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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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大人の階段を上るのはシンデレラだけじゃないよ。

 領主の館の前に俺は立っている。

 システィアの街の市長邸と違い、大きくはあるが、城壁で囲まれているという事はない。 しかし、さすがに領主の館というだけあって、門番が周りに目を光らせている。


 「お願いですっ。ここの領主様に合わせてください!」

 「ダメだダメだ!アポイントもなく通せるわけがないだろう!」

 その門番と揉めている女の子がいた。

 

 「この国が危険なんです!アシュラム王国が攻めてくるんです!」

 「いい加減なことを言うな!」

 「さては、最近デマを流しているのは貴様だな!」

 門番の気配に危険なものが混じる。

 このままだと、あの女の子が危ないな。

 そう思うと、俺は女の子と門番の間に割って入る。


 「いやぁ、夜分遅くお騒がせしました。お仕事ご苦労様です!」

 俺はそう言うと、女の子の腕をつかんで、領主の館から遠ざかる。

 「放してっ!放してくださいっ!私は危険を伝えなければならないんです!」

 女の子が暴れるが、ここで開放すると、彼女はまた門番の所に行くだろう。

 そして、今度は怒り狂った門番に攻撃を受けることが目に浮かぶ。

 「とりあえず、落ち着いて話をしたいんだが?」

 「イヤです、放してください……誰かぁー……ムグッ……。」

 

 騒ぎ出す女の子の口をふさぐ。

 ここで騒がれると色々不味い。

 俺は女の子を抱きかかえ、宿へ戻ることにした。


 ◇


 「……で、その女の子に猿轡をかませ、拘束したうえで、お姫様抱っこでここまで連れて来たって事ね。」

 エルが俺と、縛られて転がされている女の子を見て、呆れたように言う。

 「シンジさんのおかげで助かりましたけどぉ……私が酷い目にあっている間に、シンジさんはこの人と大人の時間を過ごしていたのですか?」

 リディアが冷めた目で俺を見てくる。


 「あー、リディア、大人の階段は上ったのか?」

 「上ってませんっ!」

 真っ赤な顔で起こるリディア。

 とりあえず話はそらせたか。

 「で、シンジさんは、これからこの人とアダルトな夜を過ごすんですか?相手を動けなくしてから事に及ぶなんて……鬼畜ですぅ!私の時は優しくお願いしますぅ!」

 ……逸らせてないどころか、余計酷くなっていた。


 「ンー、ン―……ムグッ……。」

 リディアの言葉を聞いた女の子が、身をよじって、この場から逃げ出そうとしている。

 目には涙が溜まっている。

 「あー、可哀想に。でもね、辛いのは最初だけだからね。すぐに良くなるようにしてあげるわよ。」

 エルが女の子にそう告げる。

 「ウー、でもこうやってみると、けしからん胸をしてるわね。もいでいい?」

 「ムー、ムー……。」

 「大丈夫よー、すぐ気持ち良くなるからねぇー。」

 「ムグッ……ムー、ムー……。」


 「てぃっ!」

 俺は、女の子の胸を弄り始めたエルの頭にチョップする。

 「お前は何してるんだ!」

 「だって……。」

 エルは頭を抱えながら、涙目で俺を見上げてくる。

 「とりあえず、俺はこの子に話を聞きたいから、エルは、リディアと一緒に大人の階段でも何でも上ってきなさい。」

 「イヤですぅ!シンジさん、何で私を売るんですかぁ!エルさんにその子を与えている間に、私と一緒に大人の階段を上ってくださいっ!」


 「お前も何言ってるんだ。見ろ、誤解して怯えてるじゃないかっ!」

 「誤解じゃないですぅ!その子が毒牙にかからないように私が身を投げ出してるんですぅ!」 

 俺の言葉に、一瞬明るい顔をした女の子だが、続くリディアの言葉に表情が暗くなる。

 「ゴメンねぇ、可愛いあなたがいけないのよ。」

 エルが追い打ちをかける様に、女の子に囁く。

 「むぐぅ……。」

 「夜は長いからねぇ、シンジの後は私が可愛がってあげるから……ね。」

 「じゃぁ、その次は私ですぅ!」

 「お前らいい加減にしろっ!」

 

