冤罪!?権力は正しく使ってほしいよね。
「ではシンジさん、エルさん、後ほどお会いしましょうね。」
リディアがそう言って、俺達と別れてから三日が過ぎた。
俺達は宿をとり、王都観光をそれなりに楽しんでいた。
武器屋・防具屋、雑貨屋に魔法屋……王都なだけあって数も種類も規模も、何もかもが目新しく、それらを見て回るだけで1日が過ぎていく。
特に雑貨屋や魔法屋には、見た事のない道具や素材、スクロールや書物など、俺の琴線に触れるものが多数あり、そこから動かなくなった俺を、エルがふくれっ面で引っ張り出すという、一幕もあったりなかったり……。
プリンやポテトフライをこの王都で広げるために、市場に屋台を出してみた。
価格の安さと物珍しさが相まって、俺達の屋台には長蛇の列ができ、あっという間に売り切れ、買えなかった客が俺達に詰め寄るという状況になる。
しかし、その騒動を聞きつけた商業ギルドの偉い人が出てきてその場を収め……てくれなかった。
それどころか、無断で店を出したという事で俺達が責められ、慌てて逃げ出したこともあった。
……因みに、後になって、この時購入した客の口から噂が広まり、王族でも食べたことがない幻の料理という事で、プリンとポテトフライの人気が異常に高まったりするのだが、それは俺達のあずかり知らぬことである。
まぁ、そんな感じでそれなりに楽しんではいたのだが、元より何かしていないと落ち着かない二人なので、王都観光もそろそろ飽きて来たし、ギルドでも覗いて依頼の一つでも受けたい所だったりする。
収納に余裕はあるし問題はないとはいえ、例の魔物素材なども買い取りして貰いたいしね。
しかし、その事については別れ際にリディアに止められていた。
「シンジさん、私からの連絡があるまでは、ギルドに行かないで下さい。」
「なんでだ?」
「ミカリウス兄様が言うには、シンジさんが持っている素材を出すと、出所の確認など、必ず大騒ぎになるそうです。またモンスターの襲撃計画があったことは国家機密事項とするそうなので王宮での調整が終わるまでは動かないでいてほしい、とのことです。」
「それってどれぐらいかかるんだ?」
「さぁ、私からは何とも……たぶん2~3日位じゃないでしょうか?」
「……まぁ、出来るだけ善処する。」
「……お願いしますね。」
そんな会話をして、別れたリディアだったが、最後まで不安そうな顔をしていたなぁ。
「うーん、ギルド行は止められてるし、今日はどうしようか?」
エルに今日何かしたいことがないか聞いてみる。
「そうねぇ……商業ギルドに目をつけられちゃったから、市場にも行けないしねぇ。」
エルも、なにも思いつかないみたいだ。
「うーん、他になることもないし、調合とか魔道具でも作るかな?」
「えぇー、それ、シンジはいいかもしれないけど、私がつまんないやつだよね?」
「折角だからエルも魔術書でも読んで勉強とかしてみれば?」
「イヤ!」
即答だった……。
一応勉強とかしてみるのも新しい発見とかあっていいものだよ?……という俺の言葉は当たり前のように無視される。
「はぁ……じゃぁ、帰るか?」
「えっ、でも、それじゃぁ……。」
俺がそう言うと、エルが目に見えてうろたえだす。
「イヤイヤ、元々俺達が先に王都に行って様子を見てから、レムとアリスを呼びに行くって話だっただろ?」
「…………あっ。」
エルは暫く考えてから、ポンッと手を打つ。
……忘れてたな。
「でも、勝手に帰ったら、リディア困らないかなぁ?」
「うーん、よく考えたら、別に褒美が欲しいわけでもないし、お礼を言ってもらいたいわけでもないから、大人しく待っている必要もないって事に今気づいた。」
「そう言えばそうね……私達、何で待ってたんだろ?」
……リディアに待っててくださいねって言われたから待ってたけど、待つ必要性って全然ないよな?
