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人の夢と書いて儚いって読むんだよ。

 「ようやく着いたな……。」

 「そうね、ここがミアンの街よ。王都の次に繁栄している街だわ。」

 エルの説明によると、このミアンの街は王都を中心とした直轄領の外れにあり、いくつかの領地と接している為、各領地と王都を行き来する者たちが必ず立ち寄る場所として栄えているそうだ。


 「まずは金策だ……どこで買い取ってくれるかな。」

 俺は手にした薬草類に目をやる。

 エルとの会話で、俺達が一文無しと発覚したため、道中で採集してきたものだ。

 エルは巫女としてポーションや聖水などの調合もするらしく、薬草類に関しては詳しかったのが幸いした。

 しかし、そんなエルでも、街中での売買など市井の者たちの営みには疎い為、あてにならない。

 たとえ異世界ではあっても、一般人だった俺の方が、まだマシだろうと思い、街中では俺が主導を握ることになっている。

 「なぁエル、この世界……ココにもハンターとか、冒険者とか呼ばれる職業はあるのか?」

 「あるわよ、私もよく知らないけど、ギルドで丁寧に説明してくれるって聞いたわ。

 「じゃぁ、まずはそこだな。」

 俺達は、街行く人からギルドの場所を聞き出し、そこへ向かうことにした。


 ◇


 カランカラーン……。

 俺が扉を開けると、軽いベルの音が響き渡る。

 ギルドに併設されている酒場にいた奴らが、俺達を値踏みするように見ている。

 俺は敢えて気付かない振りをしながら、ギルドの受付に向かう。

 

 「いらっしゃい、初めての方ですね。」

 受付のお姉さんがそう声をかけてくる。

 「あぁ、冒険者登録したいんだが……。」

 「そうですか、ではこちらへ……詳しい説明をさせていただきますわ。」

 受付のお姉さんに促され、奥の部屋へと進む。

 どうやら、俺達が「訳アリ」と言うことも分っているらしい。

 酒場にいる奴らから隠すために奥へ誘導されたのだろう。


 「では、この自由国際連盟……通称「冒険者(フリーターズ)ギルド」について説明させていただきますね。」

 お姉さんの説明は、俺の知識にあるモノと酷似していたので、すんなりと頭の中に入ってきた。

 まぁ「フリーター」という語句に抵抗はあったが。


 一つ、自由国際連盟は国家に属さないため、各国への出入りが自由であること。

 代わりに国家の庇護を受けられないという事も意味する。

 一つ、フリーターの詮索の禁止。

 其々、隠しておきたい過去などもあるため、犯罪に与しない限り各個人の過去や能力についての詮索はタブー。

 一つ、クエストと呼ばれる依頼によって、フリーターの生計は成り立つが、必ずギルドを通して受ける事。

 ギルドを通さない依頼で何があってもギルドは関与しない。

 犯罪に与する場合はギルド自ら追手が差し向けられる。

 一つ、ランクが上がると、ギルドや国からの「強制依頼」が発注される場合がある。

 これは、余程の事がない限り断ることはできない。


 そのほか、細々とした注意事項を聞かされる。

 「ギルドの方針や注意事項などは、こんなところだけど、大丈夫かしら?」

 お姉さんが聞いてくる。

 俺はエルと顔を見合わせてから「大丈夫です」と答える。


 「そう、じゃぁ手続きに入る前に、もう少しだけ説明させてね……。

 フリーターには各ランクがあって、ランクが上がるにつれて受けられる特典も増えていくわ。

 最初は皆Fランクから始めてもらうんだけど、中には当初から上位ランカー並みの力を持っている人もいるから、登録後試験を受けてもらって正式なランクが決まります。

 フリーターとなった後は、各依頼をこなしてもらう事で溜まる貢献度と実力を見ながら申請によってランクアップする事が出来ます。

 後、初登録の際と、ランクアップの際は事務手数料がかかりますのでご了承ください。」

 

