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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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旅に危険はつきものです。

 「おにぃちゃん、おねぇちゃん、気を付けてね。」

 レムが泣きそうになるのをこらえた笑顔で見送ってくれる。

 「シンジさん、これ、お弁当です。」

 リオナも、泣きはらした後のような真っ赤な目をして、それでも笑顔を向けてくれる。

 そんな娘二人を優しく見守るネリィさん。


 「戻って来るまで、留守は頼んだよ。」

 俺はレムとリオナの頭を撫でてやる。

 エルも、レムを抱きしめる。

 そして俺達はシャンハーの街を後にする。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 レム達が王都に来て3日間、俺達は王都観光を楽しんだ。

 市場に行けば……。

 「おにぃちゃん、これ美味しぃね。」

 「あ、あれは何?」

 「わぁ、これがマドゴ?初めて見たぁ。」

 ……等と、レムがはしゃぎまくる。


 魔道具屋や雑貨屋に行けば……。

 「ねぇねぇ、シンジ様、これはどういうものなの?」

 「これ可愛いですね。」

 「こういうのがあれば便利なんですね……でもお高い……。」

 「うぅ……シンジ様、おねだりしてもいいですかぁ?」

 等と、リオナが目を輝かせていた。


 そしてそんな二人を見るネリィさんは、涙ぐみながら「あんなに楽しそうな娘たちが見れるのは、全てシンジさんとエルさんのお陰です。」と、何度も何度も頭を下げていた。


 街中を一通り見まわった後は王宮へと案内する。

 王宮の前までくると、三人はびっくりして硬直していたが、出迎えてくれたリディアが俺に纏わりつくのを見て、レムとリオナがなぜか対抗心を燃やし……。

 

 「……そう、レムもエルさん達に助けられたの。」

 「そうだよー、おねぇちゃんすっごく強かったんだよ。」

 「シンジ様も、私を助けに来てくれた時は……それなのに私の姿は……ぽっ。」

 「何なんですの、その意味深な言葉はっ!?」

 「そんな事……恥ずかしくて……ぽっ。」

 ……とても仲良くなっていた。


 ◇

 

 「……グランベルクですか……遠いですね。」

 「おにぃちゃん、行っちゃうの?」

 王都観光最後の夜、館で夕食を囲みながら、俺とエルは明日出発することをレム達に告げた。

 エルから、概要は聞いていたらしく、それ程驚いた様子はなかった。

 ただ、引き止めたりして俺を困らせない様に、とリオナがレムに言い聞かせていたらしく、レムは精一杯の笑顔を見せてくれてはいたものの、寂しさを隠せない感じだった。


 「それで、エルから聞いて入ると思うけど、シャンハーと、王都、どっちで暮らす?」

 王都で暮らすことも出来る事は、すでにエルが説明していて、王都の様子を見てから返事を貰う事になっていた。

 「シンジさんのお気持ちは大変うれしいのですが、私達はシャンハーであのような暮らしができるだけでも十分なのに、これ以上は分不相応です。」

 ネリィさんがやんわりと、王都での暮らしを拒絶する。

 分不相応って事は無いと思ったが、よく考えてみれば、周りが上級貴族で囲まれているこの屋鋪は住みづらいのかもしれないなと思い直す。


 「わかった。じゃぁ、明日はシャンハーまで送っていくよ。ただ、この屋敷も誰も住まないのは勿体なので、たまには観光がてら王都に来て、その時は宿代わりに利用してくれると助かる。」

 俺は、少し押しつけがましいかな、とも思ったがそう言っておく。


 その話の後は、王都最後の夜を楽しもうと、リオナが作っていたデザートを持ってくる。

 この三日間で、リオナは練習に来ていた料理長から基本的な事を教わったらしく、デザートも以前作ってたものより洗練な味わいになっていた。

 「なぁ、リディアも呼んでいいか?……というより、このデザートの山、俺達だけじゃ食べきれないだろ?」

 「いいよー、呼ぼうよ。」

 俺の言葉にレムが応えてくれる。

 「えっ、私が作ったのをお姫様が?」

 無邪気なレムを見て、リオナがガクブルしていた。

 

 結局、ガクブルしているリオナをよそに、俺はリディアを呼んでくれる様に頼む。

 王宮に近いというのは、こういう時だけは助かる。

 使いを出してすぐにリディアがやってくる。

 「美味しいものはどこですかぁっ!」

 ……イヤイヤ、お姫様のセリフじゃないよね?