「まぁ、黙って帰るってのもなんだし、リディアに挨拶だけでもしていくか?」
「そうね。そうしましょう。」
俺達は、宿を引き払う準備をすると、王宮に向かう事にした。
◇
「……これはどういう事かなぁ?」
エルが怒っている。
俺達の周りを騎士たちが取り囲んでいる。
その数は大体50人位だ。
「俺達はリディアに会いに来ただけなんだが?」
俺達が王宮につき、衛兵にリディアとの面会を頼んだところ、騎士隊の隊長らしき人が出迎えてくれて、この裏庭まで通された。
そして、周りからわらわらと、騎士たちが出てきて取り囲まれた……という訳なんだが。
「リディア様がお前らごときに会うわけがなかろう!」
「お前らを見かけたら捕らえて投獄せよとのお達しだ!」
騎士たちが口々に言う。
「へぇ……私達を捕らえろってリディアが言ったのかな?それなら御仕置しないとね。」
エルの眼が座っている……リディアがそんな事を言うはずがないと信じたいけど……な。
「煩いっ!かかれっ!」
騎士たちが飛び掛かってくる。
『落とし穴』
俺達の周りの足元に落とし穴を掘る。
穴に足を取られてつんのめる騎士たちに、エルが魔法を放つ。
『光の矢』
光の矢が騎士たちの四肢を地面に縫い付けて動けなくする。
「くそっ!こいつら強いぞ!」
「応援を呼べっ!」
「必ず捕らえよとの命令だ!殺しても構わんと聞いているっ!」
騎士たちが口々に喚いている。
中には物騒なことをいう奴もいるが……リディアの命令だとは思わないが……。
「残念だよ……『電撃網!』」
俺は地面に手をついて魔法を唱える。
俺の手のひらを中心に電撃が蜘蛛の巣のように広がっていく。
周りにいた騎士たちは、皆電撃にあてられ、痺れて動けなくなる。
電撃の魔法とビックタランチュラから奪った『蜘蛛の巣』の合成技だ。
魔獣相手では、足止め程度にしかならないが、人間相手なら十分に戦闘力を奪うことが出来る。
初級の魔法でも、色々と組み合わせを変えることで意外と使えることが多い。
「お前ら、何をやっているんだ!」
襲ってきた騎士たちが、皆地面に倒れ伏したところで奥から一人の男が現れる。
「く、クリモア大臣様……。」
「も、申し訳……ありません……。」
「奴らは……つ、強い……です……。」
騎士たちが、息も絶え絶えに答えている。
「このような平民相手に何をやっておるのじゃ!さっさと捕らえぬか!」
クリモアと呼ばれた男が、騎士たちを怒鳴りつける。
と同時に、城内からさらに騎士が出てくる。
大臣と呼ばれていたから、それなりに権力のある奴なんだろうが……。
「俺達を捕まえるって、お前の指示か?リディアは知っているのか?」
「何をいまさら。命乞いか?そこに這いつくばってみろ。考えてやらんこともないぞ。」
ガハハと、品もなく笑う大臣。
話が通じないな。
俺は誰の指示かって聞いているのだが?
「おぉ、そうじゃ、お前らを捕まえたら、身動きの取れないお前の前で、そこの女をひん剥いてやろうかの。楽しみじゃて。」
ぐふふ……と下衆な笑いを漏らす。
その言葉を聞いて、俺の中で何かが切れた。
「言いたいことはそれだけか?」
下衆い奴の考えることは、どの世界でも同じだな。
俺は収納の中から、作りためておいた手榴弾を取り出し、全部投げつける。
「大臣!」
近くにいた魔導士らしい男が、大臣をかばって魔法障壁を張る。
同じように障壁を張って騎士たちを守る魔導士。
俺は更に爆弾を、火炎瓶を、麻痺瓶を、毒薬瓶をありったけ投げつける。
そして、手のひらに魔力を溜める……。
『炎弾!』
バスケットボール大の火の玉をどんどん打ち出す。
炎弾は火の初級魔法だ。
通常ならそれ程のダメージを与えることは出来ないが、籠めた魔法力が違う。
古代遺跡にあった研究書書類には「魔法はイメージである」という事と、もう一つ「籠める魔力に限界はない」という事が書いてあった。
