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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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盗賊に人権はないっ!……お金に困ったら盗賊退治は基本だよね?

 「あっと、エルにこれを渡しておくよ。」

 そう言って、収納から取り出したモノをエルに手渡す。

 「これは・・・・・・指輪?」

 受け取ったエルはなぜか顔を赤くしている。

 「うわぁー、エンゲージリングですかぁ、ズルいですぅ。私も欲しいですぅ。」

 指輪を見たリディアが騒ぎ出す。


 「ば、バカッ・・・・・・そんなんじゃねぇよ。単なる『杖』だよ。おまえも持ってるだろ?」

 俺は慌てて言い繕う。

 エルも誤解したから顔を赤らめていたのか。


 「持ってますけどぉ・・・・・・、シンジさんからの愛の証が欲しいんですよぉ。」

 リディアが胸元のペンダントを触りながら言ってくる。

 「だから、そんなんじゃねぇっての。」

 俺はリディアを軽く小突く。


 「シンジ、『杖』って?」

 エルが聞いてくる。

 「あぁ、『杖』は魔力を収束・増幅してくれる『補助具』の総称だよ。」


 魔法を使うには、魔力を集める、用途に応じて変換する、指向性を持たす、魔力を解き放つ・・・・・・という大きく分けて4つのプロセスを経る必要がある。

 『杖』はその過程の一部を代替わりしたり、補助したりしてくれる道具だ。

 『杖』と総称しているが、形状に決まりがない。

 ただ、伝説の魔導師が使用していた補助具が杖だったために、魔法の補助具の事を『杖』と呼ぶようになったということだ。


 俺もエルも、杖の事はよく知らなかったため、今までは使用してなかったが、王都の魔法研究所では、様々な『杖』の研究・改良が行われていた。


 古来の魔法は、魔法陣を描き、そこに魔力を通すことによって発動する。

 より強力な魔法の行使にはそれに応じた大きな魔法陣が必要になり、手間も時間もかかるもの・・・・・・それが魔法だった。


 もっと効率よく魔法を行使できないか?という考えのもとに研究が重ねられ、出来上がったのがスクロール。

 魔法陣を魔力を通した紙に転写し、発動ワードを唱える事によって使用出来る。

 これは画期的な発明だった。


 しかし、スクロールはその性質上、使い捨てであり、使い勝手はいいものの、コストパフォーマンスは最悪だったので、さらに研究が進められることになる。


 そして紙の代わりに、魔種を加工した魔晶石に魔法陣を転写することに成功。

 スクロールと違い、何度も魔法が行使出来る事が実証され、各魔法の杖が作られるようになった。

 これが、現在遺跡などから発掘される『○○の杖』と呼ばれるモノだ。

 一つの魔法だけだが、誰でも何度でも使えるという点が優れている。


 その後、紆余曲折を経て、現在の魔法体系が出来上がり、杖は補助具としての機能が盛り込まれるようになった。


 補助具と言うだけあって、アイディア次第で色々とカスタマイズが可能であることを知り、試しにエル用に作ってみたのだ。

 自分用に関しては、ちょっと考えがあるので、まだ試行錯誤中だ。


 「そうなんだ、ありがとう。」

 エルは、そう言って指輪を左手の薬指に通す。

 そして手を顔の前に持ってきたり、指を広げたりして眺めている。

 その様子はとても嬉しそうで、作った甲斐があったと思わせてくれる。


 「私のも作って欲しいですぅ。」

 リディアを甘えてくる。

 「後で作ってやるよ。」

 俺はリディアの頭を撫でながら、そう答える。

 我ながら甘いとは思うが、色々作るのは楽しいし、それで喜んでくれるならいくらでも作ろうと思ってしまう。


 「っと、あそこだな。」

 話をしているうちに、盗賊のアジトが見えるところまで来た。

 山間にある掘っ建て小屋という感じだが、一応周りに柵が設置してあるなど、ソレっぽくなっている。


 「さて、どう攻めるかな?」

 「今度は私の出番ですよ!」

 俺が思案に耽る間もなく、リディアが飛び出す。

 「バカッ、待て!」

 「待たないですぅ・・・・・・『隕石雨(プチ・メテオ)』!」

 俺の制止を振り切ってリディアが魔法を唱える。

 あたり一面に拳大の石が降り注ぐ。

 盗賊のアジトが降り注ぐ石によってボロボロになっていく。


 「何じゃこりゃぁ!」

 慌てふためいた盗賊達が、アジトから出てくる。


 「からのー、『大崩壊(グランド・フォール)』!」

 リディアが続けて魔法を解き放つと、アジト周りの地面が陥没し、盗賊達が巻き込まれて埋まっていく。


 土煙が収まると、そこには何事もなかったような地面と、そこから生首が生えているといったシュールな光景が広がっていた。

 いったいどうやったのだろう?

