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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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休日は何してますか?……コレって定番の会話だよね?

 「お待たせしました、Aランクへの昇級手続きが終わりましたよ。」

 受付のお姉さんがにこやかに対応してくれる。

 「何でまたAランクに・・・・・・Bランクでもよかったんじゃないか?」

 俺はギルドカードを受け取りつつ、ブツブツと文句を言う。

 「まだ言ってるんですかぁ?Aランクじゃないと王宮からの指名依頼が受けれないからって言ってたじゃないですかぁ。それより、ほらほら、見てくださいよぉ、CランクですよCランク!」


 リディアが、嬉しそうにギルドカードを見せてくる。

 意外だったのだが、リディアはすでに冒険者登録をしていた。

 ……当然ではあるが依頼を受けたことがない為、Fランクのままだったが。

 お姫様がどうやって登録したのかは分からないが、Fランクとは言えちゃんとした冒険者だった為、例の魔物討伐により大幅なランクアップをし、Cランクになったらしい。


 しかし、本当に今後もついてくるつもりらしい……まぁ、エルも喜んでいるからいいか。腕の方も悪くはない……というかサポート・回復にはかなり役に立ってくれる。 

 「次は商業ギルドですよね?」

 リディアが笑顔で聞いてくる。

 「そうだな、王都の拠点にする家を紹介してもらうことになっているからな。」


 俺が報酬代わりに出した希望をかなえてもらう代わりにと、国王から出された条件。

 そのうちの一つが、俺達の冒険者ランクをAランクにあげる事。

 本当はSランクにしてほしかったらしいが、何とかAランクで妥協してもらった。

 リディアも言っていたように、何かあれば王宮からの指名依頼を出すことによって、俺達を聞き使う腹らしい……まぁ、無理難題は断る権利もあるからいいか、とそれを受け入れることにした。


 そして、拠点となる家について。

 これに関しては国王に、場所から建物からすべてを任せる事……リディアも住むことになるから、ヘンな所は困るそうだ。

 まぁ、それもそうか、と思い、国王に一任することにした。

 そして、準備が整ったという事で、これから案内してもらうわけだが……・


 「何じゃ、こりゃぁぁぁぁ!」

 思わず叫んでしまった。

 目の前にそびえたつのは、ちょっと大きな家……ではない。

 お屋敷……いや、館と言った方がいいか……というよりここまでくると、小さい城だな。

 「任せるとは言ったけど、なんじゃこりゃぁ?」

 「アハハ……ちょっと大きいね。」

 「お父様やり過ぎですぅ。」

 エルも少し引いてるし、リディアに至っては、すでに涙目になっている。


 「でも、第三王女とは言え、姫様がお住まいになられる館としては、大変地味で規模も小さいですわよ?」

 案内してくれた商業ギルドマスターのサーラさんが、そう説明してくれる。

 「……という事は、リディアが原因……と?」

 俺がそう呟くと、リディアが慌てる。

 「そ、そんなことないです。これは国を救った英雄への感謝の気持ちですぅ。きっとそうです。……サーラさんも変なこと言わないでください!……私が返品されちゃうじゃないですかぁ!」

 「そ、そうね……これは王様からシンジ様への感謝の表れですわ、おほほほほ……。」

 リディアの言葉を聞き、狼狽えるサーラさん。

 ……まぁ、ずっと住むわけでも無いし、どうでもいいけどな。


 「それより、中を見てみませんか?」

 リディアがそう言いながら俺の腕を引っ張っていく。

 俺とエルは、後に続いて館の中へ足を踏み入れる。


 ただっ広い玄関ホール。

 吹き抜けとなった奥には、プリンセス階段とでもいうのだろうか?両側から二階のテラスへと続く階段がある。

 壁面にはいくつあの扉があり、中を覗くと洒落た作りの部屋となっている……どうやら、客人の待合室として使うようだ。

 

