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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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進路決めるのって大変……適当に決めちゃダメかなぁ?

 「……以上がグランベルクのギルドから届いた連絡になります。」

 「わかりました。ありがとうございます。」 

 俺はギルドの受付のお姉さんから報告を受け、書類を受け取る。

 今の報告以外の詳細が書かれているそうだ。


 「やっぱりグランベルクに行く必要があるな。」

 「……そうね。」

 エルの元気がない……が、仕方がないか。


 報告にあった内容を整理すると、俺達が飛ばされた後、シェラたちは無事に街へ戻ったそうだ。

 そしてギルドに、遺跡の罠で仲間が飛ばされたと報告したが、場所が被害届が出ていた遺跡だったために、遺跡荒らし・盗掘の疑いを持たれたそうだ。

 結局は、シェラの説明で疑いは晴れ、未発見の通路がわかったという事で事なきを得た。

 しかし、その後、3人は街を出ていき、何処へ行ったのか分からないという。

 ただ、どこかの街に寄ったら、ギルドに顔を出すはずなので、時間をかければ行先はわかるだろう。


 ……取りあえず戻って今後の相談だな。


 ◇


 「さて、今後についてだが……。」

 館の食堂で俺は二人に声をかける。

 今後の行動についての話し合いだが、気が重くなっても良くないので、二人の目の前にはケーキを用意してある。

 しかし、エルの表情は暗い。

 そういう顔をされないために用意したんだけどなぁ。


 「コレ、すっごく美味しいですね。エルさんもいただきましょう。」

 リディアが務めて明るくそう言うが、それでもエルの顔は晴れない。

 その表情を見て、リディアも顔を曇らせる。


 「二人ともそんな顔するなよ。暗いままだと考え方も暗くなるからな。」

 俺が声をかけても、二人の表情は晴れない。

 ……まぁ仕方がないか。

 「取りあえず、リディアは今後どうする?」

 「どうするとおっしゃいますと?」

 「俺とエルは、この後の話し合い次第では、グランベルクに行く。状況次第ではさらに足を延ばすことになる。かなり危険な旅になるし、向こうでは戦いが待ってる可能性もある。また、最低でも1年以上はこの国に戻ってこれない。だから、俺としてはこの国で……。」

 「ついて行くに決まってるじゃないですかぁ?」

 俺の言葉を途中で遮ってリディアが言う。


 「何を、さりげなく置いて行こうとしてるんですか?ずっと一緒に居るって約束しましたよね?」

 「いや、でも危険が一杯……。」

 「だからです!そんな危険な所にシンジさん達だけを生かせて待ってるだけなんて出来ません。」

 それに……と、リディアが小声で言ってくる。

 「あのような状態のエルさんを放っておけるわけないじゃないですか。」


 「……わかった。じゃぁ、ちょっと俺達の状況を説明してやろう。そうしないと今後の話が分からなくなるだろうからな。」

 俺はリディアにこれまでの事を話す。

 エルが、実はハッシュベルクという国の王女だったという事。

 ハッシュベルクでクーデターがおきて、国外へ逃げだしたこと。

 グランベルグに辿り着いて、そこで落ち着くつもりだったのが、依頼中にへまをして飛ばされた事。

 飛ばされた先で出会ったレム達親子とシャンハーの街の領主の事など……。


 「そうだったんですねぇ。シンジさん達も苦労したのですね。……でも、そのトラップには感謝です。そのおかげで私はシンジさんとエルさんに出会うことが出来ましたから。」

 リディアの前向きな考え方にはある意味救われる気がする。

 エルも、リディア位柔軟に考えられたらいいんだけどな。


 エルは今、残してきた三人の事とハッシュベルクの事、そして今得ているベルグスタットでの生活の事で悩んでいるんだろう。

 難しく考えなくても、今の生活が気に入ったのなら、それでいいと思うんだけどな。

 まぁ、エルの心残りを払拭する為にも、いつかはハッシュベルクへ行かなければならないんだろうけど。


 「エル、俺達の取るべき行動はいくつかあるが、目的によって変わってくる。」

 俺はエルに声をかけると、エルは軽く頷く。

 「まずはシェラたちと連絡を取ることを第一の目的とするなら、今までの生活を続けながら先方からの連絡を待つか、グランベルクまで移動して情報を集めつつ合流するかの二通りの手段が考えられる。」