 長々とした説明が終わりようやく手続きに入るが……。

 「あの、俺達今手持ちがないので、これを買い取ってもらってそこから差し引くという事は出来ますか?」

 そう言って俺は採集してきたものを出す。

 「未登録者からの買い取りは、かなり買い叩かれますけど……仕方がないですね。私の方で何とかしておきましょう。……では、ここに手をかざしてください。」

 そう言って水晶を差し出す受付のお姉さん。


 まずは俺から……と、出された水晶に手をかざす。

 掌から淡い光が……やがて水晶全体が紫色に輝きだす。

 そしてその光が集束し、横に置かれた銀色のカードへと吸い込まれていく。


 「ハイ、大丈夫です。では次はエルフィーさんね。」

 エルも俺と同じように、水晶に手をかざすと、やはり同じように水晶が輝きだす。

 俺と違うのは、光の色が、エルの場合は淡い水色っぽいような金色っぽいような、そんな感じの輝きだったことだ。

 そして、同じく銀色のカードに光が吸い込まれていく。


 「はい、これで無事に登録できました。これがギルドカードになります。報酬の受け取りも支払いもこれでできますので、紛失にはくれぐれも気を付けてください。」

 お姉さんは俺にカードを渡すときにこっそりと「大変ですね、頑張ってください」と耳打ちしてきた。

 これは、正体がバレているって事なんだろうか?


 そして俺達は隣の部屋へ移動する。

 受付のお姉さんの人の好さに付け込んで、エルが借りた部屋だ。

 二人きりではなく、受付のお姉さんがついてきているが、1時間ほどは貸し切りにしてくれるらしい。

 エルが部屋を貸して欲しいと言った後、何故が真っ赤になり、それにつられて受付のお姉さんも顔を赤くしていたが……まぁ、変な誤解もされずに借りれたので良しとしよう。


 エルが部屋を借りたのは、道中話をしていた俺の空属性について調べるためだ。

 何でも、系統外属性を調べるには専用の魔晶石が必要とかで、買えば高くつくのだが、ギルドには検査用に常備してある。

 それを借りようというのだから、中々ちゃっかりとしたものだ。


 「じゃぁ、これを握って、そっと魔力を流してみて。」

 俺はエルの差し出した魔晶石を握り、言われた通りにゆっくりと魔力を流していく。

 魔力の操作の基本は、昨晩エルに教えてもらった。

 体内を血液が流れるように、魔力というエネルギーも、体内を巡る……その流れを感じ取り、望む方向へと流れを変えてやる……ゆっくり、ゆっくりと……。


 「それ位でいいわよ。」

 エルからストップがかかり俺は魔晶石から手を離す。

 エルは魔晶石を取り上げ見つめている……。

 やがて、魔晶石から眼を離すと「ハァー……。」と大きなため息をつく。

 「信じられないわ。空属性と混沌属性を持ってるわね……あなた、本当に人間?」

 「まさか、本当に空属性を?」

 受付のお姉さんも驚いている。

 「シンジ、何か空間魔法使ってみてよ……そうね『空間転移(ディジョン)』あたりなんてどう?」

 「どう?って言われてもなぁ……どうやって使えばいいか分からん。」

 「えっ?普通は自然とイメージが湧くものですけど?」

 受付のお姉さんがそう言ってくれるが……どうすればいいんだろうか?