 階段を上がり二階の大扉を開くと、そこは大ホールとなっていた。

 エルやリディアの話によると、パーティや舞踏会などで使うらしいが、俺のその予定はないので、このホールが使われることはないだろう。


 中央のホールを出ると左右への渡り廊下がある。

 右に行くと、執務室や作業場の他、使用人たちの為の部屋や施設があり、左側が俺達のプライベート空間となる部屋が並んでいる。

 取りあえず、俺の寝室となる予定の部屋に入ると、応接セットに、執務机などがすでに設置してあり、奥の寝室には大きなキングベットが用意されていた。


 「わぁーこれなら三人一緒に寝れますね。」

 リディアが、ベットの上にダイブし、はしゃぎながらそう言う。

 「いや、一人で寝るし。」

 何故、三人(・・)で寝ることが前提なんだよ。

 「私は二人っきりの方が……でも、リディアも可愛いし……でも三人はちょっと……。」

エルを見ると、顔を真っ赤にしながら何やら呟いている。


 「えぇー!なんでですかっ!一緒に寝ましょうよっ。」

 リディアがジタバタと騒ぐが無視だ。

 そんな俺の反応を見て、リディアがにじり寄ってくる。

 そして、俺の耳元に口を近づけて囁いてくる。

 「子作りも旦那様のお仕事ですよ?それに……誠心誠意ご奉仕するニャン♪」

 

 パシッ!

 「アホかっ!」

 リディアの頭を軽く引っ叩いてベットに放り捨てる。

 ……今のはかなり危なかった。

 誰だ、あんなことをリディアに教えた奴は!

 ……夜、寝ているときに忍び込まれて、あの攻撃をされたら、朝まで無事でいられる自信がない……寝るときの戸締りはしっかりとしておかないとな。


 「うぅ……お母様のウソつき。堕ちない男はいないって言ったのにぃ……。」

 リディアが頭を抱えて唸っている。

 「リディア、恐ろしい子……。」

 エルも何やら呟いている。

 そんな二人を放置して俺は次の場所へと向かう……寝室は危険だ。


 地下には大浴場が設置されていた。

 なんと、温泉だ。

 なんでも、王都の地下には豊富な源泉があり、王宮や貴族街の各屋敷にはもちろんの事、街中にも手軽に温泉が楽しめる施設があるという。


 お湯を沸かすのも一苦労していたマカロン砦から見れば、ここは天国に違いない。

 実際、騎士団長から聞いた話によれば、マカロン砦駐屯の任が終わった兵士たちは、帰ってくるなり真っ先に向かうのは、家でも娼館でもなく、温泉施設だというのだから、あながち間違った表現ではない。

 

 館の右翼にあたる部分に行き、調理場を覗く。

 お城の設備に負けず劣らず……新しくそろえている分、お城の設備より良かったりする。

 ここまでの設備が揃っているのには訳がある。

 王宮の料理長をはじめとした、宮廷料理人達がここに出入りすることが決まっているからだ。


 これも国王から出された条件の一つで、プリンなどの新しい料理は王宮から広めるようにしてほしいというものだった。

 王族の対面とか、流行は上から下に流すものだとか色々言っていたが、要は「新しいものは真っ先に味わいたい!」という単なるわがままだ。


 俺の方としても料理長に基本のレシピを教えれば、後は勝手にやってくれるのでありがたい話だったりする。

 ただし、条件として「庶民にも手軽に味わえるようにすること」を付け加えておいた。

 貴族たちが独り占めするのは本末転倒だからね。

 差別化を図りたかったら高級食材を用いて工夫すればいいだけだし、そのあたりは料理人たちの腕次第ってところじゃないかな?


 近々、隣国の要人を招いたパーティが予定されている。

 今回の件についての手打ち式みたいなものらしいが、そのパーティで隣国の要人たちの度肝を抜くような美味しい料理を1~2品教えるように頼まれているので、しばらくの間はお料理教室が続きそうだ。

 とはいっても、俺は基本的な作り方を教えるだけで、食材選びや調整は本職の方々が勝手にやればいいから長時間拘束されることはない。


 いったん外に出て、中庭に出る。

 色とりどりの花が植えられていて、見た目も華やかだ。

 ……しかし、これを誰が維持・整備するのだろうか?