 「シンジさん、どうですか?」

 誉めて、誉めて、といった様子のリディアが俺を見てくる。

 「あぁ、リディアは凄いな。」

 俺はリディアの頭を撫でてやる。

 「えへっ、頑張りましたぁ。」

 リディアの話によれば、出発前の1週間で、魔力の細かいコントロールの方法を学んでいたらしい。

 それが早速実践されたという事か。


 「出番なかった・・・・・・試したかったのに・・・・・・。」

 エルが、木の棒で近くの盗賊の顔を突っついていた。


 アジトの中を調べると、金貨や宝石などが見つかった。

 その他の金目のモノが無いところを見ると、何かあればすぐ逃げ出せるようにしていたのだろう。


 しかし金貨だけでもこの量か・・・・・・。

 俺は、盗賊の頭の前まで行くと、その顔に水弾をぶつける。

 ビチャ!

 水弾は、顔に当たると弾けて、その顔を濡らす。

 「何しやがる!」

 ビチャ!ビチャ!

 頭が文句を言うが、俺は構わず水弾をぶつけ続ける。


 「シンジ、アンタ何してんの?」

 「八つ当たり。」

 エルが聞いてくるので、そう答える。

 「八つ当たりって・・・・・・。」

 「いや、考えても見ろよ。俺達が冒険者になった頃、銀貨1枚稼ぐのにどれだけ苦労したことか。死にそうな目にあって、何とかオークを倒したときだって銀貨15枚だったんだぜ。それがこいつらは・・・・・・。」

 俺はエルにアジトで見つけた金貨の袋を見せる。

 数えていないけど50枚以上はあるはずだ。


 ツンツン、ツンツン・・・・・・。

 金貨を見たエルは、黙って頭の顔を突っつき始める。

 「やめろー、やめてくれー。」

 しばらくの間、盗賊達の絶叫が木霊していた。


 ◇


 「シンジさん、エルさん、お気は済みましたか?」

 リディアが、呆れた表情で聞いてくる。

 「いや、単なる八つ当たりだから。」

 「ウン、ちょっと飽きた。」

 周りには水浸しになり、細かい傷を負った生首が呻いている。

 「じゃぁ、近くの街までいって報告しましょう。」


 俺達はリディアの言葉に従って街まで移動し、衛兵に盗賊のことを伝える。

 報告を受けた衛兵はどこかに連絡をすると、しばらくして門の前に兵隊が集まり、どこかへと出かけて行った。

 きっと、盗賊達の捕縛に向かったのだろう。

 あの数の盗賊を掘り起こすことを考えると、少し気の毒になる。


 俺達はせっかく街にきたのだからと、今晩はここで宿を取ることにして、街中を散策することにした。


 「シンジさん、見てください。ジャガイモが安いですよ!」

 リディアが俺の腕をとり、屋台の方へ引っ張って行く。

 見ると確かに安い……王都での半額以下だ。

 「にぃちゃん、買ってくかい?」

 「あぁ……かなり安いと思うんだが、相場なのか?」

 「相場よりはちょっと安めだよ。なんせ、この辺りじゃなかなか売れなくてね。南方では煮込み料理に使うとかで、結構売れるだがな。」

 周りを見渡すと、人通りはそれなりにあるが、店の親父の言う通りジャガイモには眼もくれずに通り過ぎていく。

 隣の屋台は乳製品か……バターがあるなら、アレ(・・)が出来るな。

 

 「とりあえず店にある分の半分貰おうか。」

 「本気かい?結構な量になるし、安いって言っても銀貨15枚にはなるぞ。」

 「大丈夫だよ。その代わりちょっと店先借りるぞ。」

 俺は店先を借りる代金を含めて、小金貨2枚を店の親父に渡す。

 「何するんですかぁ?」

 リディアが興味津々という感じで聞いてくる。

 