 「仕方がないわね……シンジ、こっちへ来て。」

 俺は言われるままエルの前に立つ。

 「手を出して……そう、私の手と重ねてね。」

 エルに誘われるまま、手のひらをエルの手のひらと重ねる……。

 「そのまま……お、おでこを出して。」

 エルの声が裏返る。

 ここまで接近しているんだ……俺だって気恥ずかしい。

 エルの顔が目の前に来る。

 最初に見た時も思ったが、改めて見ても、やっぱり可愛いと思ってしまう。

 まぁ、貴族、王族なんてものは、昔からイケメン・美女揃いと相場が決まっている。

 何でも、代々権力によって美女を娶るため遺伝的に美男美女が生まれるんだとか。

 エルのアップの顔を見て動揺しているのか、どうでもいい事ばかりが頭をよぎる。


 エルが自分の額を寄せてくる……。

 「何も考えないで、体内に流れる魔力を感じて……。」

 エルが真っ赤な顔をしながら、震える声でそう言ってくる。

 俺は雑念を追い払い、言われたとおりに、魔力を感じることに集中する。


 繋がれた手から、接触しているおでこから、エルの魔力が流れ込んでくるのが分かる。

 暖かくて優しい……普段のつんけんとした態度に隠されている優しさがエル本来の性質なんだろう。

 魔力を感じていると、それがよくわかる。

 そして、身体の隅々まで魔力が行き渡ると脳裏に何やらイメージが浮かんでくる……これは一体……。

 そのイメージに集中した途端、俺は理解した。

 言葉にすると『閃いた!』というのが一番近いだろうか。

 とにかく、ある瞬間を境に、俺は空間魔法というものを理解したのだ。

 全体を見通す力、空間を自在に移動する力、何もない空間に力場を発生させたり、空間そのものを動かしたり……これは確かに凄い力だ。


 「理解できた?」

 エルがゆっくりと俺から離れて聞いてくる。

 見上げるその顔は、耳まで真っ赤になっている。

 受付のお姉さんの方を見ると、そんなエルを微笑ましそうに見ている。

 「あぁ、理解できた……凄い力だよ。ありがとう。」

 俺は、閃いたイメージを反芻しながら考える。

 この力は反則……まさに、チート能力と言っていいだろう。


 空間転移を使えば、いつでもどこにでも一瞬で移動できる。

 つまり、どんな敵が来ても逃げることは可能だ。

 一瞬で後ろを取ることだってできるしな。

 

 それに次元斬……空間そのものを斬り裂くため、どれだけ物理防御を固めても、どれだけ魔法のレジストを頑張っても意味がない。

 それこそ、伝説のドラゴンですら斬り裂けるのではないだろうか?


 他にも空間を動かすとか……疑似的なサイコキネキスみたいなもんだし、空間の位相を歪めれば、この世界から傷をつけることも出来ない……。


 ずっと俺のターン、キター――――――――!


 はぁはぁはぁ……やべぇ、興奮しすぎたかも。


 我に返り周りを見てみると、ドン引きしているエルとお姉さんの姿が見えた。


 ◇


 「じゃぁ、試すからな!」

 まだ、時間もあるという事で、俺達は空間魔法の使用実験をすることにした。

 まずは『空間転移(ディジョン)』だ。

 とりあえずなので、ギルドの裏へ移動することにする。

 飛ぶ先を強くイメージするか、脳裏に浮かぶ座標を決めることで行先を決めることが出来る。

 俺は、窓から見たギルドの裏を強くイメージして、力ある言葉を唱える。


 『空間転移(ディジョン)


 俺の視界から一瞬すべてが消え、すぐに視界が戻ってくる。

 よし成功だ!

 俺は周りを見ると……ビックリした目で俺を見ている二人の姿が目に映る。

 「あれ?」

 ギルドの裏に移動したなら、二人の姿は見えないはずだ。

 それに、よく見ると周りが何も変わっていない。


 『空間転移(ディジョン)


 失敗したかと思い、再度唱えてみる。

 一瞬で視界が切り替わる……が、見えている風景に大差はない。

 俺は、すべてを見ていたはずの二人に声をかける。

 「なぁ、俺は失敗したのか?」

 俺の言葉に、二人は顔を背ける。

 「なぁ、どうなったんだよ?」

 体に残る倦怠感は、大量に魔力を消費した反動だ。

 魔法そのものは発動しているはずなんだが。


 「えーとね……転移は成功したよ……うん。成功した。」

 「ただ、その……大変申し上げにくいのですが……移動先が1M程先と……。」

 途切れ途切れに言うエルとお姉さん……俺とは目を合わせようともしない。

 「そうだ、俺と空間転移の相性が悪かったんだよ……そうに違いない。別のを試せばわかるはずだ。」

 俺はお姉さんに言って、的を用意してもらう。

 ランクアップ試験に使う鎧を着せた人形(デコイ)だ。

 俺は、そのデコイに狙いを合わせ集中する。


 『次元斬(スラッシュ)!』


 ピシッ!