 「えっ?人を雇わないのですか?」

 何げなく、リディアに言ってみると、不思議そうな声で返された。

 ……ウン、分かってたよ、人を使うんだよね。

 というか、その使用人の給金はどっから出るんだよ。

 「ねぇ、シンジ。この家にレムちゃん達呼ぶの?」

 エルがそう聞いてくる。

 「まずは皆に話をして、それから決めるよ。」


 俺もその事に関して考えてみたが、最終的には選んでもらおうと考えている。

 ネリィさんは仕事もあるからシャンハーの街の方がいいと考えるかもしれないし、そうしたらレムは、お母さんと一緒がいいと言うに決まっている。

 ただ、家族と離れてもこっちに来たいと、リオナ辺りは言いそうだが。


 そして中庭に面した壁面に目立たないように作られた扉を開ける。

 広いスペースに整然と配置された数々の器具。

 調合や合成に使う釜や、鍛冶・練成用の炉、機織り機や断裁機まで各種取り揃えてあった。

 国王に家についての希望を聞かれた時、風呂があって、作業用のスペースがあればいいと言っただけなのだが、ここまでの物を揃えてくれるとは……この事については素直に感謝しておこう。

 王宮に眠っている資料と、この場所があれば俺の研究も格段に進むことは間違いないだろう。

 幸いにも、宮廷魔術師に教えて貰う事も出来るようにしてくれると国王が請け負ってくれたしな。


 そんな感じで、俺達の王都での生活が始まろうとしていた。


 ◇

  

 朝は大抵リディアが起こしに来る。

 その時はほぼ必ずと言っていいほどじゃれついてくるため、その相手をしていると、エルが、遅いと怒鳴り込んでくるのが毎朝の恒例となりつつある。


 朝食の後は、料理長たちへの技術指導。

 とは言っても、俺は知っていることを教えるだけで、実際に試行錯誤するのは料理人達だ。

 「……だから、時間を掛けながら、この灰汁を取り除くのですよ。」

 やることは色々あるが、第一優先としては料理の指導。

 隣国の要人を招く日に間に合わせないといけないから時間がないのだ。

 なので、俺はすべての料理の基本となる「コンソメ」と、メインディッシュにも使える「唐揚げ」、そしてデザートの王道「プリン・ア・ラ・モード」……とりあえずこの三つを教えることにする。

 とは言っても、唐揚げ粉にコンソメを使用したいので、まずはコンソメを仕上げてもらう事にする。

 

 俺自身は、作り方を知っていても作ったことは無いので、口を出すだけだ。

 しかし、さすがは本職の料理人。

 俺が少し教えるだけで、あっという間に理解する。

 

 「流石本職ですね、見事なものです。」

 俺は素直に感心し、自然と声が漏れる。

 「いえ、それより、こういう発想があることの方が凄い事ですよ。調理方法は目新しいものではないのに、素材や手順を少し変えるだけで全く違う新しいものが生まれる……感服しました。……シンジ殿はどこでこのようなことをお知りになられたのですかな?」

 「遠くの……俺の国での料理です。もう二度と食することは出来ないと思っていましたので、こうして目の前で作っていただけるのは嬉しいですね。」

 「そう言って頂けると、料理人冥利に尽きますなぁ。シンジ殿の覚えている限りの事を離して頂ければ、必ず私が再現してみますよ。」

 「それは心強いですね。……そうだ、料理長さんでなくてもいいんですが、今度料理を教えてあげて欲しい人がいるんですよ。私のレシピを最初に、料理の形にしてくれた娘で、向上心もあっていい子なんですよ。今度王都に連れて来た時には手解きをしてあげてもらえると助かります。」