 「まぁ、見てな。……っと、リディア、隣の店でバターを買ってきてくれ。」

 「はーい。」

 「エルはこれに水を溜めてくれ。」

 俺は簡易コンロに鍋をセットして、エルに水を頼む。

 「水ぐらい自分で出せるでしょ。」

 エルはブツブツ文句を言いながら鍋に水を入れてくれる。

 俺は鍋の上にせいろをセットして、コンロに『着火(ティンダー)』の魔法で火を点ける。


 「にぃちゃん、魔法使いかい?便利でいいやねぇ。……ところでその道具は何だい?」

 俺達のやることを見ていたジャガイモ売りの親父が興味深そうに聞いてくる。

 「これは『せいろ』よっ!」

 何故かエルが威張って言う。

 「せいろ……?何するものなんだい?」

 「ふふん、そんな事も知らないのね。これは「蒸す」為のものよ。」

 エルが自慢げに言う……嬉しそうだから放っておこう。


 お湯が沸きだしたので、俺はジャガイモに切れ目を入れてせいろにセットする。

 「買ってきたよぉ。」

 丁度いいタイミングでリディアが戻ってきたので、俺はバターを受け取り、ジャガイモの上にのせて蓋をする。

 「これは何ですか?」

 「まぁまぁ、もう少し待ってろよ。」

 「ワクワク、ですぅ♪」

 ニコニコしながら、せいろの周りで座り込んでいるリディア。

 それに付き合って座り込んだエル。

 その姿を見て人がだんだんと集まってくる。

 まぁ、美少女が二人、ニコニコしながら座り込んでいたら、みんな気になるよな。


 暫くして蓋を開け、丁度いい具合に蒸かしあがったジャガイモを取り出し、塩を軽く振ってエルとリディアに渡す。

 「熱いから気をつけろよ。」

 「ハイ……熱っ!」

 「だから気をつけろって言っただろ。」

 熱さで取り落としそうになったジャガイモを受け止め、再度リディアに渡してやる。

 「ありがとうございます……はふはふ……美味しぃ!凄く美味しいですぅ。これなんですかっ!」

 「じゃがバターだよ。ジャガイモをバターと一緒に蒸かしただけのものだよ。」

 「フライドポテト以外にも、こんな食べ方があったんですねっ。ジャガイモがこんなに美味しいなんて知らなかったですぅ。」

 リディアが絶賛するおかげで、ジャガイモやの周りにはどんどん人垣が出来て来た。


 「はふはふ……おいひぃでふぅ……。」

 いつ見てもリディアの食べる姿は可愛いなぁ。

 エルも同じことを思ったらしく、リディアの頭を撫でている。

 「あ、あのっ、金は出すから、俺にもそれを食わせてくれないか?」

 エルとリディアが食べている姿を見て、野次馬の中から、我慢が出来なくなった一人がそんな事を言ってくる。

 「別に代金はいらないけど、ジャガイモとバターは自分で用意してくれよ。」

 俺がそう言うと、その男はジャガイモ屋のおやじに金を払い、ジャガイモを手に入れ、隣の屋台でバターを買ってきて俺に渡してくる。

 

 蒸かし上がるまで待たせるのも何なので、すでに出来ていた俺の分を渡してやる。

 「おぉ、ありがとう……ハフ……熱っ……うめぇ!こんな美味いの食ったことがねぇ。これ本当にジャガイモか?」

 男は絶賛しながら、じゃがバターを食べきる。

 それを見ていた野次馬たちが、我先にとジャガイモを買い求める。 

 ジャガイモ屋の親父が、ニコニコとしながらジャガイモを売り出す。

 ……代金が俺達が買った金額より少し高くなっていた事には目をつぶろう。

 

 ……その後、ジャガイモ屋の親父と隣の屋台の親父に蒸かし方を教え、蒸し器セットを二つ置いて、その場を去ることにした。

 いつまでも蒸かしてばっかいられるか!っての。

 

 その後も、色々と店を冷やかしながら、俺達は久しぶりにゆったりとした時間を過ごしたのだった。

 

 その夜、皆が寝静まった夜更け過ぎ……。

 コトッ……。

 微かな物音で目が覚める。

 ……ん?