 微かに、何かが斬れる音がする。

 俺はデコイを見るが何の変化も見られない。


 『次元斬(スラッシュ)!』

 『次元斬(スラッシュ)!』

 『次元斬(スラッシュ)!』


 俺はスラッシュを立て続けに連発する。

 右から、左から、真横を薙ぐように……。

 しかし、デコイが倒れる様子はない。

 俺達はデコイに近づき、調べてみる……。


 確かに魔法は発動していた。

 アダマンタイトとミスリルの合金でできた鎧……普通の攻撃では傷一つつかない筈の鎧か斬り裂かれている……10㎝程。


 俺はその後も様々な魔法を試してみる。

 空間の入れ替え……例えば、部屋の空間を海の底へ移動させる魔法だが……入れ替れたのは1㎥の範囲だけ。


 空に力場を作る……人が乗っても大丈夫な力場を発生させ、空を自在に駆け回る魔法だが……0.5㎡程度の力場しか作れず、スペース的に人が乗るには不安定。


 空間を歪ませ、物を動かす……手を使わずに離れたものを自在に動かす魔法だが……手で持てる程度の大きさのものを50㎝程度動かすのが精いっぱい……。


 俺のターン、オワタ……orz。

 しばらくして、がっくりと項垂れる俺の頭を、ポンポンと叩くエルがいた。


 ◇

 

 「伝説の空間魔法……ねぇ。」

 「全属性に加えて系統外を2つ持ってますから……魔法が発動しただけマシじゃないでしょうか?」

 「そうよね……あ、この事は……。」

 「分かってます。一応マスタには報告の義務があるのでお伝えしますが……ショボい空間魔法の事は下手に広がると笑い者になるだけですからね。」

 うぅ……ショボい言うなよぉ……落ち込む俺の傷口に塩を塗るような会話を続ける、エルとお姉さん。

 空間魔法というチート能力で、異世界を満喫!?ウハウハな人生を送る?……全ての野望が泡となって消えていく……。

 「いつまで落ち込んでいるのよ!さっさと出るわよ。」

 「あぁ……。」

 俺は足取りも重く部屋を出て行こうとするが……。


 「あー、あー、これは私の独り言です。誰も聞いていないからいいですよね。」

 受付のお姉さんがいきなり訳の分からないことをしゃべりだす。

 「最近王都でよくない噂が流れています、特に王族に関して色々な情報が錯綜しています、心配ですね。しばらくは王都方面は近寄らないようにしなきゃいけませんね。」

 エルは最初怪訝そうな顔をしていたが、お姉さんの言いたいことを理解したようだ。

 「ありがとう……。」

 「え?なんのことですか?あ、嫌だなぁ、独り言聞かれちゃった?恥ずかしいからナイショにしておいてくださいね……エルフィーネ様。」

 俺達は、ニコニコしてる彼女にお礼を言って部屋を後にする。


 ◇


 「二部屋を……。」

 「一部屋でいいわよ!」

 俺の声を遮り、さっさと決めてしまうエル。

 とりあえず今夜の宿を決めようと、ギルド推奨の宿屋に来たのだが、俺が気を使って二部屋を取ろうとしたところでエルに止められてしまった。

 「そんなに余裕あるわけじゃないし、もったいないでしょ。」

 確かに、ここの宿泊代は1泊、大銅貨2枚、食事別と意外とリーズナブルだが、現在の所持金は銀貨1枚と大銅貨4枚……確かに一部屋でいいなら助かるのだが。

 「いいのか?」

 「いいって言ってるでしょ!さっさと行くわよ!」

 