 「リディアおねぇちゃん、ここだよ―、座って。」

 レムがリディアを席へ案内する。

 しかし、おねちゃんって……確かリディアとレムは一つしか違わなかったと思うが……まぁいいか。


 「美味しそうですぅ!もう食べていいですかっ?」

 テーブルの上に山盛りになったデザートを見て、リディアは興奮を抑えきれずにいる。

 「いいわよ。好きなだけ食べてね。」

 エルが「お預け」を解除すると、飛びつくように食べ始めるリディア。

 「美味しぃでふぅ。ほれはひんひふゃんが?」

 口一杯に、ケーキを頬張りながらリディアが聞いてくる。

 「飲み込んでから喋りなよ。これはリオナが作ったんだよ。」

 「……ゴクン。……ふぅ。これ全部リオナさんが作ったんですか?凄いですぅ!美味しいですよぉ!」

 そう言いながらプリンに手を伸ばすリディア。


 「リディアちゃん、これもどうぞ―。」

 リディアに絶賛されて、嬉しかったのか、リオナがリディアの前に、次々とデザートを盛り付ける。

 「あー、お姉ちゃん、リディアおねぇちゃんにばっかり、ズルいー。」

 レムが自分の分も確保しようと、デザートの山を取り分ける。

 「ウフフウフフ……。」

 エルがその様子を見て怪しく笑っている。

 

 リディアが加わった事で、王都最後の夜は騒がしくも賑やかに過ぎていったのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「じゃぁ、行ってくるな。」

 見送ってくれるレム達に手を振って、俺達は馬車を発進させる。


 「でも、あの扉にはびっくりしました。いつの間にあんなの作ったんですか?」

 レム達の姿が見えなくなると、リディアが聞いてくる。

 「そうね、シンジの能力より便利なんじゃない?」

 エルの言葉が胸に突き刺さる……人が気にしてることを。

 「あれは、ミカサさんが作ったんだよ。」

 あれから、ミカサさんが作った転移トビラを、二人で色々改良してみた試作品を、実験用として三つ譲り受けた俺は、一つを王都の屋敷に設置、もうシャンハーの家に設置しておいた。


 ちなみにシャンハーの家は、まだインプット先に設定したままなので、いつでも移動できる。

 ……俺のディジョンで、皆を移動させればいいというツッコミはナシで。

 一度に何人転移できるかとか、距離はどれくらいまで行けるかとか、実験する必要があるんだよ。

 だから、残りの一つはグランベルク辺りについたら設置する予定だ。

 

 改良点として、扉の小型化、魔力消費の軽減、魔力補充に関してなど色々あったが、一番の問題になる魔力に関して、術者の充電以外にも自然に存在する魔力を自動で吸収するシステムを組んである。

 ただ自然補充だけだと、1回の転移に必要な魔力量が溜まるのに、大体1週間はかかる計算だ。

 魔力が満タンで、一度に4人の転移が可能……これが現在の限界だ。

 満タンじゃなくても使えるかという検証をしてみたが、半分以上あれば、一人だけ転移できるのが分かった。


 あと、一番大事な事として使用者制限をかけた。

 知らないやつが、勝手に使って家に侵入されたら困るからな。

 ……まぁ、これが一番大変で、徹夜の原因でもあったんだけど、何とか間に合ってよかった。


 一応、俺達6人とシャンハ―の領主夫妻にアリスの9人だけが使えるようにしてある。

 アリスには、今回置いてきぼりにしてしまったお詫びを兼ねて、いつでも王都に行けるようにという配慮だったのだが、アリスだけ登録するのは不味いと思い、クロードさんとカリーナさんもついでに登録しておいた。