 ◇


 「ぐすっ……怖かったよぉ……もうダメだと思いました……。こんな処で使命も果たせず、乙女を散らすのかと思うと……ぐすっ。」

 「ゴメンねぇ……反応が可愛かったからつい。」

 エルが女の子……アイリスと名乗った……の頭を撫でながら慰めている。

 「えー、エルさん本気でしたよ!だから私はその隙を狙ってたのにぃ。」

 「ひぃっ!」

 リディアの言葉に、アイリスがズサッと飛び退く。

 

 「冗談だから……、それより、怖がらせて悪かったな。」

 俺は怯えるアイリスに、あのまま門番と問答していても話を聞いてもらえないどころか、身の危険があった事を伝え、俺は近々領主に会うことになってるから、と事情を話してくれるようにとお願いした。

 エルとリディアが、散々煽ったせいで、当初は怯えて口も開いてくれなかったが、プリンやケーキ等、甘いものを口にすると、少しづつだけど、警戒を解いてくれるようになった。


 「それで、アシュラム王国が攻めてくるって話なんだけど……詳しい事を教えてくれるか?」

 「はい……今、噂にもなっていると思いますが、アシュラム王国は戦の準備を進めています。相手はグランベルク王国と、このベルグシュタット王国です。」

 アイリスはぽつぽつと、話してくれる。


 アシュラム王国の国王はむやみに他国に戦争を仕掛けるような人柄ではないそうだ。

 戦争に使う金と人があるなら、その分新しい魔道具を研究する、という研究肌の王様だったらしい。

 ある日、筆頭宮廷魔術師が変わる事になり、新しく筆頭宮廷魔術師になったのは、いつもフードを目深に被った如何にも怪しい風貌の男だった。

 それから、穏やかだった国王の言動が段々荒々しく人が変わったようになり、最近はとうとう隣国を攻めると言い出し、戦争の準備を始めだしたそうだ。

 王の傍にいる、その魔術師が何か吹き込んでいるのではないかと噂もあったが、国王の命令には逆らえず、粛々と準備をしているらしい。


 「しかし、それだけでこの国に攻めてくると言うのは早計じゃないか?大体、あの山脈をどう越える気なんだ?」

 「正確に言えば、アシュラム王国が狙っているのはグランベルク王国です。ベルグシュタット王国……というより、この街に対しては単なる実験台に過ぎません。」

 「実験台って?何の?」

 エルが訊ねる。

 「魔獣使役の……です。アシュラム王国は魔獣を使役する魔術を魔道具に込める方法を開発しました。」

 「魔獣使役の魔術って……。」

 どこかで聞いたことがある……と言うか、つい最近関わったよな。


 「なんでも、流れの魔術師が研究資金を受け取る代わりに術式をもたらしたそうで……その魔術師は数か月前に姿を消したそうですが、残された術式を研究して魔道具生成に成功したそうです。」