 部屋に入ると、それほど広くはないが、清潔感溢れる小綺麗な印象を受けた。

 「とりあえず汗を流してくるか。」

 この宿屋は珍しく、浴場設備があり、銅貨3枚で使用することが出来る。

 エルもさっぱりしたいだろうから、ここはケチるつもりはない。

 「そうね、さっぱりしたら、食事に行きましょうか。」

 エルも異存はないようだ。


 ◇


 「明日からの事だけど……。」

 食後、部屋に戻ると、エルがそう切り出してくる……どうする?と……。

 「あぁ、とりあえずは金策だな。朝一でギルドに顔を出して適当な依頼を受ける。それをこなしつつ、必要なものを揃えたり情報を集めよう。」

 俺は手持ちの銅貨をすべて出して、エルに見せる。


 先ほど、食事のついでに着替えなど必要最低限の物を買いそろえた為、残りは大銅貨2枚と銅貨4枚しかない。明日の宿代を払ったら、食事すらできなくなる金額だ。

 街で買い物をしていて驚いたのが、エルが意外と経済観念がしっかりしていることだった。

 普通、王族とか貴族は、庶民とは違う金銭感覚のはずなのだが、エルはそう言うことは無く、逆に、無駄なもの、必要なものの区別をハッキリできる、しっかりとした経済観念を持っていた……謎の多い王女である。


 「そうね、この後の事も考えると1週間で、小金貨2枚ぐらいは稼いでおきたいわね。」

 エルの目算では、中々厳しいものがあるが、最低限の装備や着替え、旅の準備品などを買い揃えると小金貨2枚なんてあっという間に吹き飛ぶ。

 宿代や、その後の路銀まで考えたら、最低限小金貨5枚は稼いでおきたいところだ。


 「その為にも、仲間の事は知っておきたい……エルは何が出来るかを聞いてもいいか?」

 「情報のすり合わせは大事よね。私もあなたに聞きたいことがあるし……。」

 そして俺達は、今更ではあったが、お互いの事を話しあう。

 

 「……つまり、エルは補助、回復メインって事になるか。」

 「そうね、一応風と水は中級までは扱えるから、Dランク位の魔物ぐらいなら、何とか撃退できるってところかな?まぁ、相手がアンデットだったら、もう少し上のランクでも大丈夫だけど。」

 エルの属性は水と風と光、それに加えて聖属性を持っている。

 中でも得意なのが神聖魔法と光魔法らしいので、攻撃より、補助・回復に回ってもらうのが効率がいいんだが……。

 そうなると前衛に出るのが俺という訳で……戦い方なんて知らねぇよ。

 「まぁ、武器・防具を手に入れるまでは、採集中心の依頼を受けるだな。」

 「そうなるよね。」


 その後も、俺達は色々な事を話した。

 エルの母親は身分が低いのだが、王の寵愛を受けすぎたために、母子共々、王宮内で厄介者扱いされていること、身の安全の為に神殿に駆け込んだはずなのに、何故かそこで重宝されてしまい、姫巫女として不動の人気を得てしまったことなどを話してくれた。

 俺も、実はこの世界じゃない別の世界から来た事を話す。

 一笑に付されるかと思ったが、素直に信じてくれたので、逆に不安になったほどだった。


 「だって、ねぇ?私にそんな話して、シンジに何のメリットもないじゃない?それに、こことは違う別の世界から来たって事を信じれば、色々なことに納得がいくのよ……ふぁぁぁ……。」

 エルの眼がトロンとしてくる……まぁ、ずっと歩いていたしな。

 「そろそろ寝るか……エルはそのベット使えよ。」

 俺はエルにベットを譲り、床に寝ようとするが、エルに腕を掴まれ、ベットに引きずり込まれる。

 「だぁめぇ―、シンジも……一緒にぃ……寝るのぉ……疲れて……。」

 エルが起きていられたのはそこまでだった。

 しかし俺の腕を握ったまま離さない。

 無理やり引きはがすことも出来るが、それはしてはいけないような気がした。


 俺はエルをベットの奥へと押し込み、自分のスペースを確保する。

 まぁ、俺だって疲れてはいるんだ。

 ベットで寝れるなら寝たいと思う。

 エルが掴んでいた腕はいつの間にか手を握る形になり、俺はエルと手をつないだまま眠りにつく。


 意識を落とす前に俺が考えていたのは、俺自身の力……空間魔法についてだった。

 エルは、夢での事には意味があると言った。

 夢の中でミカ姉はエルを助けろと言った。

 だったら、この空間魔法を俺が得た事には何か意味があるはず……。

 というより、意味があって欲しいと切に願う。

 そんな事を考えているうちに、いつの間にか、俺の意識は深い闇へと落ちて行った……。 


   


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