姉の悲しそうな顔が思い浮かんだが、それも一瞬の事だ。

 俺はその面影を振り払って、女神に再度告げる。


 ……何が出来るかなんて関係ない!俺はエルを守ると誓ったんだ。この世界で生きていくのにそれ以上の理由は必要ない。


 ― はぁ……困りましたね……しかも時間切れの様ですので一旦接続を切りますね。 ―

 ……おい、どういうことだ!

 俺の周りが歪んでいく……ネルフィーと名乗る女神の声も、ノイズが混じったようになり聞き取れなくなっていく。

 俺は何かに吸い込まれる感覚を覚えた。

 必死に抗うが、吸い寄せる力は強く、俺はやがて力尽きて意識を失う。

 

 ― 次に会うまでよく考えてください。 ―

遠くの方で、そんな声が聞こえた気がした。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