 「それって……。」

 俺とエル、リディアは互いに顔を見合わせる。


 「なぁ、その魔術師ってこんな奴じゃなかったか?」

 俺は、あの魔術師の容貌をアイリスに伝える。

 「そうです、シンジ様達はご存じなんですか?」

 「ご存じと言うか……なぁ?」

 この時点で、俺達がこの件に関わることが決定した。

 というより、この街が襲われる原因はあのストーカー魔術師にあるって事で。

 直接は関係ないとしても、この事を知ればマルティアさんやフィリップ国王がどう考えるか……何より、さっきからリディアが落ち込んでいるからな。


 「まぁ、俺達に関係ないわけじゃないって事が分かったからな。」

 アシュラム王国は山脈から魔獣をこの街へけしかけて徐々に力を削いでいくのだそうだ。

 それと同時に少数部隊を順次山脈越えをさせる。

 ミラノの街は魔獣討伐に追われ、少数の部隊に構う余裕はない。

 ある程度の部隊が集結する頃には、魔獣の被害によりミラノの街は疲弊しているはずなので、あっさりと侵略が可能……という計画らしい。


 「それでアイリスは、その事を知らせるために来たって事でいいのか?」

 「そうです。このままだとアシュラム王国が……。」

 「ねぇ、アンタ何者なのよ?」

 エルがアイリスに誰何する。

 「ただの人が、そこまで詳しい事を知ってるはずないし、冒険者ってわけでもなさそうだしね。」

 「それは……。」

 エルの言葉にアイリスが言いよどむ。

 「……アシュラム王国第一王女、アイリス=イリアーノ様ですよね?」

 今まで黙って俯いていたリディアが、そう呟く。

 

 「知ってたのですか!?あなたは……?」

 アイリスが驚きに目を見開く。

 「リディアです。リディア=ミナクト=フォンベルグ……この国の第三王女です。」

 リディアがアイリスを見つめて、しっかりとそう告げる。


 「あ、あなたが第三王女……あのぶっ飛び姫巫女?」

 アイリスの口から、妙なワードが飛び出す。

 リディアってそういう認識だったのか?


 「シンジさぁーん、こいつやっぱりやっちゃいましょう!」

 「ひぃっ!」

 半べそをかきながら俺に訴えてくるリディアの言葉を聞いて、両腕で体を隠すように抱え身を竦めるアイリス。


 「……それで、何で王女様がこんなところに?危険を伝えるだけなら他の人でも良かったんじゃないのか?」

 ぶっ飛びじゃないモン、と呟いているリディアの頭を撫でて宥めながら、アイリスに聞く。

 「幾つか理由はありますが……正直に申せば、私はあの国から逃げ出してきたのです。」

 アイリスが、俯いてそう言う……その肩は小刻みに震えていた。

 「アシュラム王国が軍備を始めたというのは先程お話ししたとおりです。そして、軍備増強の為に、あの魔術師は国王にある提言をしました……魔族召喚の儀式を行え、と。」


 「魔族召喚だと!?無茶な事を。」

 俺はつい声が大きくなってしまう。

 文献によれば、魔族はこの世界のどこか、あるいは別の次元に住んでいると言われている。

 その姿かたちは、魔獣と何ら遜色のないものから、人間と区別のつかないものまで様々だ。

 その事から、一口に「魔族」と言っても、様々な種族があるのだろうと予測されている。

 ただ、どの魔族にも共通するのは、人語を解する事、人族を凌駕する能力・魔力を持っている事があげられる。

 そして、姿形が人間に近ければ近いほど、その魔力量は高いとされている。


 「大体、魔族を召喚したからと言って、思うように動いてくれる保証はないだろ?下手すれば、召喚した途端に暴れて国が亡ぶかもしれないぞ。」

 「えぇ、その懸念は確かにあります。ですが、召喚の際、供物を捧げることによって、召喚したものと契約を交わすことが出来るのです。」

 「契約?」

 俺は初めて知る、その事柄を聞き返す。

 「えぇ「契約」です。供物を代償にして、こちらの要望を聞き入れてもらうのです。この契約は絶対で相手は契約に縛られることになります……契約というより強制と言った方が正しいかもしれませんね。」

 「それはどんなことでも可能なのか?」

 もしそうなら、それは「隷属」と変わらない……恐るべき術だと思う。

 「いいえ、相手のある事ですから……相手の能力が高ければ、殆どの事柄は聞いてもらえません。いいところ「このまま何もせずに帰ってくれ」という位が関の山でしょうか。」

 俺はその言葉を聞いて、ホッと胸をなでおろす。

 「ただし、供物の質とそこに込められた魔力と相手の力量によって、契約の強度が変わりますので、質の良い供物を捧げるのであれば、相手の力量によっては完全に従えることも可能です。」