 「シンジ殿の一番弟子という訳ですね。いいですよ、新しいこと教えてもらっていますから、私のできることは教えましょう。」

 「ありがとうございます。きっと喜びますよ。」 


 当初は間に合うかと懸念していたが、この様子なら、当日にはかなり洗練された新しい料理が並ぶことだろう。

 できれば俺もご相伴に与りたいものだ。


 ◇


 俺の所為で半壊した王宮は、翌日には魔法で大まかにではあるが直しておいた。

 ずっと半壊したままというのは、外聞もよろしくないからな。

 とりあえず見かけだけでも……という感じだ。

 土魔法の『造型(クリエイト)』を使えば、それほど難しい事ではない。

 直したのはもちろん……リディアだ。

 ……土魔法は俺よりリディアの方が使えるからな。


 今は、直しきれていない細々としたところを、リディアと一緒にチェックしながら直して回っている所だ。

 「うぅ……シンジさんのばかぁ……ここまでやらなくても良かったじゃないですかぁ。」

 土魔法の細かい操作は苦手らしく、ボロボロと崩れる壁を四苦八苦死ながら修復するリディア。

 半べそをかいているが、元々リディアと国王のとばっちりみたいなものだから自業自得だ……そう言う事にしておこう。

 

 「私の受けた『天啓』の光景そっくりです。隣国でも悪の魔術師でもなく、犯人がシンジさんだったというのはショックですよぉ。」

 「見事に『リディア』のイメージがハマっているわね。」

 エルがそうツッコむ。

 「私の所為じゃないですよぉ……。」

 泣きが入るリディアの手元から壁が崩れる。


 「リディア、そうじゃない……こうするんだ。」

 「うぅ……シンジさんありがとうございます。」

 意趣返しの為に、リディアに王宮の修復をやらせてみたが、意外といい経験になっているようだ。

 泣きながらやってはいるが、修復を始めた当初に比べて、操作の精密さも、使用する魔力量の効率もグンとあがっている。


 暇だから、と着いてきたエルも、風魔法を使って細かい瓦礫を移動させたりしているうちに細かいコントロールが身につきつつあるようだし、怪我の功名ってやつか?


 「でも、シンジさん、あの攻撃は何なんですか?魔獣退治の時は使ってませんでしたよね?……使っていればあれほど苦労しなかったはずですし。」

 リディアが、あの時の攻撃について聞いてくる。

 あの時は、俺も頭に血が上っていたからなぁ。

 「そうね、私も知らなかったわ。あの剣(・・・)の新しい力?それとも新しい能力(スキル)?」

 エルも疑問に思っていたのか、推測を交えながら聞いてくる。


 「両方……かな?」

 あの魔獣退治のとき『魔力喰らい(マナイーター)』の能力『能力喰らい(スキルイーター)』によって取り入れた新しいスキルは二つ。

 ビックタランチュラの持っていた『蜘蛛の巣(スパイダーネスト)』と、ワイバーンの持っていた『龍の咆哮(ドラゴンロア)』だ。

 剣の名称もいつの間にか『亜竜の剣(デミドラソード)』に変わっていた。


 「簡単に言えば、剣に注いだ魔力を圧縮・増幅して打ち出すというものだよ。あの時は頭に血が上っていたから、必要以上に魔力を込めすぎたけどな。」

 大したことじゃないよな?と言うと、エルとリディアは大きく首を振っていた。


 「よく分かりましたよぉ……シンジさんを怒らせないようにすればいいんですよね……はぁ。」

 リディアが大仰なため息をつく。

 「あと少しだから頑張れー。」

 「誰の所為ですかぁ。」

 リディアの声が庭中に響き渡る。

 

 ◇


 ある日、いつもの様に俺が作業場に閉じこもり、エルとリディアが王宮で王妃と御茶を楽しんでいる時に、ギルドから連絡が入った。

 グランベルクからの情報が入ったので、ギルドに来てほしいという事だった。

 俺はエルとリディアに連絡を取り、ギルドへ向かう事にする。


 日常の終わり……そんな言葉が、俺の頭をよぎった。



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