イメージを明確にすることによって魔法を効率化し、籠める魔力量で威力を調節するという事らしい。
つまり、今俺がやったように、魔力を多く籠めれば、たとえ初級の炎弾でも上級の『炎嵐』を超える威力を出すことも可能だ。
……とはいっても、バカみたいに魔力を消費するのであまり現実的ではない。
エルに言わせると、あの規模の炎弾を1発撃てば、普通は魔力枯渇で倒れるらしいが、俺の魔力量も、どうやら現実離れしているらしいので、あの規模の炎弾を数発撃ってもそれ程消費した感じはしない。
炎弾が撃ち込まれた地面は、高熱によってドロドロに溶けている。
当たった壁はあっという間に炎に包まれ崩れ落ちていく。
障壁を張っている魔術師たちの顔が苦痛に歪んでいる。
一応人に当たらないようにしているつもりだが、……まぁ、当たっても気にしない。
喧嘩を売ってきたのはあっちだ。
殺そうとするのは殺される覚悟があるって事だ。
『次元斬!』
『次元斬!』
『次元斬!』
俺は大臣に向けて『次元斬』を放つ。
魔導士の張る障壁をすり抜けて、見えない刃が大臣を斬り刻む。
大量の血が噴き出すが、急所は外しているのでまだ死なないだろう。
あんな事をしようとする奴は、楽に殺さない。
どうなるかを他の奴らにも見せつける必要がある。
俺は左腕から『魔力喰らい』を抜き出す。
「うぉぉぉぉぉぉ――――――。」
俺は魔力をありったけ『魔力喰らい』に注ぎこんでいく。
『魔力喰らい』の刀身が赤く染まる。
これで終わりにしてやるよ。
俺は『魔力喰らい』を振り下ろし、魔力の塊を大臣たちに向けて放つ。
「ダメぇ!」
振り下ろす瞬間、エルが飛び込んできて俺を止めようとする。
「バ、バカッ!」
俺は慌てて剣を止めようとするが間に合わない。
辛うじて射線を逸らすのが精一杯だった。
放たれた魔力の塊が大きな炎となり、王宮にあたって半壊する。
「シンジのバカッ!アンタ、やり過ぎよっ!」
俺にしがみついてそんな事を言うエル。
エルの声を聴いて、泣きそうになっている顔を見て、ようやく頭に上っていた血が引いていく。
「シンジのばかぁ!」
エルはそう言うが……。
「だって、あのバカがあんなことを言うから……。」
俺は血だるまになっている大臣を指さして言う。
「だからってやり過ぎは良くないわよ。大体あの規模の魔法が当たったら、この辺りにいる人たち皆死んじゃうわよ。あの騎士たちだって、命令に従っているだけなんだから殺すこともないでしょう。」
すでに戦意喪失してるんだから、とエルは言う。
エルの言葉を聞いて、項垂れる騎士たち。
「……奴らだって、命令に従った時点で死ぬ覚悟位はあるんだろ?バカの命令に従ったんだ、自業自得だよ。」
「でも……。」
俺の言葉に、言い返せないエル。
バカな命令をする上司に仕えた時点で諦めてもらうしかないな。
「彼らに罪はありません。責を負うべきは命令を下したもの……そしてそれを止めることが出来なかった私達にあります。」
いつの間にか、リディアが俺達の前に立っていた。
「リディア、一つ聞きたい。……お前の差し金か?」
「違います……違いますが、大臣のやった事の責は、王族である私達の責任です。……私はどうなっても構いませんが、騎士たちの責を問わないで頂けませんでしょうか?」
リディアが、決意を込めた目で俺を見てくる。
「……リディアが責任を取るっていうのは違うんじゃないか?」
王族とは言え、まだ成人にも満たたない、しかも第三王女という継承権も低い立場の彼女より、責任を負うべき人物は他にいるだろ?
「その通りじゃ!」
俺の言葉を引き継ぐかのように、リディアの後ろから声が聞こえる。
まだ収まりきらない土煙の所為で、姿がよく見えないが……。
「シンジ殿、エルフィー殿、私の対応が遅れたせいで不快な思いをさせてしまったようだ。大変申し訳なく思う。どうか許して欲しい。」
そう言って頭を下げるのは、リディアの父親……この国の国王フィリップ24世だった。