 ホッとするのは少し早かったようだ。


 「魔術師は私を供物にすることを国王に伝え、国王はそれを受け入れました。王家に連なる者……それも直系たる第一王女の血、そして私が内包する魔力の量と質……自分で言うのもなんですが、供物としてはこれ以上ないくらいの上質なものです。魔術師は、私を使って異界の魔王を呼び出そうとしているのです。」

 「魔王だって!?」

 「えぇ、どれだけ上質な供物であろうとも、一回の儀式で呼び出せるのは、例外を除いて一個体のみ。ならば、最強の個体を呼び出すのが筋と考えたのでしょう。それに、魔王であれば、独自に配下を呼び出す術を持っているかもしれませんからね。」

 アイリスは自嘲するようにそう言う。

 

 「それで逃げ出してきたと……しかしどうやって?」

 「それは、この魔術具の力です。」

 そう言ってアイリスが見せてくれたのは、見覚えのある魔道具……あのストーカーが持っていた魔術具に似ていた。

 「それは……『転移の魔道具』か?」

 「知ってるのですか!?」

 俺のつぶやきを聞いて、アイリスが身構える。

 「知っているというか、先日、王都を襲った魔術師がそれと似たようなものを持っていたんだよ。きっとアシュラムにいた流れの魔術師と同一人物だろう。」

 俺は言外に、そっちの所為で王都が襲われたんだよ、というような意味合いを含めておく。

 それが伝わったのかどうかは分からないが、アイリスが「ご迷惑をおかけしました」と謝罪してくる。

 

 「シンジ、メッ!」

 エルが、こっそりと俺にダメ出しをしてくるが、幸いにもアイリスは気づかなかったようだ。

 だって、なぁ……ベルグシュタットの王妃絡みの件でアシュラムに迷惑をかけたと取られると、今後の外交に響くだろ……しらんけど。

 アイリスの話によれば『転移の魔術具』は最近創造されたもので、試作品の意味合いが強く、あまり出回っていないものらしい。


 「でも、ソレがあるなら、領主の館も忍び込めたんじゃないか?」

 俺がそう言うと、アイリスは静かに頭を振る。

 「それ程便利なものじゃないですよ。それ程長距離御転移は出来ないので、なるべく近くで使わなければなりませんし、魔法干渉に弱くて、近くで大きな魔法を使われたり、目的地付近で魔力の揺らぎなどがあれば、それだけで作動しません。」

 それに……と、アイリスは笑顔で続ける。

 「不法侵入は犯罪なんですよ?」

 俺はアイリスの笑顔から顔を背ける。

 ……ウン、犯罪って事は知ってるよ。


 「まぁ、とりあえず事の詳細は分かった。ここの領主がどこまで情報を掴んでいるのか、何を考えているのかは、実際に会った時に確かめてみるか。」

 俺は話題を逸らすように、話をまとめる。

 「そうね、それでいいわね。」

 エルがアイリスとリディアに目を向けると、二人はこくんと頷く。

 「じゃぁ、今日のお話はこれで終わり?」

 二人が頷くのを確認して、エルは俺に問いかけてくる。

 「あぁ、終わりだ。遅くまで悪かったな。行くり休んでくれ。」

 俺がそう言うとエルも頷く。 

 「わかったわ……じゃぁ、二人とも行きましょ♪」

 エルが笑顔で二人の襟首を摘まんで引きづっていく。

 「えっ、ちょっと……。」

 「何?何ですか?」

 リディアとアイリスが慌てた声を出す。

 「まだ、朝まで時間はたっぷりあるからね。三人で大人の階段上りましょ♪」

 エルが茶目っ気たっぷりにそう言う。


 「「いやぁぁぁぁぁぁー!!」」

 二人の声がユニゾンとなって夜更けの街中に響くのだった。

 


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