 俺は周りの気配を探る……いつの間にかエルとリディアがベットに潜り込んできている。

 「ん……シンジぃ……どうしたのぉ?」

 エルが寝ぼけ眼で聞いてくる。

 「シッ!……静かに……。」

 俺はエルに静かにするように伝える。

 「静かに、……そっと、リディアを起こして……。」

 エルにそう指示をして、気配を探る。

 空間スキルを使用した気配探知……この部屋ぐらいなら十分カバーできる。

 ……上に一人……部屋を囲むように三人……。

 

 「誰かいるんですかぁ?」

 リディアが起きたようだが、その気配を察知したのか、不審者の動きが変わる。

 (二人とも静かに……。二人とも俺の合図でこれを部屋の中央に投げてくれ。)

 俺は二人に手製の爆弾を渡す。

 その間にも不審者の気配は近づいてくる。

 (3,2,1……今だ!)

 俺の合図で二人が爆弾を投げる。


 『着火(ティンダー)!』

 俺は爆弾めがけて着火の魔法を放ち、続いてもう一つの魔法を唱える。

 『空間転移(ディジョン)!』

 俺は二人を抱えて部屋の外へ転移する。

 と、同時に部屋の中で爆発が起きる。

 

 「エル、左の茂みに一人!リディア、右の木の上に一人!」

 『真空烈波(ウィンドストーム)!』 

 『隕石雨(プチ・メテオ)!』

 俺の言葉に、二人の魔法を唱える声が重なる。

 二人の魔法に巻き込まれて、隠れていた不審者が倒れる。


 「後ろ!」

 『『水の刃(アクア・エッジ)!』』

 エルとリディアの水の刃が、後ろから襲い掛かってきた不審者を倒す。

 

 ズキューン!ズキューン!ズキューン!

 更にその後ろから襲い掛かってきた奴を、俺の魔銃が撃ち抜く。

 

 ……周りの気配は無くなった……か。

 俺は部屋の瓦礫に埋もれていた不審者も含め、襲ってきた奴ら全員を庭の真ん中で縛りあげる。

 「ねぇ、埋めなくていいの?」

 リディアがすでに穴を掘っていた。

 

 「さて、誰に雇われた?」

 俺は地面から顔だけ出した不審者に問いかける。

 「ん?」

 生首だけになったことで、俺は見覚えのある顔に気付いた。

 「んーーーーー?」

 『水弾(アクア・ブリッド)

 ビチャ!

 「……アジトで見た顔だよなぁ?」

 『着火(ティンダー)

 俺は木の棒の先に火を点け、それを男の顔に近づける。 

 「こんな小さな火でも、髪の毛を燃やすのには十分だよなぁ?眼の水分もあっという間になくなるよなぁ?」

 俺は少しづつ火を近づける。


 「こんなにいるんだから、一人ぐらい燃やしてもいんじゃない?」

 エルが俺の後ろから声をかけてくる。

 「シンジさん見てください。私も出来ましたよ。」

 リディアが人の頭位の大きさの水球を作って見せる。

 「これを顔に被せれば息が出来なくなるんですよね?」

 リディアの無邪気な笑顔が、却って恐怖をあおった様だ。

 

 「ま、待ってくれ!話す!話すからっ!この街の市長の命令だよ!俺達が街道で盗賊やってたのも市長の命令なんだ!」


 男の話によれば、ゴロツキを雇って盗賊団を作り、街道で特定の商人を襲わせていたらしい。

 市長はあらかじめ商品を買い占めていて、盗賊の被害により品薄になったところで高く売りつけ、私腹を肥やしていたらしい。

 ところが、今回俺達が盗賊を退治してしまったため、市長は慌てて手を回し、捕縛部隊を編成。

 捕縛しに行くと見せかけて、盗賊達を逃がし、俺達の口を封じることによって、盗賊の剣はデマだった、という事にする予定だったとのことだった。


 「……舐められたもんだな。エル、リディア。ギルドに連絡して、こいつら引き取ってもらえ。」

 「シンジはどうするの?」

 「決まってるだろ?市長の所に挨拶(・・)に行ってくるよ。」

 「やりすぎないでね。」

 「……たぶん、大丈夫だろ?」

 「シンジさんの笑顔が怖いですよぉ。」

 リディアがエルにしがみついている。


 俺はリディアの頭を撫でてから、半壊した宿屋を後にした。

 


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