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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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ミスって誰にもあるよね?責めちゃダメだよ。

 ミラノの街……ベルグシュタット王国の北西に位置するミストラ領の領都である。

 国境沿いの街ではあるが、隣国の魔道王国アシュラムとは、北から西に連なる険しい山脈で遮られており、この山脈を越えて軍隊を動かすのは極めて無謀とされている。

 領都の東は広大な海が広がり、街の東側は港町としてにぎわいを見せている。

 また、西には草原が広がっていて、草原の中ほどにはステップル族という遊牧民たちのオアシスが点在している。

 つまり……国境沿いとはいっても、攻められる心配は少なく、いたってのんびりとした街なのである……が……。


 「なぁ、なんか物々しくないか?」

 俺が言うとリディアも、

 「そうですね、私も話に聞いただけなのですが、ここまで物々しいことは無かったはずです。」

 と言ってくる。

 「何かあったんじゃないの?」

 エルの言う通りかもしれないが、そのなにか(・・・)が問題だ。

 「とりあえず、ギルドに行こうか。そこで何か情報が得られるかもしれないしな。」

 

 ◇


 カランカラーン……。

 代り映えのしないドアベルの音……まぁ、ギルドで一括発注しているなら、同じなのは仕方がないか。

 俺達がギルド内へ足を踏み入れると、おなじみの値踏みする様な視線が纏わりつく。

 

 「オイオイ、場所間違えてるんじゃないのかぁ?坊主が嬢ちゃん連れてくるところじゃないぜぇ?」

 はぁ……暫く新しい場所に行ったことなかったから、こういうのは久しぶりだけど、めんどくさいなぁ。

 「あー、めんどくさいから、要件サッサと言ってよ?俺が気にくわない?アンタと戦えばいい?」

 「なにぃ!生意気な奴だな!」

 「あー、そう言うのいいんで……『光の拘束(バインド)!』」

 「グッ、う、動けねぇ。何しやがった!」

 何って言われてもなぁ、単なる拘束するための光の初級魔法なんだけど、知らないのか? 

 「煩いなぁ……『極小砂嵐(プチ・サンドストーム)』」

 俺は小さな砂嵐を、男の口元に巻き起こす。

 男が喋ろうとする度に、砂が口の中へ入っていく。

 「ムグッ、ムグ……。」

 やがて静かになる。


 「野郎っ!」

 周りの男たちが色めき立つ。

 「危ないですぅ!」

 一人の冒険者が、俺に掴みかかろうとしたところで、突然現れた大水に押し流される。

 「シンジさんに手を出す人は許しませんっ!『大渦潮(メイルシュトローム)!』」

 ギルド内に大量の水が発生し、大きな渦を巻いて中にいた冒険者たちを押し流していく。

 「ふぅ、お掃除完了ですっ!」

 「……出番がなかった。」

 「あー……ウン、まいっか。」


 俺は、唖然としている受付のお姉さんの元へ向かう。

 「えっと、システィアのギルドから連絡が入ってると思うんだけど?」

 「あ、ハイッ……えーと、えーと……シンジ様ですね……フリーターランク……A!?」

 ざわっ!

 まだ残っていた他の冒険者たちが騒めく。

 「アッ、すみませんっ!」

 受付のお姉さんが平謝りに謝ってくる。

 冒険者の情報を勝手に流すのはギルド職員として失格だ。

 今回は俺のランクだけで済んだが、これが他の重要な事柄だったらどう責任取るんだろうか?


 「はぁ……、もういいや。この書類を領主に渡しておいて。」

 「シンジ……いいの?」

 俺が書類をギルド職員に渡すのを見て、エルが心配そうに聞いてくる。

 「いいんだよ、こんな初歩的なミスをするギルド職員がいる街だぜ。これ以上この街に居たら、絶対に厄介毎に巻き込まれるぞ。」

 俺の言葉に、エルは頷き、そして首を振る。

 「だから、そんな人に大事な書類渡していいの?絶対ポカするよ?」

 「エルさん容赦ないですぅ。」

 エルとリディアの言葉を聞いて、受付のお姉さんが益々縮こまる。


 「オイオイ、あんまりうちの新人を苛めないでやってくれないか?」

 「ギルドマスター!……申し訳ありません。」

 奥から出てきたオッサンが声をかけてくる。

 どうやらこのオッサンがギルドマスターらしい。


 「苛めてるつもりはないですよ……と言うより、こっちが苛められてるんですけどね。冒険者の情報リークは第一級禁止事項じゃなかったでしたっけ?」

 「あー、それはこっちが悪かった。俺はこの街のギルドマスター、リックだ。……とりあえず奥で話そうか?」

 俺達はギルドマスターに続いて、奥の部屋へ入っていく。


 「まずは、さっきの件を謝罪しておく。ウチの新人が迷惑をかけた、申し訳ない。」

 リックが頭を下げる。

 「……まぁ、いいですよ。その代わり今回のウラのこと教えてもらえますかね?」

 システィアのギルドマスター、ミーシャさんの言葉には含みがあった。

 今回の件は、報告云々はどうでもいい事なんだろう。

 それより、俺達が領主に会うことそのものに何か意味があると睨んでいる。

 

 「はぁ……まぁ仕方がないか。ただし、聞くからには強力してもらうからな。」

 「……帰っていいか?」

 「シンジ、諦める。」

 「シンジさん、帰っちゃダメですぅ。」

 俺が帰ろうとすると、エルとリディアが引き留める。

 

 「分かったよ……で?」

 「若いっていいねぇ。……そう睨むなよ。実はな……。」

 