 俺の言葉を黙って聞いている二人。


 「連絡を待つ場合は、各ギルドに通達してもらって、シェラかアッシュ、ミリアの誰かが現れたらすぐこちらに連絡してもらう手段を取る。

 これのメリットは、俺達は今までの生活をつづけながら待つだけでいいという事。どこにいるか分からない相手を探して右往左往するよりは効率がいい。

 デメリットは、いつまでかかるか分からない事と、万が一があった場合、初動が遅れるという所かな?

 グランベルクに移動した場合のメリットは、早急に合流できる……つまり何かあった場合の対処がしやすいという事、デメリットはすれ違いが起こりやすいという事と、今の生活を放棄していくこと、だな。」

 俺は各行動を選んだ際のメリット、デメリットを提示する。


 「シェラたちと連絡を取ること以外の目的って?」

 エルがしばらくしてから声を出す。

 「……ハッシュベルクだ。」

 俺はエルの瞳をのぞき込みながら、そう答える。

 「ここまで来て、今更感もあるが……引っかかってるんだろう?」

 俺がそう言うと、エルは黙って頷く。


 「でもハッシュベルクって……。」

 丁度、ギルドからの報告書に目を通し終わったリディアが、怪訝そうに問うてくる。

 ギルドからの報告では、つい先日、近隣諸国を巻きこんだハッシュベルクの内乱が終わったとある。

 正確には、二手に分かれていたハッシュベルクが、手を貸してくれていたはずの隣国にそれぞれ吸収され、その国同士は争いを続ける意思はなく、互いに手を引くことにより集結。

 それによりハッシュベルクという国は、この世界から姿を消した。


 すでに亡くなった国の元王女の存在は、混乱と新たな争いの種を生むだけだ。

 「それでも、私はこの目で見たい……ウウン、見る必要があるの。最後の王女として、ハッシュベルクの最期を見ておく責任と義務があると思うの。」

 「見て……その後はどうする?ハッシュベルク再建のために戦争を起こすか?」

 「……分からない。ただ……見ておかないといけない気がする。そして、ハッシュベルクに行けば、これからどうするかがわかる気がする。」


 「……それは今の生活を捨ててまでしなければいけない事なのですか?シャンハ―に待っている人達がいるんですよね?」

 エルの言葉を聞いて、リディアが問いかける。

 「それは……。」

 エルが逡巡する。

 「リディア、そこまでにしてくれ。エル自身明確な答えが出せないでいるんだ。」

 「でも……いえ、そうですね。ごめんなさい。」

 リディアは何か言いたそうにしていたが、俺とエルの顔を見て引いてくれる。

 

 俺はエルとリディアの顔を交互に見て、そして自分の意見を述べる。

 「俺としてはグランベルクに向かおうと思う。そして、3人を探しながらハッシュベルクに向かうのがいいと思う。」

 「……理由を聞かせてくれる?」

 エルが聞いてくる。

 「三人は何かのトラブルに関わっていると思うから、待っていても連絡が来る可能性が低いという事、さらに言えばトラブルに関わっているとなれば、すぐに合流できる方が望ましい。また、トラブルに関わっている、いないに関わらず、シェラはハッシュベルクに向かうと考えられる……という訳なんだが?」

 「分かった……それでいい。」

 俺の答えを聞いてエルはそう呟く。


 「エル、ハッシュベルクまでは時間がある。ハッシュベルクを見て決めてくれ……自分が何をしたいのかを。お前がどういう未来(さき)に進もうが、俺は常に傍で守ってやるから、本当に、自分がしたい事だけを考えて決めるんだ。」