 領主夫妻とアリスには伝えてはいないが、リオナとレムにはそのことを伝えてあるので、その内二人から伝えてくれるだろう。


 「そうだったんですねぇ。」

 「はぁ……そんなものの為に徹夜してたのね。」

 リディアは感心してくれたが、エルは呆れた目で俺を見てくる。

 「そんなものっていうけどなぁ……それに徹夜の殆どは、こっちの馬車の所為だよ。」

 俺は、自分たちが乗っている馬車を指さす。

 

 「コレ、珍しいと思ってたけど、シンジさんが作られたんですかっ!凄いですぅ!」

 「御者ぐらいやるのに……。」

 俺達の乗っている馬車……というより引いている馬は、実は馬ではなくゴーレムだ。

 研究所で雑談をしている折に、馬に乗れないという話題になったところ、ミカサさんがゴーレム馬車の事を教えてくれた事があった。

 それから研究を続けていたのだが、旅に出ることが決まってから、急遽作成に入り徹夜で間に合わせたのだ。

 やっぱり年下の女の子にしがみついて旅するというのは、色々問題がありそうだからな。

 

 「いいんだよ!これは魔力流すだけで勝手に走ってくれるから、エルに負担を掛けずに済むんだよ。」

 「別にいいのに……。」

 エルが小声でつぶやく。

 その声はやや不満そうだった。

 