 リックさんの話によれば、最近、領主が軍備の増強を進めているとのことだった。

 「国境沿いの街なら、普通じゃないのか?」

 俺がそう言うと、リックさんは首を振る。

 「普通ならそれで納得するんだけどな、この街は知っての通り、国境沿いとはいっても隣国との間には険しい山脈と、広大な草原が広がっている。攻めてくるのは並大抵のことじゃないんだ。」

 それなのに軍備の増強というのは腑に落ちないという。


 「領主が内乱を企てているというのか?」

 「その可能性も否定できん……が、ここの領主は、頑固なまでの国王派だから、それも考えにくい。」

 俺がある可能性を指摘するが、リックさんはそれを微妙に否定する。

 「後、これは関係ないかもしれないが、北の方で魔獣の出現率が上がっているという報告がある。中には、今まで見たことの無い種も混じっていたとのことだ。」


 「じゃぁ、その魔獣討伐の為じゃないの?」

 エルがそう言うが、リックさんはまたしても首を振る。

 「魔獣の討伐は、ギルドの管轄だ。特殊な事情があったり、ギルドで対処しきれない、もしくはギルドからの要請があった場合、そして緊急の場合を除いて領主軍がでしゃばる事はない。」

 「特殊な事情か……。」

 それを探らせようとしている……という事か。


 「後、不確定情報なんだが、隣国のアシュラム王国が戦争準備をしているとの噂がある。その目標がこの街だという噂もな。」

 「この街って言っても、山脈越えは難しいんじゃないんですかぁ?」

 リディアが疑問をリックさんにぶつける。

 まぁ、それが当たり前だと言われていた事を否定するような噂だ、疑問に思うのも無理はないだろう。

 

 しかし、アシュラム王国は魔道王国の名の通り、魔道具の産地として知られる。

 俺とミカサさんが転移門を完成させたように、兵士を容易に山脈越えさせる魔道具を開発した可能性もある……か。


 「それで、俺達は何をしたらいいんだ?」

 「あぁ、当初の予定通り領主様に会って、例の事件の報告をしてほしい。アポイントはこちらで取っておく。」

 「……会うだけでいいのか?」

 俺はリックさんの顔を見ると、彼の口元がニヤリと歪む。

 「ギルドからの書類には、お前さん達の事を記してある。モチロン王都での事件の事もな。」

 「それって……。」

 リディアが困惑した顔をする。

 「Aランク冒険者が1000匹を超えるモンスターを余裕で倒して王都を救った、としか記載してない、各冒険者の素性とかは記載してないから安心していいよ。」

 リックさんは、意味ありげにニヤリと笑う。


 「そこまで気が回るのだったら、新人教育もしっかりしてほしいものですが?」

 「ウォッホン……とにかく、その情報を見たら、領主様の方から何らかのアクションがあるはずだ。」

 わざとらしい咳払いをして、リックさんがそう言う。

 「誤魔化したな。」

 「誤魔化しましたね。」

 「誤魔化しましたぁ。」

 

 「お前らぁ……。」

 がっくりと肩を落とすリックさん。

 「取りあえず、内容は分かったよ。アポが取れたら教えてくれ。」

 「あぁ、頼んだぞ。後、宿は『アエルの宿』という所を予約してあるからな。」

 ミーシャさんは、しっかりと約束を守ってくれていたらしい。

 「わかった。」

 リックさんに後の事を頼むと、俺達はギルドを後にした。

 ……ギルドを出るときに、他の冒険者の視線が気になったけど、気にしないでおこう。


 ◇


 宿に就いた俺達は早めの食事をとり、早めに休むことにした。

 久しぶりの宿だ、ゆっくりと体を伸ばして休むのも悪くない……ハズ。


 コトッ……。

 俺が部屋で一人作業をしてると、そっとドアを開けて忍び込んでくる気配がする。

 「リディアか?」

 「ひゃんっ!」

 俺が振り向きもせずに声をかけると、余ほど驚いたのか、おかしな声を上げるリディア。

 「な、何でわかったのですか?」

 「何でわからないと思った……ん……だ……。」

 リディアの疑問に、俺は振り向きながら答え、リディアの姿を見て絶句する。


 下着が透けそうな程の薄い寝間着はともかくとして、頭の上にネコ耳のカチューシャをつけ、両手は猫手グローブをはめている。

 「夜這いに来たにゃん♪」

 「……なぁ、誰に教わったんだ?」

 「えっ?お母さまですけど?……シンジさんはこういうのがきっと好きだからって。」

 恐るべし、マルティアさん……。


 俺とリディアがそんなやり取りをしていると、バンッ!と部屋のドアが開けられる。

 「リディぃアぁぁぁ。」

 そこには、怒りの形相のエルが立っていた。

 「なんでっ!眠りの魔法かけておいたのにぃ。」

 「フフフ……リディアちゃん、わかってるよねぇ……。」

 「イヤですぅ。私はこれからシンジさんと一緒に大人の階段を上るんですぅ。」

 「ウフフ、大人の階段なら、私と一緒に上りましょうねー。」

 エルがリディアの襟首をつかんで引きずっていく。

 「い・や・ですぅ……。シンジさぁぁん……最初はシンジさんがいいんですぅぅぅぅ……大人の階段はぁぁぁ……。」

 リディアの声が遠くなっていく。

 部屋を出る時、エルがこっちを見て「分かってるよ」という顔で頷いていた。

 エルにはお見通しってか。


 俺はリディアの声が聞こえなくなったのを確認し、作業していた物を収納にしまい込むと装備を身に着ける。

 そして、そっと宿を抜け出すと、領主の館へ向かった。 


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