 俺はエルにそう告げると、リディアに後を頼んで部屋を出る。

 一応、デザート類がいくつか冷蔵庫に入っていることを伝えておく。

 甘いものを食べて、元気が出るなら、それに越したことは無いからな。 


 ◇


 グランベルクに向かうと決めた俺達は、出発までの間に色々とやり残したことを終えるため、各自で行動をしていた。

 

 リディアは、しばらく国を離れるという事で、出発までの間は王宮で過ごすことになり、宮廷魔術師の下で、魔術向上に努めることにしたようだ。

 準備その他諸々で1週間から10日位しか時間はないが、それでも俺達の足を引っ張らないようにしたいというリディアの決意の表れだった。


 エルはシャンハ―の街へ向かった。

 レムたちを迎えに行く為だ。

 最初は俺が行くつもりだったが、エルがどうしても、というので仕方がなく見送ることにした。

 エルなりにけじめをつけておきたいことがあるのだろう。


 まぁ、行きは馬を飛ばしていくと言っていたから、1日で着くだろうし、帰りは馬車を使って三日ってところだ。

 向こうで少しゆっくりしたとしても、1週間以内には戻ってくる。

 王都では2~3日位しか一緒に居られないが、ちょっとした観光ぐらいは付き合えるだろう。

 レムたちの事はエルに任せて、俺は俺のできることをしよう。


 俺は冒険者ギルドに顔を出し、色々手続きをしておく。

 特にシェラたちが何処かのギルドに顔を出した時には、すぐに連絡が貰えるようにしておく。

 これで俺達がどこに行ったとしても、ギルドに顔を出せば連絡が受け取れる。


 次に商業ギルドに顔を出し、いくつかの手続きをしておく。

 もしリオナがこの街で暮らしたいと言ったら、屋台でもやればきっと繁盛するだろう。

 ただ俺達みたいに、商業ギルドに追われないようにしておかないとな。

 そんな話をサーラさんにしたら、彼女は苦笑していた。


 翌日、俺は王宮の横にある王立魔術研究所に顔を出す。

 「シンジ―、丁度よかったよ。」

 俺が顔を出した途端、駆け寄ってくる奴がいた。

 この研究所で、俺に色々教えてくれたミカサさんだ。

 