 「それで、どのルートを通っていくんですか?」

 リディアが聞いてくる。

 「そうだな、ちょっと危険があるけど、北の山脈越えを考えているけど、リディアは何かいい案はあるか?」

 「そうですねぇ、遠回りにはなりますが、西の山を迂回していくルートは比較的安全ですよ?」

 「えーと、この西から途中で北へ方向を変えるルートはダメなの?」

 「その場合だと……。」

 「でもこっちなら……。」

 「それならこう行くのは……。」

 俺達はこの先のルートについて意見を交わす。


 リディアは一般的に良く通られるルートを中心に話をすすめてくれる。

 俺達はこのあたりの事は地図でしか知らないので、俺が出すルートに対しての問題点を教えてくれるのでありがたい。

 結局、俺達なら普通よりは多少の無茶が出来るという事で、一般のルートより少し険しいルートを選ぶことにした。

 このルートを使えば3週間ぐらいでグランベルク王国に入れる計算だ。

 ゴーレム馬車なので休憩も少なくて済むので、急げば2週間と少し位までは短縮できそうだ。


 「じゃぁ、とりあえず進路はこのまま西だな。野営できる場所まで、進むからな。」

 「「はーい。」」

 俺の言葉に、二人の返事が揃う。


 ◇


 それからの旅は順調に進んだ。

 途中野盗とかが出るわけでは無く、森で魔獣に襲われることもない。

 「なんか、拍子抜けね。」

 エルが御者台でそんな事を呟くのも仕方がないだろう。

 「エルさん、普通はこんなものだそうですよ。盗賊や魔獣に襲われるのはそう滅多にある事じゃないです。その為の街道ですから。」


 まぁ、リディアの言う通りだろう。

 日常茶飯事に盗賊や魔獣に襲われる街道なんて誰も通りたがらないだろうし、そうなれば経済は立ち行かなくなるから、国や街は常に街道の安全に気を配っているはずだ。

 だから街道を通っていて盗賊とかに出会う確率は、ほんの数%……のはずなんだけどなぁ。


 「えっと、こういうの『フラグ』っていうんだっけ?」

 「エルさんが暇だーとかいうからですよ。」

 「暇なんて言ってないでしょうが!」

 「このまま突っ切ってもいいけどなぁ……どうする?」

 俺は暢気な会話をしている二人に声をかける。

 向こうから盗賊団と思しき集団がこちらに向かってきている。

 このまま進めば、すぐに取り囲まれるだろう。


 しかし、二人とも余裕あるなぁ。

 ハッシュベルクを出てから色々あったエルはともかくとして、お嬢様育ちのリディアならもう少し怯えるかと思ってたんだけど。

 「私は守られてるだけの御姫様じゃないですよ?」

 俺の考えを読み取ったのか、リディアがそう言ってにっこりと笑う。

 「そうそう、シンジは過保護なのよ。もっと私達を信頼しなさい。」

 エルもそんな事を言う。


 「オイ、コラぁ!さっさと止めやがれ!」

 「何暢気に話してんだ、ゴラァ!」

 気づいたら盗賊達に囲まれていた。

 「あ、ごめん、存在を忘れていたよ。」

 とりあえず馬車を止めると、周りを盗賊達がぐるりと取り囲む。

 ……大体30人ってところか。


 「お、この二人は上玉だぜ!」

 「お前ら、小娘には傷をつけるんじゃねぇぞ。男はやっちまえ!」

 その言葉を引き金に盗賊達が飛び掛かってくる。

 ……が、見えない障壁に阻まれる。

 「な、何だ?」

 「くそっ、先に進めねぇ!」

 「この馬車で寝泊まりすることも考えて作ったんだ。結界障壁の一つや二つ装備してあってもおかしくないだろ?」

 俺は自慢げにそう言い放つ。

 「あのぉ、シンジさん?普通は結界とか障壁って、そう簡単に用意できないんですよ?」

 

リディアが呆れたように言ってくる。

 おかしいなぁ、リディアは俺の作ったものに対して、いつも「すごいですぅ!」って言っているのに、今回は呆れてるぞ?

 

 「……まぁ、そんな事はいいじゃないか。」

 「いいですけどぉ……それでどうしますか?やっちゃいますぅ?」

 いや、リディアさん、何故そんな嬉しそうなんですか?

 

 『光の矢雨(アローレイン)!』

 エルの魔法が盗賊達を襲う。

 光の矢に当たった盗賊達が次々と倒れていく。

 あっという間に、盗賊達が倒れ伏した。

 「あ、ズルいですぅ。私もやりたかったのにぃ!」

 リディアが何故かプンスカしている。


 「あー、じゃぁリディアは穴を掘って、こいつら埋めてあげて。」

 「分かりましたー。首だけ出して埋めますねー『落とし穴(ピットフォール)』」

 リディアは嬉々として盗賊達を埋めていく。

 ……王様、あなた娘にどういう教育をしてたんですか?

 盗賊退治に精を出す王女……いいのかなぁ?


 ◇


 「くそっ!出しやがれっ!」

 盗賊の一人がそう喚くが、首だけ出した状態で言われても何の迫力もないな。

 「アンタ自分の置かれてる状況わかって言ってる?」

 エルが、棒の先でツンツンと突っつきながら、盗賊に応えている。

 それを見たリディアが「私も―」と言って、棒で突っつきだす。

 「イテっ、コラッ、やめろ!」

 「アハハ……ツンツン……ツンツン……。」

 

 「なぁ、お前らの仲間はここに居るので全部か?」

 俺は盗賊の一人に聞く。

 「ケッ!何でそんな事話さなきゃならねぇんだよ。」

 ゲシッ!

 思わず蹴ってしまった。

 俺は別の男の前に行く。

 「なぁ、喉乾かねぇか?」

 「な、何を……。」

 「水をやるよ。『水球(ウォーターボール)』!」

 俺の魔法により発生した水の球が盗賊の顔を覆う。

 「むぐっ……。」

 しばらく放置し、窒息しかけたところで、水球を分解してやる。

 ……ウン、とりあえず息はあるな。

 「お前は話してくれるよなぁ?」

 俺は次の男の所に言って話しかける。

 「は、話す、話すから助けてくれっ!」

 

 俺は素直になった男から、仲間の情報とアジトを聞き出す。

 こいつらは50人程度の集団で、アジトにはまだ20人ほど残っているという。


 「ねぇねぇ、盗賊団のアジト潰すんだよね?」

 リディアが、俺の腕に絡みつき、上目遣いで聞いてくる。

 だから、なんでそんなに嬉しそうなのかなぁ?このお姫様は。

 

 「まぁ、このままにしておくと、面倒事になりそうだからな。サクッと潰しにいくぞ。」

 「「おーっ!」」

 俺は何故か嬉しそうな二人と共に、盗賊のアジトへと向かう事にした。


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