 「ミカサさん、どうしたんですか?」

 「ちょっとこっち来て、これを見てくれ。」

 俺はミカサさんに引っ張られるまま、奥の部屋へと連れて行かれる。

 部屋の中には、大きな扉が設置されていた。


 「これは?」

 俺はミカサさんに訊ねる。

 「出来たんだよ!転移装置だよ!」

 「ホントですかっ!」

 俺は思わず大声を上げた。

 「本当さ!まだまだ問題は一杯あるけど、とりあえずは完成だ。これもみんなシンジのおかげさ。」

 俺のおかげと言うが、俺は何もしていない。

 ただ、あのストーカー魔術師が持っていた奇妙な魔道具を、ここに持ち込んだだけだ。

 あの時のストーカー魔術師の挙動と、王様の話などから推測するに、転移するための魔道具じゃないかと思い、解析をお願いしたのだ。

 俺としては、転移の魔術が手軽に使えるようになるためのヒントが得られればいいと思っての事だったが、ミカサさんの食い付き方は異常なぐらいだった。

 なんでも、ずっと前から転移術の研究をしていたらしいが、最近は行き詰っていたらしい。

 そこへ、俺が新しいものを持ち込んだものだから、火に油を注ぐような状態になったという事だ。


 「これはどこと繋がっているのですか?」

 俺は訪ねてみる。

 「この扉なんだけどね……ほら。」

 ミカサさんが指さす方にはもう一つの扉があった。

 「ただ、起動するには魔力が足りなくてさ、どうしようかと思っていたところにシンジが来たんだよ。これは女神様のお導きに違いないね。」

 「……要は実験台になれと?」 

 「いやー、君も試してみたいだろ?」

 そう言いながら俺を扉の前まで引っ張っていく。


 「ここに手をあてて魔力を流してみて。」

 俺は言われるがままに魔力を流す……って、コレ尋常じゃないほど魔力を喰うぞ。

 たぶん俺の魔力保有量はバカげてるぐらい多い。

 それは今までの経験から理解している。

 その俺の魔力が半分以上吸われている感覚があるが、それでもまだ足りない感じだ。


 「ミカサさん、これ……。」

 「おぉ、魔力ゾーンが一杯になった。シンジ、頭の中にもう一つの扉を思い浮かべて……飛ぶイメージを。」

 俺は言われるままに扉を思い浮かべて飛ぶイメージを思い浮かべる……が、うまくいかないような感じがした。

 ……扉が目の前にあるので開けてくぐるイメージのほうがあっている気がした。

 そうイメージした瞬間、俺の身体は別の扉の前へ移動していた。


 「やったぞ!成功だぁ!」

 ミカサさんが飛び跳ねている。

 確かに転移は成功したけど……この必要魔力量はどうする気なんだろうか?

 俺はそう訊ねてみると、魔力を充電する装置を取り付けるらしい。

 何、ソレ……その技術欲しい。

 そんな俺の気持が顔に出ていたのか、ミカサさんがお礼にと術書と試作品一式を譲ってくれる……代わりに魔力の補給を約束させられたが。


 「距離がどこまで行けるかが問題ですね、後、扉の形なので扉をくぐるイメージの方が移動しやすいみたいです。」

 「成程、他に気付いたことは?」

 「そうですね……。」

 結局、その日はミカサさんと話しているだけで過ぎてしまった。

 数日後、俺は街の入り口でエルたちを待つ。

 徹夜明けで眠い……が、リオナやレムを笑顔で迎えてやりたいからな。

 「おにぃちゃん、眠そうです。」

 「おわっ。」

 考え事をしていたら、急に声を掛けられる。

 「おにぃちゃん、久しぶりです。」

 「レム、よく来たな。」

 声をかけてきたのはレムだった。

 

 「バカシンジ……何日寝てないのよ!」

 エルがやってきてヒールをかけてくれる。

 ……そんな一目でわかる状態だったのか?

 「あー、シンジ様は私に会えるのが楽しみで寝れなかったんですねっ!」

 ニコニコしながら、そんな事を言ってくるリオナ。

 その頭をエルが無言で叩く。

 「ったぁーい。エルさん何するんですか!」

 「バカなこと言ってるからよ。そんな事より早くいくわよ。」

  

 以前と同じような感じ……どうやら、エルなりに吹っ切れたみたいだな。

 そう思ってエルを見ていると、ちょんちょんと、レムが突っついてくる。

 「おにぃちゃん、あのね、おねぇちゃん帰って来た時元気なかったんだよ。」

 そうレムが教えてくれる。

 「あぁ、でも、レムたちが元気にしてくれたんだろ?ありがとな。」

 俺はレムの頭を撫でる。 

 「ハイ、頑張りましたっ!」  

 レムが嬉しそうに微笑む。

 「後、アリスちゃんが『嘘つき―』って言ってました。」

 ……しまった。

 アリスのこと忘れていた。

 

 「レム、帰ったらアリスに伝えておいてくれ『大人はみんな嘘つきなんだ』と。」

 「あのぉ、シンジさん、あんまり子供にそう言う事を言うのは、ちょっと……。」

 困ったように言ってくるネリィさんに「冗談ですよ」と笑いかけて、俺とエルはレム達を館へと案内する。

 

 短い期間だけどリオナやレムには王都を楽しんでもらわないとな。


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